社説[雇用制度改革]不安を募らせる内容だ
沖縄タイムス 10月6日(日)10時11分配信
雇用制度改革をめぐる議論が大詰めを迎えている。産業競争力会議や規制改革会議など政府の有識者会議の議論で一番気になるのは、労働者の権利保護や非正規雇用の待遇改善といった視点が希薄なことである。
規制緩和の声だけが前面に出過ぎて雇われる側の意見はくみ尽くされていない。雇用の安定という側面からのアプローチが不十分である。
安倍政権が成長戦略の目玉と位置づける「国家戦略特区」は、農業、医療、教育など幅広い分野で思い切った規制改革を進める、という構想。規制改革の焦点になっているのが雇用分野の規制緩和である。
これまでの議論で取り上げられた雇用面の規制緩和策は三つある。まず「解雇ルールの明確化」。働き手との間で事前に解雇ルールを定めた契約を交わすことで、企業が従業員を解雇しやすくする、というものである。
対象は、一定の割合で外国人のいる企業や、開業5年以内の企業。野党や労働団体が国家戦略特区を「解雇特区」だと批判するのは、この規制緩和策のためである。
二つ目は、一定の条件を満たす事務系社員を労働基準法の時間規制からはずす「ホワイトカラー・エグゼンプション(除外)の導入」。いくら働いても残業代がゼロになるこの規制緩和策について、政府の有識者会議は4日になって、特区への導入を断念したことを明らかにした。
三つ目の規制緩和策は、非正規社員を非正規のまま継続雇用するというものだ。
■ ■
4月から改正労働契約法が施行され、非正規社員が5年を超えて継続した場合、本人が希望すれば正社員になれる道が開けた。
ところが、非正規社員の正社員化を防ぐため、5年を超えた非正規社員が正社員になる権利を事前に従業員が放棄する特例を提案したのである。
企業の負担増を回避するため、5年を待たずに非正規社員を雇い止めする企業が増え、雇用が不安定になる、との理由からだという。
さらに規制改革検討会議は4日、改正労働者派遣法が原則禁止している日雇い派遣について、原則禁止の撤廃を求める提言をまとめた。「限られた期間だけ働きたいと考える労働者がいる」「短期間に労働者の需要が集中する業務がある」ことなどが見直しを求める理由だ。
解雇規制の緩和といい、非正規社員の固定化といい、従業員を不安に陥れるような内容である。果たしてこのような労働者軽視の政策が「雇用の安定」「消費の拡大」につながるのか。
■ ■
政府は、秋の臨時国会に提出する国家戦略特区法案の中に、雇用の規制を緩和するための政策を盛り込む。
規制緩和で企業は大いにもうけたが、雇用が不安定になり、正規と非正規、富める者と貧しい者の格差が一層進むようでは、改革の名に値しない。政労使は対等な立場でもっと議論を重ねるべきだ。
野党や労働団体にとっては、存在理由が問われる重要な局面である。
http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-10-06_54964
沖縄タイムス 10月6日(日)10時11分配信
雇用制度改革をめぐる議論が大詰めを迎えている。産業競争力会議や規制改革会議など政府の有識者会議の議論で一番気になるのは、労働者の権利保護や非正規雇用の待遇改善といった視点が希薄なことである。
規制緩和の声だけが前面に出過ぎて雇われる側の意見はくみ尽くされていない。雇用の安定という側面からのアプローチが不十分である。
安倍政権が成長戦略の目玉と位置づける「国家戦略特区」は、農業、医療、教育など幅広い分野で思い切った規制改革を進める、という構想。規制改革の焦点になっているのが雇用分野の規制緩和である。
これまでの議論で取り上げられた雇用面の規制緩和策は三つある。まず「解雇ルールの明確化」。働き手との間で事前に解雇ルールを定めた契約を交わすことで、企業が従業員を解雇しやすくする、というものである。
対象は、一定の割合で外国人のいる企業や、開業5年以内の企業。野党や労働団体が国家戦略特区を「解雇特区」だと批判するのは、この規制緩和策のためである。
二つ目は、一定の条件を満たす事務系社員を労働基準法の時間規制からはずす「ホワイトカラー・エグゼンプション(除外)の導入」。いくら働いても残業代がゼロになるこの規制緩和策について、政府の有識者会議は4日になって、特区への導入を断念したことを明らかにした。
三つ目の規制緩和策は、非正規社員を非正規のまま継続雇用するというものだ。
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4月から改正労働契約法が施行され、非正規社員が5年を超えて継続した場合、本人が希望すれば正社員になれる道が開けた。
ところが、非正規社員の正社員化を防ぐため、5年を超えた非正規社員が正社員になる権利を事前に従業員が放棄する特例を提案したのである。
企業の負担増を回避するため、5年を待たずに非正規社員を雇い止めする企業が増え、雇用が不安定になる、との理由からだという。
さらに規制改革検討会議は4日、改正労働者派遣法が原則禁止している日雇い派遣について、原則禁止の撤廃を求める提言をまとめた。「限られた期間だけ働きたいと考える労働者がいる」「短期間に労働者の需要が集中する業務がある」ことなどが見直しを求める理由だ。
解雇規制の緩和といい、非正規社員の固定化といい、従業員を不安に陥れるような内容である。果たしてこのような労働者軽視の政策が「雇用の安定」「消費の拡大」につながるのか。
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政府は、秋の臨時国会に提出する国家戦略特区法案の中に、雇用の規制を緩和するための政策を盛り込む。
規制緩和で企業は大いにもうけたが、雇用が不安定になり、正規と非正規、富める者と貧しい者の格差が一層進むようでは、改革の名に値しない。政労使は対等な立場でもっと議論を重ねるべきだ。
野党や労働団体にとっては、存在理由が問われる重要な局面である。
http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-10-06_54964