2015-01-15 06:47:14 | ブログ
だれか子猫のりりを知らないか(リリの失踪) 麻屋与志夫
1月15日(昨日14日の出来事)
あわただしく朝食をすませた。
「いまいけば、朝一番に診てもらえるわ」
カミサンが、手提げ袋を持ってきた。
「リリに、餌はやらないほうがいいのかな」
「不妊手術だから、食べさせないでいきましょう」
リリは恨めしそうにわたしの手もとをみている。
跳び上がる。
わたしはリリの餌皿をタンスのうえに置いた。
「袋にいれたのでは可哀そうだわ。抱っこしていきましょう」
「コマ紐でつないでいこうか」
「だいじょぶよ。ミユもブラッキもかかえていったじゃない」
「わたしが抱っこしていく」
門のところで交代した。
かみさんは毛布を用意してきていた。
リリは不安そうに、でも「ンン」とカミサンのかおを見上げて鳴いた。
リリはなぜかニャオと猫の鳴き声が出ない。
生後三月ぐらいで、わが家の玄関に迷いこんで来たのだった。
「こんなにおおきくなって、もう赤ちゃんうめるものね」
「ごめんな。パパに働きがあれば何匹でも赤ちゃん産んでいいのに」
そのかわり、リリとはずっと一緒だからな。
あと、20年は長生きしないとな。
カミサンはリリにほほを寄せて歩きだした。
わが家の前の袋小路から――。
青空駐車場を横切って通りにでた。
大通りの方ですごい音響が高鳴る。
道路工事をしていた。
騒音がひどかった。
カミサンが悲鳴をあげた。
リリが車道にとびだしていた。
車が来た。
リリがすばやくこちらに引き返してきた。
わたしは一瞬リリがひかれたと思った。
そのイメージが脳裏に煌めいた。
でもそれはなかった。
リリはそのまま家と家のあいだの狭い隙間にとびこんでいった。
それっきりリはわたしたちの視野から消えてしまった。
カミサンは「リリリリ」と泣き声であたりを探して歩いた。
「リリリリ」いくら呼んでも――。
リリは姿をあらわさない。
もどってこない。
どこにいったのかわからない。
家に帰ってみると昼近くなっていた。
家に帰って来ると。
カミサンは涙をポロポトこぼして泣きだした。
「キャリーケースを買えばよかったのよ」
そう言うと、また、声を上げて泣きつづける。
それから、なんども付近をさがしに出た。
近所を探し歩き、なかなかもどってこなかった。
黄昏どきになってももどってこない。
壁にそって置いてあるタンスの上でリリの餌皿がひかっていた。
斜陽が窓ガラスごしに射しこんでいた。
わたしは固形餌の小さな山をくずさないように、そっとかかえこむ。
水飲み皿のよこに置いた。
餌と水飲み皿をみて「まるで影膳のようだ」と思ってしまった。
あわてて、その不吉な考えを捨てた。
裏庭のデッキでカミサンがよわよわしく「リリ」と呼ぶ声がしていた。
声は涸れていた。
涙も涸れているだろう。
「今夜は、眠れないわ」
かみさんがしわがれたこえで嘆いた。
子猫のリリを失った悲しみ。
2015-01-16 05:21:35 | ブログ
1月16日 金曜日
カーテンを、
階下の東の隅の寝室で寝ているカミサンを起こさないように、
気をくばりながら静かに開く。
それでも噛みしめた歯のあいだから、
猫が漏らす威嚇のような「シャ―」という音がした。
わたしの書斎は二階の角部屋に在る。
北はずっと以前に火事で7軒あった長屋が火事で全焼した。
そのまま空き地になっている。
東も空き地。
その向こうが青空駐車場になっている。
朝の太陽をあびて冬枯れた草が茫々と大地をおおっている。
リリが道路工事の騒音と車のエンジン音に驚いて、
カミサンの腕の中からにげだしてから2昼夜がすぎてしまった。
昨日は午後から冷たい雨が降りだした。
眼下の東側の駐車場の端に側溝がある。
水は流れていない。
リリはその辺り、
わが家から50メートルくらいしか離れていない場所で姿を消した。
死の恐怖におそわれ、
まるで弾丸のような速さで家と家の間の隙間に跳び込み消えていった。
「この雨で濡れないかしら」
「猫だから身を寄せる場所を探しあてているよ」
「寒いわ」
「毛皮をきているのだから……」
「凍え死んじゃうわ」
「心配ないって」
