アルフレッド・ヒッチコック監督による1940年版のリメイクではなく、ダフネ・デュモーリアによる原作の再映画化という触れ込みだが、ベン・ウィートリー監督はもちろんヒッチの影響から脱していないし、原作を読み込んでいるとも言い難い。主演はリリー・ジェームズ、アーミー・ハマー。この古典心理ホラーにはいささか健康的過ぎるキャスティングで、舞台となるマンダレイ屋敷にも仄暗さが足りない。
何より現代的テーマを読み切れていないのが致命的だろう。貴族階級の男と庶民の女という格差、自己肯定の低い女とガスライティングする男、という非常に今日的モチーフをリリー・ジェームズの健全さ1つに集約してしまっている。登場シーン毎に衣装が変わるジェームズの可憐さは目にも楽しいが、この眩さでは亡き前妻レベッカに負い目など持ちようがない。1940年版ではメイド頭のダンヴァース夫人に成す術なくハラスメントを受け続けていたヒロインも、今作では何と2度も解雇通知を叩きつけている。2020年ならではの強い女性像だがこれでは作劇上、機能しないだろう。ダンヴァース夫人役クリスティン・スコット・トーマスの恐婦人役は十八番演技だが、彼女ならもっと複雑に造形できた。
後半、事件を通じて男女の関係が逆転する所に原作の面白さがあり、ptaの『ファントム・スレッド』は多大な影響を受けている。“屋敷ホラー”としてマイク・フラナガンのアンソロジー『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』も本作と同じ系譜にあるだろう。しかし、このベン・ウィートリー版にはそれらとの映画史的コネクトもなく、むしろ1940年版に現代との結節を感じる。近年のデュモーリア原作映画では『レイチェル』という成功例があった事も記しておきたい。
『レベッカ』20・米
監督 ベン・ウィートリー
出演 リリー・ジェームズ、アーミー・ハマー、クリスティン・スコット・トーマス、キーリー・ホーズ、サム・ライリー、アン・ダウド
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