2020年12月25日に配信開始されるや、4週間で8200万世帯で視聴されたというNetflixの新たな大ヒットシリーズだ。この数字は1話を最後まで視聴した数字ではなく、冒頭数分間の視聴も含まれるNetflix独自の集計方法であるため割り引いて考える必要があるが、それでもNetflix史上最高記録であり、コロナ禍でエンターテイメントが枯渇した今、嬉しい大ヒット作と言えるだろう。
【2020年代最新版コスチュームプレイ】
ジュリア・クインによる小説を原作とした本作は、19世紀初頭のイギリスを舞台にしたロマンスドラマだ。Netflixならではのセクシーなベッドシーンも話題だが、何より斬新なのは歴史的考証を“ほとんど”無視した大胆な時代設定だろう。この世界には黒人差別が存在せず、なんと爵位を持った黒人貴族が存在する。この現代的アレンジに案の定「ポリコレにおもね過ぎている」と反発の声も挙がっているが、決して根拠のない演出ではない。
重要人物の1人であるシャーロット王妃には黒人の血を引いていたという学説があり、劇中では彼女がジョージ3世と結婚したことで平等な治世がもたらされたと言及されている。また、彼女の在位中1772年に起きた“サマセット事件”の公判を担当し、イギリスにおける奴隷解放の機運となる判決を下したマンスフィールド卿には黒人養子ダイド・エリザベス・ベルがいた。ベルは英国史上唯一の黒人貴族とも言われており、卿のアシスタントとして影で活躍していたという説がある(一連の経緯については『ベル』という傑作があるので、こちらもぜひ)。『ブリジャートン家』の世界観はこうした数々の学説による裏打ちがあってのものなのだ。
また、人種によるタイプキャスティングを打破する“カラー・ブラインド・キャスティング”はシェイクスピア劇など、演劇の世界を中心にかつてから存在した手法だ。映画では遡れば1993年のケネス・ブラナー監督作『から騒ぎ』におけるデンゼル・ワシントンの起用や、近年ではアメリカ独立戦争をオール有色人種キャストで描いたミュージカル劇『ハミルトン』の成功が業界にとっての大きな転機だろう。『ブリジャートン家』では前述シャーロット王妃役のゴルダ・ロシューベル、そしてダンベリー夫人役アッジョア・アンドーが威厳たっぷり、大迫力で貴婦人芝居を見せており、刮目させられた。ひと昔前ならジュディ・デンチやマギー・スミスら英国白人女優の専売特許である役柄に新風が吹いているのだ。彼女らの才能を紹介したという意味でも意義深い成功と言えるだろう。
【Love actually is all around】
結婚を巡るジェーン・オースティン風の恋愛ドラマが現代でこれだけ多くの支持を得ている理由の1つは、膨大な登場人物によって愛の多様性が描かれているからだ。今シーズンはブリジャートン家の長女ダフネ(可憐なフィービー・ディネヴァー)と、公爵サイモン(雄々しいレジ・ジーン・ペイジ)を主軸としているが、原作は各巻ごとにブリジャートン家兄妹のそれぞれを主役にしており、サブプロットまで魅力十分。ハスキーボイスでキレ味十分な次女エロイーズ(クローディア・ジェシー)や、実は誰よりも視聴者の目線に近いペネロペ(『デリー・ガールズ』のニコラ・コクラン!)もいいが、長男の僕としては、他人に厳しく自分に甘いアンソニーお兄様が嫌いになれなかった(笑)通りを挟んだブリジャートン家とフェザリントン家という対照的な家庭像からは自分や家族、両親の姿など、身近な誰かの姿を見出せる事だろう。そして本作の明朗な愛の物語は、コロナ禍によって誰もが疲れ果てた今、なんとも優しく響くのだ。
大ヒットを受けてNetflixはシーズン2の製作を決定。コロナ禍にもめげず、従来と変わらないスピードで今春からの撮影を目指すようだ。楽しみに待ちたい。
『ブリジャートン家』20・米
製作 クリス・ヴァン・デューセン
出演 フィービー・ディネヴァー、レジ・ジーン・ペイジ、アッジョア・アンドー、ジョナサン・ベイリー、ルビー・パーカー、ニコラ・コクラン、ゴルダ・ロシューベル、クローディア・ジェシー、ジュリー・アンドリュース
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