【第23回 数学カフェ】曲率とは何か——比較定理の観点から(改訂版ver1.1)
2月25日 東京大手町にある株式会社 Preferred Networks の会議室にて第23回数学カフェ「曲率とは何か——比較定理の観点から」に参加してきました。
講師は大阪大学助教・Stanford大学 visiting assistant professorの松本佳彦先生です。ご専門は微分幾何学・多変数複素関数論だそうです。今回のご講演の内容は微分幾何の内容になります。上手くレポートできるかわかりませんが、頑張って纏めてみます。(間違っていたらご指摘願います。)
[1.Riemann多様体とは]
まず球面S^2(sphere)、Euclid平面E^2(Euclidean plane)、双曲平面H^2(hyperbolic plain)で直線と距離について考えます。S^2では大円を通る最短曲線が直線になり、E^2では通常の直線、H^2ではポアンカレ円盤において理想境界に直行する円弧が直線になります。このような局所最短な線のことを測地線といいます。(区分的に滑らかな曲線に対しての)速度ベクトルの長さを積分することで曲線の長さが定まり、そこから局所最短という概念が定まります。S^2とE^2とH^2では、この速度ベクトルの長さを測るルールが違います。接ベクトルとは、一般に曲線の速度ベクトルになり得るようなベクトルのことを指し、何らかの「地図」を用いることによりR^2のベクトルと見なせることが可能であるものを言います。接ベクトル空間とは、ある点における接ベクトル全体のなすベクトル空間のことです。直交性や長さは接ベクトルの内積で定め、"「地図」を定めるごとに" 行列で表現することができます。
2月25日 東京大手町にある株式会社 Preferred Networks の会議室にて第23回数学カフェ「曲率とは何か——比較定理の観点から」に参加してきました。
講師は大阪大学助教・Stanford大学 visiting assistant professorの松本佳彦先生です。ご専門は微分幾何学・多変数複素関数論だそうです。今回のご講演の内容は微分幾何の内容になります。上手くレポートできるかわかりませんが、頑張って纏めてみます。(間違っていたらご指摘願います。)
[1.Riemann多様体とは]
まず球面S^2(sphere)、Euclid平面E^2(Euclidean plane)、双曲平面H^2(hyperbolic plain)で直線と距離について考えます。S^2では大円を通る最短曲線が直線になり、E^2では通常の直線、H^2ではポアンカレ円盤において理想境界に直行する円弧が直線になります。このような局所最短な線のことを測地線といいます。(区分的に滑らかな曲線に対しての)速度ベクトルの長さを積分することで曲線の長さが定まり、そこから局所最短という概念が定まります。S^2とE^2とH^2では、この速度ベクトルの長さを測るルールが違います。接ベクトルとは、一般に曲線の速度ベクトルになり得るようなベクトルのことを指し、何らかの「地図」を用いることによりR^2のベクトルと見なせることが可能であるものを言います。接ベクトル空間とは、ある点における接ベクトル全体のなすベクトル空間のことです。直交性や長さは接ベクトルの内積で定め、"「地図」を定めるごとに" 行列で表現することができます。
多様体とは、全体を覆う「地図」(チャート、座標近傍)の集まり「アトラス」(地図帳、座標近傍系)を備えているような空間のことを言います。多様体Mは、点pにおける接ベクトル空間を何れかのチャートを通じてR^nとして捉えることができます(nはチャートによらず一定=次元)。この多様体にRiemann計量を入れるとRiemann多様体になります。Riemann計量とは、チャートによって同一視されたR^nにおける内積の行列g(正定値対称n×n行列)によって与えられ、複数の地図間で「辻褄が合い」(内積行列間の変換が定義でき)、各点pにおいて内積が滑らかに与えられる(C^∞級写像)ときに、Riemann計量が与えられたと定義します。
測地線は、局所最短な曲線で、各時刻での速度ベクトルの長さが1で一定なものと(ここでは)定めます。このような測地線はRiemann多様体では局所的には引くことができることが知られています(測地線の局所的存在定理)。
Riemann多様体の完備性とは、そのような測地線を伸ばしていけること(測地完備)を言います。Hopf Rinow の定理により、連結 Riemann 多様体が完備であることと、任意の有界閉部分集合がコンパクトであるという二つが同値であることが言えます。また(曲線の長さの下限を用いて定義される)距離空間としての完備性とも同値です。
[2.曲率とは]
