『アベンジャーズ/エンドゲーム』を大成功に導いたルッソ兄弟が再びスパイダーマンことトム・ホランドとタッグを組んだ注目作にもかかわらず、あまり話題になっていないのが寂しい。配信元のAppleTV+は他のストリーミングサービスに比べオリジナルコンテンツの品数に乏しく、ここ日本で観測している限りではPRの押しも弱くてイマイチだ。
イラク帰還兵二コ・ウォーカーが獄中で記した自伝小説は、平凡な大学生が悲惨な従軍体験から薬物中毒となり、ついには銀行強盗に至るというこれまで何度も語られてきた物語ではある。ルッソ兄弟は1時間ごとに映画のトーンを変え、まるでTVドラマのビンジウォッチのようなストーリーテリングを見せた『アベンジャーズ/エンドゲーム』同様、ここでも映画を章仕立てにし、ジャンルも撮影スタイルもガラリと変えており、主にアメリカンニューシネマなど彼らが体験し得なかったアメリカ映画史を追体験するかのようだ。
ホランドはMCUでスターパワーを維持しつつ、昨年はバイオレンスノワール『悪魔はいつもそこに』で主演する等、意欲的な役選びが続いている。薬物中毒演技はいわば名優への通過儀礼。終幕の鮮烈な酩酊シーンは後に彼のキャリアを振り返る上で、重要なモーメントになるかもしれない。劇場公開作だけ見ていてもベストワークを追えなくなって久しいが、本作のような”必見作ではない”映画が早々にネットの海で並列化されてしまうのが、ストリーミング全盛時代の難点ではある。
『チェリー』21・米
監督 アンソニー&ジョー・ルッソ
出演 トム・ホランド、シアラ・ブラボ、ジャック・レイナー
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