fernhaven rd.

狭いベランダで育てているバラのこと、趣味のこと、トールペイントのことなどなんてことない毎日を書いていきます。

魂のリアリズム 画家 野田弘志

2014-09-05 21:14:17 | 映画
昨日、シネリーブル梅田で『魂のリアリズム』を観てきました。

朝の9時半そして夜の8時半からの上映しかなくて、朝はお稽古だったので夜の上映に行ってきました。

あの辺りを夜8時くらいにウロウロするのは何となく心細かった。

沢山の人が歩いているし別にどうと言う事はないのですが。

チケットを買い席を選ぶときに、たぶん少ない私だけかもしれないと思ったのですが、他に2人くらいの方がいました。

でも観る時間には、私を入れて5人になっていました。


さて、映画の感想です、先ず画家野田弘志さんの存在自体が崇高で清らかと言うか出てこられるだけで特別な方であるのが見て取れました。

野田弘志さんは、写実絵画における日本での第一人者だそうで、日曜美術館で見たことがありました。

冒頭「人はね、必ず死んでいきますね、この地球もいつかは消滅する、そのことを思えばここで生きているということ自体が奇跡と言うか存在自体が美しいことで、それを描きたいと思っているのです。」

と、どなたかにおっしゃっていました。(セリフは正確ではありません)

語り口も誠実で、自分がなすべき明確な答えのもとに生きていると言う事が伝わってきます。

学生の頃は、流行にも敏感で抽象絵画なども描いていたようですし、卒業後は食べるためにイラストレーターとして働いていたそうですが

病気をきっかけに、このままだと本当にやりたいことが出来なくなる、と思い本当に描きたかった写実絵画を描く画家としての仕事を始められました。

映画は、庭のボタンに鳥が巣を作ったのを発見してその美しさにそれを描きたくなり、そっとその巣をアトリエに持ち帰り写真を撮り、またその巣をもとの所に返して鳥の巣を描くところをカメラが追っていきます。
(暫くして、戻した巣の様子を見に行くと跡形もなくなくなっていたと言う事です、イタチか何かが取って行ったんだろうか、とおっしゃっていました、それも余韻の残る言葉でした)

縦横2メートルくらいの板にキャンバスを貼り、下地の絵の具を塗り、拡大した鳥の巣の写真を置いてカーボンを下に敷き絵を写していきます。

野田さんは、78才ですので、その作業だけでもかなり体に負担がかかるのではないか、と思いながら見ていました。

鉛筆で丁寧に丁寧に時間をかけて写し、いよいよ写真がはがされて、下絵が写ったキャンバスが現れたとき、あー、すでにそれだけでもう美しくて心打たれました。

それから、横に写真を置いてながめながら、絵の具を混ぜ合わせて地道に一筆一筆色を入れていく様子は、気が遠くなるような作業で予告の映像にも出てきますが、絵を描くことは過酷だ、と思ったのでありました。

巣を描く様子の合間に、公演や自らが主宰する画塾の映像も出てきます。

アトリエに画塾生を呼んで、(たぶん才能のある子なんでしょうが)語ります。

「絵を描くことは好きでしょう?」

「はい。」

「上手だしね、そうでしょう?でも、絵を描くことは楽しいことではないですね、どちらかと言えば辛い、まぁ命を懸けるというか、命が懸けられますか?」

「い、いいえ、まだ懸けません。」

「そう、でもね、何もかも捨てて絵のことだけを考える、絵のことにだけに没頭する、そういう世界に入るのもいいものだ、と僕は思うんですけどね。」

まだ若く絵を始めたばかりのようなその子には分からないようでしたが、重みのある言葉でした。

野田さん自身は、北海道にアトリエを構えられてまさに絵の事だけの生活を送っていらっしゃいます。

いつか、聖書のような、人の心の礎になるような絵を描きたい、と語っていらっしゃいました。

78才の今もそのような純粋で壮大な人生の目標が持てる事が素晴らしいです、私ももちろんもっともっと小さいですがそんな生き方をしたいと胸に刻みました。

きっと死の間際まで、その志を持って絵を描いていかれるのだと思ったのでありました。

最後、巣の絵が完成を迎えます。

全身全霊で描かれた巣の絵は美しく、私には生の喜びに満ち溢れているように感じられました。

そして、また新しいキャンバスが貼られて下地の絵の具が塗られていく、ずっと続いていく死ぬまで続いていく。

上映が終了する間際に見に行くことが出来て良かったです、もっとみんなが観に行くのに便利な場所でこんな映画がかかればいいのにいい映画が期間も短くて本当に残念ですね。

(セリフ等はすべて正確ではありません)






野田弘志さんの絵画(ホキ美術館



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