九州大学の吉岡斉副学長・教授と話しました。吉岡教授は原子力についての社会史的な著作も書かれていて、日本では、数少ない原子力政策についての専門家です。90年代から現在までは、特に原子力開発・原子力政策・原子力問題に関する社会史的研究が中心で、97年から2000年まで、総理府原子力委員会専門委員。2001年から現在まで、内閣府原子力委員会専門委員をされています。原子力について、一歩引いた観点から研究を続けている方です。今、テレビで出ている、大半の原子力推進側の専門家と大きく見立てが異なり、吉岡教授は次のように話されています。
まず、今後の事故展開シナリオを評価尺度をつけて、複数のシナリオで考え、作業員や住民の推定被曝線量を見積り、避難・屋内退避の目安線量を決定し、周知させることが必要と認識されていて、首都圏のような巨大都市での被曝を想定した場合、住民は公衆被曝の年間1ミリシーベルトまでが妥当ということです。
最悪想定の場合、手のつけられなくなった福島第一原発敷地内で、原子炉および核燃料プールの破壊が次々に起こり、本当に大量の放射能が放出され、それが、数か月以上にわたって続くことも想定され、風向きや粉塵が舞い上がる高度によっては、首都圏への影響は大きく左右されるとみていらっしゃいました。
もちろんミドルレベルでは、応急的な冷却作業が継続され、本格的な冷却機能復旧ができず、放射能の漏洩が拡大していくことも考えられ、作業不能になれば最悪想定になるとのこと。ただし、ドライベントのような緊急措置がなどにより状況を変化させられるかもしれない。ただし放射線レベルの大幅上昇の可能性もあり、一進一退の綱渡り的状況が、数か月続くことも考えられるそうです。
勿論、望ましく終了することも想定はできるそうです。
また、吉岡教授は作業員・住民の避難・屋内退避の目安線量については以下の点を認識してほしいとされています。
(1)緊急時には、作業員の大量被曝を、容認するものとなっている。平常時とのダブルスタンダードとなっている。
(2)緊急時には、住民の大量被曝を、容認するものとなっている。平常時とのダブルスタンダードとなっている。ただしそれは原子炉など核施設周辺の少人数の被曝を事実上の前提としたものである。
この中で、吉岡教授が気にされていたのは(2)についてです。緊急時における公衆被曝に関する基準が緩すぎると考えられていて、現行の基準では屋内退避の目安が累積10ミリシーベルト、避難の目安が累積50ミリシーベルトとなっていること。さらに国際機関のICRP2007年勧告で示された緊急時の公衆被曝の「参考レベル」として、年間20~100ミリシーベルトの導入が検討されていることを指摘した上で、ICRPが想定している事態は、原子炉など核施設周辺の少人数の被曝を事実上の前提としたものであって、首都圏のような巨大都市に、この基準を適用すると、大量死を容認することになるのだと批判していらっしゃいました。
それは、放射線の危険性についてのある考え方では、集団全体で足し合わせて20000ミリシーベルトを浴びるとその集団でのがん死が1名増加するという想定があるそうです。首都圏の人口は3500万人なので、集団が一様に10ミリシーベルトを浴びると、計算上では首都圏でのガンによる死者が17500名増える可能性があり、50ミリシーベルトでは、87500名の増加の可能性があります。先生は、このような大量死を容認するような基準の適用は妥当ではないとして、平時と同じ年間1ミリシーベルトを目安が望ましいという考えでした。
そして、最も僕が緊張したのは、次の話でした。吉岡教授は、毎時2マイクロシーベルトで脱出の準備。次は毎時10マイクロシーベルト、さらに毎時20マイクロシーベルトで緊急脱出することを目安にせよといわれました。僕自身は毎時10マイクロシーベルトと毎時30マイクロシーベルトを目安に考えていて、他の誰よりもこの点については、かなり厳しく見積もっていたつもりだったのですが、吉岡教授に「お前はまだ甘いよ」と言われたような気分になりました。
実はかなり多くの専門家と個別に話すと、オフレコベースでは、悲惨な想定を語る人も実はいるのですが、公に話す力のある人はほとんどいません。それもあって、吉岡教授の話を皆さんにきちんとお伝えしたいとまず思いました。
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最新号タイトル【「我々は新被曝者と認識して下さい」三田医師が2017年の患者さんに
顕著におきていた身体症状に関しての提言 】