透明感ある美しさと研ぎ澄まされた知性で女優のみならず監督としても活躍するサラ・ポーリーが自身にまつわる出生の秘密をドキュメンタリー映画にした。長年、家族の間で繰り返されてきたジョーク(「サラだけが家族の誰とも似ていない」)は若くして亡くなった母の過去を解き明かす中で真実味を帯びていく。輝くような明るさで周囲の人々を惹きつけた母には誰も知らない恋の秘密があったのだ。
プライベートビデオのような質感の再現映像を交えて作られた本作はサラ・ポーリーという作家を読み解く上でも重要な1本だ。まるで老監督のような達観で愛の深淵を描く創造的衝動はどこから湧いてくるのか?妻のアルツハイマー発症により夫が夫婦生活における罪を贖う『アウェイ・フロム・ハー』、夫婦生活の中で虚無に陥った妻の孤独を描く『テイク・ディス・ワルツ』…彼女の描く愛とは常に不完全であり、常に居場所を見出せない者の孤独感に満ちている。
この感覚はひょっとして母ダイアンと父マイケルの人生から彼女が感じ取ったものではないだろうか?母の秘められた過去を知った時、家族の秘密は語られるべき物語となり、サラはいかる人生の機微も愛するマイケルの豊饒さを知る。だが妻を亡くし、失意の底にいた彼を救ったのもまたサラだったのだ。
そう語る父のモノローグで幕を引くサラ・ポーリー監督に、これは彼女から父へ宛てた手紙なのではと思えた。本作を経てより深みを増した彼女の次回作が楽しみである。
『物語る私たち』12・加
監督 サラ・ポーリー
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