長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『レニー・ブルース』

2022-06-07 | 映画レビュー(れ)

 1950年代から60年代半ばにかけて活躍したコメディアン、レニー・ブルースは現在Amazon primeで配信中のTVシリーズ『マーベラス・ミセス・メイゼル』で、主人公ミッジに笑いの薫陶を受ける師匠として描かれる。物語自体はフィクションだが、ルーク・カービーが洒脱に演じるレニー・ブルースはさながら主人公の守護天使であり、74年のボブ・フォッシー監督作でダスティン・ホフマンが演じたそれとは随分、解釈が異なる印象だ。レニー・ブルースがオーバードーズでこの世を去ったのは1966年。フォッシーが同時代を駆け抜けた人物であり、年齢も2つしか違わない。そんな距離感の近さが74年の本作『レニー・ブルース』には反映されている。

 2作品に共通するのは“死の匂い”だ。レニーが現れると、華やかなプロダクションデザインの『マーベラス〜』にはそれまでの賑やかさを打ち消すような、全く異なる気配が漂い始める。一方、『キャバレー』『オール・ザット・ジャズ』『シカゴ』でミュージカルに退廃的なエロスを持ち込んだフォッシー監督版は全編、凍てつくようなモノクロームだ。人種や性、政治など当時はタブーとされていたネタに斬り込み、その過激さから“公然わいせつ罪”として当局にマークされていたレニーのステージには警察官が居並び、やがて彼は活動の場を奪われていく。本作がフォッシーのいずれの作品に比べても過酷であるのは、弾圧によって死の影を背負ってしまったレニーに人並みならぬシンパシーを抱いていたからに他ならない。そして2022年の現在、レニー・ブルースはカウンターカルチャーという一時代の芸人に留まらず、そのネタは時代を超えて社会を射抜く普遍性を持っていたことがわかる。だからこそ『マーベラス〜』は自らの声を手に入れ、世界を変えようとするヒロインの守護天使としてレニーを描いているのではないだろうか。

 フォッシーは本作の後、『シカゴ』『オール・ザット・ジャズ』を手掛け、ダスティン・ホフマンは『大統領の陰謀』『クレイマー・クレイマー』とキャリアを代表する傑作を得ていく事となる。


『レニー・ブルース』74・米
監督 ボブ・フォッシー
出演 ダスティン・ホフマン、ヴァレリー・ペリン

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