曲がっているというのは測地線の摂動(θずらす)の軌跡である。そして曲率(Gauss曲率(2次元))とは、点pを端点とする測地線の摂動に働く、点pから等距離にある点(測地線に沿って一定時間進めた時の位置)の間の「距離を縮める"力"」を表す数のことである。これをn次元Riemann多様体における点pにおける接ベクトルにおける曲率に一般化したものを断面曲率といい、θでパラメトライズされた測地線の摂動における速度ベクトルの共変微分(変位)の接ベクトルの場をJacobiベクトル場と呼ぶ。断面曲率を持ったJacobiベクトル場の解釈として、点pにおけるReimann多様体に作用する"力"と考えることができる。Jacobiベクトル場はJacobi方程式(微分方程式)を満たす。このアナロジーとして各点でばねの運動方程式を満たしていると言える。つまり各点p毎に変位としての力が作用しているのだと言える。例として2次元Reimann多様体を考えてみる。E^2は変位は0は線形で変わらず測地線は直線のまま、、S^2の変位は(sin t)、H^2の変位は(sinh t)となり、力の変位が変わり測地線が曲がる。これをn次元に拡張しても、やはりJacobi方程式を満たし、そのJacobiベクトル場には、摂動の動きにn-1次元分の自由度がある"力"(ばね)が作用する。※ここでいう力は点pを選ぶ毎に変化する。
[3.曲率の役割]
曲率の役割において、大きく影響を与える定理が、Rauchの比較定理です。誤解を恐れずに言ってみれば、曲率を力であると解釈すると大小比較ができることにキーポイントがある。
Rauchの比較定理は、単連結なRiemann多様体において、点pを固定したとき
・断面曲率が大きければ、Jacobi場の長さは(t=0近くでは)より小さくなり、
・断面曲率が小さければ、Jacobi場の長さは(t=0近くでは)より大きくなる
正曲率性は空間が丸まってゆくことを意味し、負曲率は空間が無理やりに広がってゆくことを意味するといえることができる。
Bonnetの定理:
またkを正定数としたとき、n次元完備Riemann多様体があり、断面曲率K>=kを満たすとき2点間の距離はπ/√k以下となり、多様体はコンパクトになる。
またBonnetの定理の改良版としてMyersの定理があり、Ricci曲率テンソルがRicc>=(n-1)kを満たせば、任意の2点間の距離はπ/√k以下で、多様体はコンパクトになるということも言える。
球面定理:
単連結な完備Riemann多様体について、1/4<K<=1(上と下で押さえるのは比)ならば、
1.Mは球面S^nに同相
2.Mは球面S^nに微分同相
Cartan-Hadamardの定理
n次元完備Riemann多様体であって、単連結、さらにK<=0(負曲率)を満たすようなものとする。そのときRiemann多様体はR^nに微分同相となる。
微分同相写像は「指数写像」によって得られる。
この仮定を満たすRiemann多様体をCartan-Hadamard多様体という。Cartan-Hadamard多様体には無限遠境界の概念がある。
E^nの無限遠境界、H^nの無限遠境界、Cartan-Hadamard多様体の無限遠境界それぞれ構成できる。E^nの場合、ある種プラネタリウムのスクリーンを無限遠点と考えると、視点の位置で同じ方向(平行)を指したに関わらず、無限遠点境界は同じになる。この同値関係の商集合で割ると無限遠境界を定義できる。H^nの無限遠境界、Cartan-Hadamard多様体の無限遠境界も考えることができる。その無限遠点境界の幾何構造については今もさかんな研究分野となっている。特に点pの恣意的な位置によらず、無限遠境界を構成することができることがキーポイントである。
測地線は、局所最短な曲線で、各時刻での速度ベクトルの長さが1で一定なものと(ここでは)定めます。このような測地線はRiemann多様体では局所的には引くことができることが知られています(測地線の局所的存在定理)。
Riemann多様体の完備性とは、そのような測地線を伸ばしていけること(測地完備)を言います。Hopf Rinow の定理により、連結 Riemann 多様体が完備であることと、任意の有界閉部分集合がコンパクトであるという二つが同値であることが言えます。また(曲線の長さの下限を用いて定義される)距離空間としての完備性とも同値です。
[2.曲率とは]
