すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【W杯アジア2次予選】カンボジア戦で見せた2トップへの模索

2015-09-05 09:48:42 | サッカー日本代表
宇佐美と武藤嘉紀の共存を図る狙いか?

 カンボジア戦直後に書いた記事ではまたもや頭に血が上り、狼藉を働いてしまったので懲りずに反省し、もう一度カンボジア戦の映像をじっくり見直してみた。すると前の記事では見えてなかったことがいろいろわかったのでレポートしよう。

 まず前半の日本は「勝ちたい気持ち」に急き立てられるかのようにバタバタと試合をした。リズムにまったく緩急がなく、やたら直線的にクロスを立て続けに入れる攻撃に終始した。前半は右サイドからの攻めがメインだった。

 もちろん引いた相手にクロスを入れるのはいい。だが問題はやり方だ。ゴール前には「クロス待ち」の日本選手が4〜5人も完全な棒立ちで待っており、クロスを呼び込む動きがない。ファーに流れる、ニアに詰める、少し下りてゴールから遠ざかる動きをするなど、動きながらクロスを受ける迎撃パターンが少なかった。また中央でクサビをもらうときも足が止まりがちで、張り付いたマーカーに前に出てカットされたりしていた。入ってくるクサビに対し迎え入れる動きがなかった。

 相手ペナルティエリア内は、またも東京の朝の山手線並みの混雑ぶり。シンガポール戦の後半とまったく同じ展開だった。

左サイドに起点ができバランスが取れた後半

 これらの問題点が後半には修正された。香川が左に張り出したこともあり、前半とは逆に左サイドに起点ができるようになった。全体にバランスがいい。カンボジアの疲労が蓄積するのと相対的に、日本は点を取ってリードでき、精神的な余裕ができたのが大きかった。逆に言えばこのチームは追い詰められて余裕のない状態のとき、きっちりサッカーができるかどうかが問われている。

 また後半、ハリルは2トップを模索していた。東アジアカップの中国戦でも試す予定だったテストだ。この試合に先立ち、ハリルはクロアチア紙『インデックス』の取材に応え、「システム変更を検討している」ことを明かしている。具体的には香川を左SHに回し、武藤と岡崎を2トップとする4-4-2を試した。その後、途中投入した興梠と宇佐美の2トップのような形にもトライした。

 武藤はたまたま機能しなかったが重要なトライだ。ブンデスリーガで台頭してきた武藤と、宇佐美は左SHでポジションがかぶる。で、ハリルはおそらく彼らを共存させるため、どちらかのFW採用を目論んでいるのだろう。(個人的には運動量のある武藤をSHのほうがいいと思うが)

クロスで魅せた酒井、本田とのコンビネーションもよくなった

 さて次は選手別に見て行こう。

 まず目を引いたのは右SBの酒井宏樹だ。彼は精力的にオーバーラップしていた。この日のようにアグレッシブなプレイをしてくれれば文句ない。同サイドの本田とのコンビネーションも、ほとんど連携がなかったシンガポール戦とくらべ見違えるようによくなった。あとはクロスの受け手の工夫と意思の疎通だろう。

 酒井はカラダが非常に切れており、クロスの精度も7割方よかった。特に立ち上がり、一発のロングボールでサイドを変えるすごい精度のサイドチェンジのボールを入れていて驚いた。あのボールはまちがいなくワールドクラスだ。

 その酒井とからんだ本田は、まったくノーステップでも強いシュートが打てていた。やはりモノが違う。インテンシティの塊のような選手だ。またこの日は同サイドの酒井をうまく使っていた。シンガポール戦とは打って変わって2人はリスペクトしあい、本田は機会さえあればオーバーラップする酒井にボールを出した。おそらく2人の連携がまるでなかったシンガポール戦後、ハリルに指導されたのではないか?

山口と武藤はそれぞれ課題が見えた

 一方、山口蛍は中央で起点になるいい働きをしていたが、ミドルシュートに関してはデキが悪かった。5本くらいを月に向かってハデに打ち上げていた。代表選手としては、あんな精度のフィニッシュはいただけない。もっと低い弾道でボールを抑えて打ち、絶対にワクへ飛ばしてほしい。そうすればシュートのリバウンドを拾ってまた攻めが続く。

 また彼は気持ちがあまりにも入りすぎ(そこが彼のよさでもあるのだが)肩に力が入りすぎた。もっと(いい意味で)「抜いて」プレーすることも覚えてほしい。彼のことだ。もっと経験を積めばこなして行くだろう。

 スタメン出場し宇佐美への「挑戦権」を得た武藤は気持ちがはやり、どうも終始バタバタしていた。カラダはすごく切れているが、気持ちが前へ行きすぎてチャンスを活かせなかった。せっかくのスタメンをもらえたのにモノにできなかったのは痛い。あれでは宇佐美にすぐポジションを奪われてしまう。将来有望で力のある選手だけに、ぜひ捲土重来を期待したい。

途中出場の宇佐美は「異次元空間」を作った

 その対抗馬である宇佐美は途中出場した。彼のシュートはことごとくワクへ行っていた。シュートの精度はやはりチーム1、2だ。またゴール前で精力的にパス&ゴーし、突破する動き、ワンツーなどの仕掛けもよかった。彼がボールをハタいて走ると、必ずボールがまた自分に返ってくる。周りが宇佐美の意図をよく理解しており、香川などとのコンビネーションがよかった。

 宇佐美は周りの選手を巻き込み、彼の周囲にはものの見事にそれまでの試合展開とはまったく異質なフットボールのスタイル展開が醸造された。1人の選手がこれだけチームを変えられるのか? と感心した。道理でハリルは宇佐美と心中したくなるはずだ。彼はこの日、もっと時間をもらえていたら「何か」を起こせていたかもしれない。

 このほか吉田のミドルシュートは見事のひとこと。岡崎はコンディションが悪く、かたや長友は監督にアピールしようとやや空回りしている感じがした。運動量はすごかったがクロスの質は悪かった。香川はボールコントロールとセンスは文句なし。あとはメンタルだけだ。また思い切りのいい原口は、ぜひもっと長時間見てみたい気持ちにさせられた。

長谷部は漬物石、こういう機能の選手も必要だ

 攻撃面で機能しなかったとの声もある長谷部は、あくまで漬物石の役目だ。無難にバランスを取っていた。チームにはこういう機能の選手も必要なのだ。ただボランチの組み合わせ的には、山口蛍とでなく攻撃的な柴崎あたりとのほうがバランスはいいような感じはする。

 森重は2本ほどあった長いシュートがワクへ行っていれば。球質は非常によかった。最後に西川はプレイ時間が少なく参考外だ。次の試合では持ち前のフィードからの質の高いビルドアップを見せてほしい。

 以上、試合直後に書いた記事では例によって頭に血が上り、「本田以外、まったく見るべきものがなかった」などと書いたが潔く前言撤回したい。いつものことだが申し訳ない。

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