木下黄太です。個人のジャーナリストとして書いています。まず、最もびっくりしたのは、福島第一原発について、官邸や菅総理がなんとなく「楽観」ムードにあると聞かされたことです。最初、聞いたときには、全く理解できませんでした。現場で高濃度に被曝しながらぎりぎりの作業員が、生死の境の作業を数週間休まずに続けている中で、楽観ムードの官邸?良く分からないし、一体何を考えているのか理解できません。どうして、楽観できるのか全く理解できないので、楽観の理由を聞いたところ、ほとんどの仕事は個別に分担されていて、官邸の中心になればなるほど、なんとなく作業量が減りはじめていて、しかもマスコミも危機を煽らないし、耳障りの悪そうな情報も入ってこない感じだそうです。全く理解できませんが、どうやらお疲れのご様子で、さらに「思考停止」になりはじめているのかなと思いました。僕もいろんなことをペーパーにしたり、情報を出し続ける努力をしていましたが、努力をいくらしても、いくらしても、菅直人という人間には届かないという恐れは、彼個人の元々のパーソナリティから自覚はしていましたが、今夜こういう話を聞いて本当に気落ちしています。具体的な進展があって楽観するのはもちろんありえますが、だとしたならば、それをいち早く国民にオープンにするべきです。しかし、僕が関係者から、説明を聞いていても楽観視するべき材料はほとんどなく、勝手な「思考停止」という色合いを強く見せています。ここまで、本当はぎりぎりのことがつづいているのになぜでしょうか?理解に苦しみます。
ところで少し考えているのは、チェルノブイリ後の強制移住に基準となった数値のことです。1990年ベラルーシ最高会議は15キュリー/k㎡(55万5千Bq/㎡)以上の住民15万人を移住させています。この基準に到達しているエリアが福島県内で実は多く出ている気がします。例えば、飯館村はこれの基準を大きく上回る可能性が高く、京大の今中先生の推計だと六倍にあたるとも言われています。この点も気になっていて、チェルノブイリでの強制移住レベルの汚染になっているエリアが、今どの範囲でどのくらいになっているのかを、政府は早急に公にすべきです。飯館村は16万3000Bq/㎏を現在検出していますが、土壌1kgあたりの放射能では、1㎡あたりと違って推定で計算式を立てるしかなくて、なんとなく曖昧です。現況よりも大幅に状態が悪くならないだろうという楽観的な見立てを前提に、強制移住すべきなのかどうなのかは、今後の原発周辺エリアの状況を考える上で、とても大切な事柄です。今回の災厄が、今後の展開は予断を許さないことに変わりはありませんが、楽観的なシナリオで展開した場合でもすでに、長期に立ち入りができなくなる場所の範囲が大きく広がっていることは認識したほうがよいと思います。三十キロどころか、風向きによってかなり広いエリアに影響が出ている可能性が強いです。勿論、最悪想定に近い事象がおきればこの話どころではありません。
こうしたこととも、関係がありますが、原子力発電関連の被曝作業員も多く見続けてきていて、東海村の臨海被曝事故でもかかわりの深い、阪南中央病院の村田三郎副院長と、お会いして話しました。村田先生は大阪大学当時に原子力発電の作業員の被曝による影響について上の教授と見解が食い違い、阪大を出て、現在の病院で仕事をされて、原子力と被曝の問題を包み隠さず追及している立ち位置です。僕自身は、お会いしたのははじめてのですが、東海村の被曝事故の際に科学技術庁と阪南中央病院しか被曝線量に関しての数値の検討をおこなっていて、阪南中央病院の考え方が当時大変に気になっていて、資料を取り寄せてみた記憶があります。科学技術庁と阪南には数値が七倍近く差がありました。阪南の考え方には、十分納得できる観点があり、僕は科学技術庁が出した僕の被曝線量(確か0.14ミリシーベルト)の七倍が最大値と思って納得した記憶があります。こうした、感覚でやっているのは、こちらだけです。
村田先生は作業員の皆さんの被曝を一番心配していらっしゃいました。恐らく、250ミリシーベルトという被曝限度は本当に限界に近く、一時的にこれを引き上げることがいかに非人道的な行いなのかを訴えられていました。そして、ここで問題となるのが、またしても兵站というキーワードです。五百人の作業員がいても、この高い放射能の環境の中では、限界まで全員が到達するのには、はやければ数日しかかからないかもしれないと。だとしたならば、現場の作業が進行する担保がどこにあるのだろうかとも。このままにし続ければ作業員がパニックになるかもしれないとさらに心配されていました。作業が止まると勿論最悪の事態を招かない担保はありません。
緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の数値を見ていても、今後状況が変化がないと、80キロ圏でも累積で100ミリシーベルトを超えると言われていました。先生が見ている原子力作業員が90ミリ程度の累積被曝で悪性のリンパ腫を発症しているとも。先生はモニタリングポストの数値だけでなく、空気中及び食物、水分などで一定程度の内部被曝をする可能性を指摘していて、外部被曝の数倍、多くて五倍程度は想定するべきだとおっしゃっていました。その上で、累積で100ミリシーベルトに到達していく、もしくは到達しているエリアの、少なくとも妊婦と子どもだけでも避難させらないだろうかとも。
さらに先生は広島、長崎との比較から、おっしゃったのは原爆症の認定が、3.5キロ圏内でも積極認定となっていて、そのときの被爆線量は5ミリシーベルト程度だということも知ってほしいし、今起きていることの事態はもうそれどころで実は無くなりつつある現実を現実として認識してほしいとも。まったくそのとおりです。先生は公衆被曝を守るなら、年間で1ミリシーベルトを超えないためには、毎時0.12マイクロシーベルトで年間1ミリシーベルトになるとも。毎時2.4マイクロシーベルトが出続けると、妊婦ではないが、妊娠可能な女性で放射線従事者の三箇月で5ミリシーベルトという限界も越えると。この限界は公衆被曝以上に、影響が出ないための強いガードラインともおっしゃいました。もちろんモニタリングポストは外にあるから、家や職場の中を中心に過ごせば、減りますが、空気や水、食物からの内部被爆の可能性も考慮に入れると、本当はもっとシビアに考えるべきかもしれないとも。この話を受けて、先ほど福島県災害対策本部の最新の数値を確認しましたが、原発から北西40キロの飯館村で毎時7.46マイクロシーベルト、西58キロの福島市で毎時2.94マイクロシーベルト、北西61キロの郡山市で毎時2.52マイクロシーベルトでした。後は計算してみてください。東京はちなみにここのところ、毎時0.1マイクロシーベルトレベルです。
つまり、かなりの数の皆さんが実は一定のレベル以上で、もうかなり被爆しているということです。過去に例のない尋常でない数です。東海村ですと、累積1ミリ程度の被曝を受けた600人あまりの皆さんがずっと健康診断でトレースされています。この観点から考えると健康調査も今後継続的にすべきでしょうし、被爆手帳も必要になるかもとも。村田先生は、政府が「安全」「安全」とウソをつかず、時間が経過すればどのような影響が出る可能性があるのかを明確にしなければならないともおっしゃいました。私も同感です。「人体に直ちに影響が出ない」という言葉は、今すぐに影響がでないという言い訳を伝えているだけであって、数年から十数年後に何かが起きても関係ないと言いつのる可能性は十二分にあると思います。飯館村などについてきちんと国が判断しない感覚は村田先生にも、僕にも理解できません。こんなシビアな状況が継続しているのに、「楽観視」し始めている菅直人という存在が事実ならば、もはやこの国はどうになってしまうのかという暗澹たる思いにとらわれます。
皆さん、間違えていただきたくは無いのですが、現況の状況による分析が以上です。医療というのはおきたことに対する対処ですから、どうしても、ここまでです。そして、事態が悪化すれば状況はさらにひどくなります。きょうの東京電力の勝俣会長会見でも、核燃料を冷やすのには時間がかかると話しています。専門家の見解は早くて一年かかるといいます。最良の選択肢として、一年この状態が継続し、放射能がある程度出続けるということ。もしくは、さらなる炉心崩壊による水蒸気爆発があれば、事態は急激に悪化し、関東圏に大きな被害が出る可能性は否定できません(風向きと高度という運次第)。こうしたことが明日どうなるのか分からない中に僕らは居続けていることを嫌でも我慢して考えていただきたいと僕は思います。
「追記」
福島第二原発の配電盤での小さい出火らしきものがあったようです。まさか第二原発も異常事態とならないように祈るばかりですが。