すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【W杯アジア2次予選】やっと日本のW杯予選が開幕した 〜アフガニスタン0-6日本

2015-09-09 07:56:39 | サッカー日本代表
10点以上は取れた拙攻のオンパレード

 前半10分、香川はファーストタッチでゴールの方へ鋭く反転し、低い弾道の美しいミドルシュートを決めた。ワールドクラスだった。この日が「香川の日」になった瞬間だ。チームも開始早々の香川のあのゴールでぐっと上昇気流をつかめた。シンガポール戦で最初のシュートが決まらず気持ちが腐って行ったのとは対照的だった。ハリルジャパンの命運は、良くも悪くも香川のメンタルにかかっているーー。そんな象徴的なゲームだった。

 ただしこの試合、決めるところをしっかり決めていれば前半だけで5〜6点取れた。後半も合わせれば10点以上は入っていたはずだ。にもかかわらず、あれだけ力のちがう相手にカウンターを食らい致命的なピンチを招くなど、決して手放しでは喜べない。

 マスコミは「大勝だ!」と浮かれ騒ぐのだろうが、もともと高校のサッカー部とセリエAのチームくらい力の差があるのだ。むしろ前半でしっかり6点取り、後半の頭から控え選手のテストに使えなかったことを反省すべきだ。現に武藤と遠藤航の途中投入は後半も残り10分、15分だった。あれでは遅過ぎてテストにならない。

カウンターのチャンスに「遅攻」してしまう悪いクセ

 アフガニスタンは日本ボールになると全員が自陣に引き、カウンター狙いのサッカーをした。ただしマイボールになると前に人数をかけて攻めてきたため、日本は自陣でボールを取れれば相手陣内にできたスペースを逆用できた。

 にもかかわらず日本は自陣でボールを取ると、意味もなくタメてボールを後ろに下げ、遅攻にしてしまった。せっかく相手が前に残ってくれているのに、ずいぶん控えめな遠慮深さだ。このところ引いて守る相手ばかりですっかり遅攻モードになっているのだろうが、攻守の切り替えが致命的に遅い。ボールを奪ったら(どんな状況であろうが)いったんひと休み。この悪いクセは直さないとダメだ。ポジティブ・トランジション(守→攻)がなってない。ポジトラの質が高ければ、カウンターからの速攻でもっとゴールを取れた。この点は肝に銘ずべきだろう。

 ただし日本はボールを奪われると、その場で激しくプレスをかけるゲーゲンプレッシングをあちこちで展開していた。ネガティヴ・トランジション(ボールを奪われたあとの守備への切り替え)の意識は高くなってきた。これは大きな収穫だ。

日本は「ふつうにやれば」これくらいはできる

 だがそもそも舞台は「たかが」アジア2次予選だ。日本は「ふつうにやれば」このくらいの試合はやれる。むしろシンガポール戦とカンボジア戦が異常だったのだ。その点は強く留意すべきである。

 あの少年サッカー団なみのレベルのカンボジア相手に、まるでドイツと戦っているみたいにガチガチに肩の力が入る。緩急もへちまもなく、バタバタ焦ってプレイしてしまう。で、実力を発揮できない。こんなメンタルの弱さでは先が思いやられる。

 その象徴は先制の美しいミドルシュートを叩き込んだ香川だ。彼は早めに点が取れてプレッシャーから解放され、やっと本来のプレイができた。ファーストタッチで鋭く反転しシュートに行くなど、持ち前のアジリティが炸裂していた。香川がふつうに機能すれば、ごく当たり前にあれくらいはやれる。逆に言えば、彼はどれだけメンタルの弱さで自分に足カセをハメているか? という話だ。今後の課題だろう。

芝が長くロングボールが止まった。なぜ活用しないのか?

 さらにいえばこの試合、選手めいめいが注意深く観察すれば重要なポイントが2つあった。まず1点目はフィールドの芝が長いため、ロングボールが地面で弾むとすぐボールが止まった点だ。つまり前のスペースめがけてロングボールを入れてもラインを割らない。そういう攻めが通用した。

 にもかかわらずこの点にだれも気づかず、スペースへ落とすロングボールを有効に使うシーンがほとんどなかった。(ただし人に当てるロングボールに関しては、森重が何本も精度の高いロングパスを出していた)

 もう1点は審判のジャッジの傾向だ。この日の審判は、人が倒れると自動的に必ず笛を吹いた。逆にいえば「倒れさえすれば」ファウルがもらえた。レベルの低い審判だ。だがそんな審判の特徴を見抜き、ファウルを誘う頭脳プレイをしていたのは原口ただ1人だけだった。

 2アシストの原口は思い切りがよく、ダイナミックに左サイドを切り裂いた。ギラギラと燃えたぎる野獣だった。またドリブルで突っかけては相手の足が引っかかると、審判からファウルを「誘った」。そんな原口を思い切ってスタメンに抜擢したのは、ハリルのファインプレイだった。

 一方、後半20分、GKの西川は相手のコーナーキックをキャッチするや、素早く前の味方へナイスフィードし、カウンターのきっかけを作った。ビッグプレイだった。相手CKのときには当然、敵の選手は日本陣内にいる。自陣はお留守だ。そんなときGKが1人目のビルドアッパーになり、カウンターを仕掛けられると理想的だ。GKがビルドアップの起点になるプレイは、カウンター攻撃を標榜しているハリルジャパンのカギになる。西川はあの好フィードを今後も忘れないでほしい。

2次予選を「練習試合」としてチームの強化に使え

 そのほか選手別に見て行こう。

 本田はゴールラインにアウトしかけたボールを倒れながら残し、2点目のアシストにつなげた。また自身でゴールした6点目も倒れながらカラダごと押し込んだ。彼は決して本調子とは言えなかったが、「気持ち」でカラダが動いていた。自分やチームが苦しいときにきっちり結果を残す。非常にプロらしい仕事をした。

 一方、宇佐美も鋭い突破とセンタリングで6点目をアシストするなどデキがよかった。だがあくまで後半25分からの途中出場であり、控え目に見る必要がある。彼の課題はスタメンでバテずに働けるかどうか? このままでは「代打」専門のジョーカーにしかなれない。

 また後半34分に長谷部と交代でボランチを務めた遠藤航は、短い時間だったが対人プレイにめっぽう強いところを見せた。相変わらず「大器」の片鱗を漂わせていた。この日、本当ならスタメンは長谷部でなく遠藤を頭から使ってほしかった。

 このほか岡崎はデキが悪いながらも、しっかり2点取るあたりはさすが。一方、長谷部は前半6分にゴール前へ侵入し、右サイドからのクロスを胸トラからシュートするなど攻撃的に前へ上がるプレイをしていた。彼が攻めると形になる。ベテランの力の大きさを感じた。

 さて、やっとW杯予選が「開幕」した日本。この日の結果に後押しされ、あとはすんなり行くのかどうか。繰り返しになるが、最終予選まではもう1年しかない。ゆえに2次予選は「練習試合」としてチームの強化に使いたい。相手が弱い2次予選ではなるべく早い時間帯に大量得点し、後半は控え選手のテストに使う。そんな「付加価値」のついた形で勝たない限り、「ただ勝つ」だけでは意味がない。「大勝だ!」などと浮かれることなく、2次予選は有効な使い方をしたい。

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