「死んじゃうわよ」
「恐い体験をすると一週間くらい縁の下にもぐりこんで、でてこない猫もいる。とインターネットで調べた」
「調べてくれたの」
「その猫の好きな食べ物をもって名前を連呼して歩くといいらしい」
「そんなことまで書いてあるの」
「あす晴れたら、削り節をもってもう一度、あの空家の周辺を探してみよう」
「ねえ、わたしがつくったサッカ―ボールがこんなにあるの」
カミサンの手のひらには、
紙を丸めてリリが咥えられるくらいにテープで丸めたボールがあった。
それを床に置いてはじくと、前足ではじきかしてくる。
喜々としてカミサンは子どものように遊んでいた。
ついぞ聞かれない笑い声が家のなかにしていた。
リリのふわふわした布製のベッド。
リリの破いた障子。
きちょうめんなカミサンはすぐに桜の花の切り張りをした。
障子の桟をつたって天辺まで登りつめたリリのヤンチャの爪痕。
いままで、
元気に飛び跳ねていたリリがいない家の中はさびしくなってしまった。
「泣くのはいいが、いつまでも嘆いているとまた風邪が悪くなる」
カミサンは三カ月もかぜで咳が止まらない。
「だって、悲しいんだもの」
少女のようにわたしの胸に顔をふせて泣きじゃくっている。
物は焼却しない限り、
直にはなくならない。
生きモノはそれを「失った」ときの寂しさは耐えられないものだ。
いままでいたリリが不意に消えた。
まだ生きていると信じているから、
ケガをした訳ではないので――死んではいない。
必ずまだ生きている。
ひょっこりと、迷いこんで来たときのように玄関先にあらわれる。
「もどってくるよ」
「気軽にいわないで。探しに行きましょう」
「あした晴れたらもちろん行くさ」
「キットヨ」
「リリ、ミーツケタ。オウチに帰ろうよ」
2015-01-16 11:36:09 | ブログ
1月16日 金曜日
「リリ、ミーツケタ。オウチに帰ろうよ」
書いてみると、……なんてことない。だが、簡単なことではなかった。
わたしはあばれるリリにひっかかれ、ほほに爪痕、血をながした。
切られ与三郎。血は顎の方までしたたった。
必死でリリを抱き締めていたので、痛みはかんじなかった。
「帰ろうな。家に帰ろうな」
カミサンが安心したのか泣き声をあげている。
リリを捕まえる手助けしてくれたお隣のYさん。
Kさん。
心配して声をかけてくださったご近所のみなさん、ありがとう。
けさ、食事をすませてから、削り節の袋をカミサンが手に、リリをさがしに出発した。
リリが逃げてから三日目になる。
工事現場の轟音とトラックのエンジン音を初めて耳にしたリリは恐怖のあまりカミサンの腕から跳びだした。
危うく車道の中央でトラックに轢かれるところだった。
よく踏みとどまり、こちら側に逃げ戻ったと思う。
あのとつさの判断が生死の分かれ目だった。
F印刷屋さんと空家になっている、元、越後屋さんのあいだの狭い空間に跳びこんだ。
猫なら通れる。
犬ではむり。
ほそく狭い。
この辺から、移動する訳がない。
猫は怯えると、その場から動かないで、一週間も居た。
そんな習性があるとインターネットで調べた。
まちがいなく、越後屋さんの空家に居座っている。
そう判断して二人で家をでた。
Yさんが隣とのヘンスにある扉わ開けてくれた。
「リリ、ママだよ。リリ、ママよ」
カミサンが削り節をヘンスのうえや、地面に置いた。
「リリ。リリ」
鳴き声がした。
あまり幽かなので小鳥の鳴き声にきけた。
ニャアと猫の鳴き声ができないリリだ。
「リリだ」
「リリだわ、いた、あそこにいる。どうする。どうする」
カミサンは泣き声で感極まっていた。
カミサンがブロック塀をこえて、リリを捕獲した。
わたしが、受け取った。スゴイ暴れよう。
おかげてGGは切られ与三郎。
皺だらけのオイボレの頬に血がしたたった。
この三日間……
大変なことがあった。
「おかえり。りり」というまでは……わたしは、毎日泣いてばかりいた。
まだ心の整理がつかないので、この間のわたしの様子を夫のブログから掲載しました。
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