「しんぶん赤旗」2024年12月26日
歴史に刻まれる闘い
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾訴追案が国会を通過した韓国。追い詰めたのは民主主義を守ろうという市民たちの運動でした。その中心を担ったのは20代、30代の女性たちです。女性たちの声が政治を動かしたと歴史に刻まれるだろう―。70、80年代の民主化闘争を経験した活動家からはこのような声があがっています。(ソウル=栗原千鶴 写真も)
「2030女性」と呼ばれる20~30代の彼女たちは、弾劾を求める集会運営の先頭に立ち、舞台で積極的に発言していました。
「誰もが尊重される社会で生きていきたい。これまで行動してこなかったことを謝りたい。一緒に闘います」。力強い声がソウルにある国会前の広場に響きわたると、大きな拍手が起こりました。
舞台のそでには、自由発言の機会を待つ若い女性たちがずらり。戒厳令が出た日をどう過ごしたか、どんな社会で生きていきたいか、などの発言はSNSで共有されました。
このメッセージは保守派の岩盤支持層が多い地方にも波及。保守の強い大邱市や釜山市、慶尚道の集会でも、呼応する人々の姿がありました。
大邱市では、「私たちは保守の草刈り場ではない! TK(大邱・慶尚北道)のコンクリートは TKの娘たちによって壊れるだろう」とのプラカードが掲げられました。SNSで瞬く間に拡散され、女性たちの共感と励ましの声があふれました。同様のプラカードを持参した女性は、「大邱が変われば韓国も変わると思う。弾劾まで行きます」と語りました。
「愛」で連帯する
ペンライトの登場も集会の雰囲気を一変させました。韓国では、米国産牛肉の輸入反対集会(2008年)や朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾を求めるデモ(16年)で、ろうそくを手に団結。「ろうそく集会」と呼ばれてきました。今回はそれがKポップのアイドルを応援するペンライトに変わりました。
「家にある一番明るいものを持ってきて」という主催者の呼びかけに応えたソン・セヨンさん(36)は、朴氏の弾劾の際、「ろうそくは風が吹けば消える」と言い放った与党議員への抗議としてLEDのろうそくが登場し、ペンライトにつながったと教えてくれました。「同じペンライトを持っている人を見つけると安心するし、力が湧く。最後まで頑張ろうと話が弾みます」
娘のものを借りてきたという女性や、野球観戦で使うメガホンを改造したという男性も。無数のライトが集会を彩りました。
一方、民主化闘争を知る世代からは“軽すぎないか”との懸念も出されたといいます。それに対し、ソウル市在住のキム・ジェナさんは、国会前の舞台の上から訴えました。
「戒厳軍の銃刀や催涙弾に命懸けで立ち向かった先輩から見たら、切迫感に欠けていると見えるかもしれません。しかし、私たちは皆さんが勝ち取った民主主義の下に生まれた世代です。皆さんが作り出した『生存』という実です。『切迫』ではなく『愛』で連帯する世代。私たちはこの広場で連帯、団結、闘争も学んでいます」
李韓烈を忘れず
ソウルにある李韓烈(イ・ハンニョル)記念館のイ・ウンヨン事務局長は女性たちの活躍を「私たちの希望です」とたたえます。
李韓烈は、民主化の闘士で、延世大の学生だった1987年6月の闘争の中で警察が投げた催涙弾に直接あたり、意識不明になりました。民主化を勝ち取るきっかけになった事件でした。
李韓烈を忘れず、民主主義を守ろうと市民の手で建てられた同記念館には、当時の運動の激しさが写真や映像で展示されています。
イさんは言います。
「李韓烈は、ある一人の大学生でした。良心に恥ずかしくないよう街頭に立った。民主主義は、こうした名もない人々の手で勝ち取られました」。若い女性たちが表舞台に出てきた今回の闘いには、確かな前史があったことが分かります。一方で、「記念館の写真に写っているのは、ほとんどが男性です。もちろん女性もいましたが、あまり残されていません」とも。
尹氏は22年の大統領選で、女性嫌悪を前面に出し当選しました。女性たちの大きな怒りが渦巻いていたことも今回の背景にあります。
「いま李韓烈らが勝ち取った民主主義を守ろうと女性が躍動し、政治を動かしています。誰も無視できません。女性たちの姿がしっかり刻まれる歴史的な運動だと思います」
時間があれば下のビデオご覧ください。
とても長いので、最初の10分まで見ていただいてもて結構。
【徐台教の韓国通信】年末特番!映画とドラマで知る韓国近代史 ゲスト:高山和佳さん