闇夜のハイウェイに始まり、ハリウッド、映画監督、フリークスとデヴィッド・リンチ好きには堪らないキーワードが揃った『ブランニュー・チェリーフレーバー』(終盤にはリンチ組パトリック・フィッシュラーまで出てくる)。Netflixオリジナルシリーズの中でも群を抜く怪作と言っていいだろう。主人公リサ・ノヴァは自主制作のホラー映画が大物プロデューサー、ルー・バークの目に留まり、ハリウッドに招かれる。リサ自らがメガホンを執る商業映画デビュー作としてトントン拍子に話が進むも、ルーの「当然だろ」と言わんばかりのセックスを断ったばかりに彼女は解雇され、映画の権利を奪われてしまう。怒りに燃える彼女の元に、怪しげなホームレスの女が現れた。「黒魔術を使ってルーに復讐しましょう…」。
かねてより映画、小説、コミックあらゆる物語がLAには“何かがある”と描いてきた。華やかなショービジネスの影にはにわかに信じ難い奇譚が蠢いている。そんな与太話を愛せるなら、本作も十分に楽しめるハズだ。主人公リサ・ノヴァを演じるのはやはりこちらも異色作『アンダン』に主演したローサ・サラザール。モーションキャプチャーで孤軍奮闘した『アリータ バトル・エンジェル』といい、すっかりカルト女優の風格である。本作では口からアレを吐いたり、脇腹にアレができたりと珍妙な事態に次々と見舞われ、クライマックスはまるでデヴィッド・リンチ監督『ロスト・ハイウェイ』のミステリーマンだ。なんとも頼もしい。
彼女に黒魔術を施す謎の人物ボロに扮するのはキャサリン・キーナー。今やすっかり名女優の風格だが、そもそも『マルコヴィッチの穴』で名を成した“わかっている人”である。
それでも、僕にはこれだけの要素が揃ってもまだ物足りなかった。LAのディープさはこんなモンじゃない。しっかりクリフハンガーされたシーズン2でさらにリミッターが外れる事を期待したい。
『ブランニュー・チェリーフレーバー』21・米
製作 レノア・ザイオン、ニック・アントスカ
出演 ローサ・サラザール、エリック・ランジュ、キャサリン・キーナー、マニー・ジャシント
※Netflixで配信中※
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