曲がっているというのは測地線の摂動(θずらす)の軌跡である。そして曲率(Gauss曲率(2次元))とは、点pを端点とする測地線の摂動に働く、点pから等距離にある点(測地線に沿って一定時間進めた時の位置)の間の「距離を縮める"力"」を表す数のことである。これをn次元Riemann多様体における点pにおける接ベクトルにおける曲率に一般化したものを断面曲率といい、θでパラメトライズされた測地線の摂動における速度ベクトルの共変微分(変位)の接ベクトルの場をJacobiベクトル場と呼ぶ。断面曲率を持ったJacobiベクトル場の解釈として、点pにおけるReimann多様体に作用する"力"と考えることができる。Jacobiベクトル場はJacobi方程式(微分方程式)を満たす。このアナロジーとして各点でばねの運動方程式を満たしていると言える。つまり各点p毎に変位としての力が作用しているのだと言える。例として2次元Reimann多様体を考えてみる。E^2は変位は0は線形で変わらず測地線は直線のまま、、S^2の変位は(sin t)、H^2の変位は(sinh t)となり、力の変位が変わり測地線が曲がる。これをn次元に拡張しても、やはりJacobi方程式を満たし、そのJacobiベクトル場には、摂動の動きにn-1次元分の自由度がある"力"(ばね)が作用する。※ここでいう力は点pを選ぶ毎に変化する。
[3.曲率の役割]
曲率の役割において、大きく影響を与える定理が、Rauchの比較定理です。誤解を恐れずに言ってみれば、曲率を力であると解釈すると大小比較ができることにキーポイントがある。
Rauchの比較定理は、単連結なRiemann多様体において、点pを固定したとき
・断面曲率が大きければ、Jacobi場の長さは(t=0近くでは)より小さくなり、
・断面曲率が小さければ、Jacobi場の長さは(t=0近くでは)より大きくなる
正曲率性は空間が丸まってゆくことを意味し、負曲率は空間が無理やりに広がってゆくことを意味するといえることができる。
Bonnetの定理:
またkを正定数としたとき、n次元完備Riemann多様体があり、断面曲率K>=kを満たすとき2点間の距離はπ/√k以下となり、多様体はコンパクトになる。
またBonnetの定理の改良版としてMyersの定理があり、Ricci曲率テンソルがRicc>=(n-1)kを満たせば、任意の2点間の距離はπ/√k以下で、多様体はコンパクトになるということも言える。
球面定理:
単連結な完備Riemann多様体について、1/4<K<=1(上と下で押さえるのは比)ならば、
1.Mは球面S^nに同相
2.Mは球面S^nに微分同相
Cartan-Hadamardの定理
n次元完備Riemann多様体であって、単連結、さらにK<=0(負曲率)を満たすようなものとする。そのときRiemann多様体はR^nに微分同相となる。
微分同相写像は「指数写像」によって得られる。
この仮定を満たすRiemann多様体をCartan-Hadamard多様体という。Cartan-Hadamard多様体には無限遠境界の概念がある。
E^nの無限遠境界、H^nの無限遠境界、Cartan-Hadamard多様体の無限遠境界それぞれ構成できる。E^nの場合、ある種プラネタリウムのスクリーンを無限遠点と考えると、視点の位置で同じ方向(平行)を指したに関わらず、無限遠点境界は同じになる。この同値関係の商集合で割ると無限遠境界を定義できる。H^nの無限遠境界、Cartan-Hadamard多様体の無限遠境界も考えることができる。その無限遠点境界の幾何構造については今もさかんな研究分野となっている。特に点pの恣意的な位置によらず、無限遠境界を構成することができることがキーポイントである。
●所感
曲率とは各点pに作用にするJacobiベクトル場に作用する"力"である。力は滑らかなC^∞において滑らかな測地線を変曲するというのは斬新な視点だと思った。ある種、一般相対性理論がRiemann多様体による定式化するのにうってつけのツールであれることが改めて実感した。それとは別に、色々なRiemann多様体の応用例も検討されている。やはりRiemann多様体にはまだまだ力学系と深い繋がりがあり、機械学習や深層学習においても必須な知識であることを認識した。また次回の数学カフェも参加したいと思います。
●変更歴
[改訂版ver1.1 2018.2.28]
第1節につき誤植を修正するとともに言い回しを変更しました。
曲率とは各点pに作用にするJacobiベクトル場に作用する"力"である。力は滑らかなC^∞において滑らかな測地線を変曲するというのは斬新な視点だと思った。ある種、一般相対性理論がRiemann多様体による定式化するのにうってつけのツールであれることが改めて実感した。それとは別に、色々なRiemann多様体の応用例も検討されている。やはりRiemann多様体にはまだまだ力学系と深い繋がりがあり、機械学習や深層学習においても必須な知識であることを認識した。また次回の数学カフェも参加したいと思います。
●変更歴
[改訂版ver1.1 2018.2.28]
第1節につき誤植を修正するとともに言い回しを変更しました。