長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『チャッピー』

2018-04-30 | 映画レビュー(ち)

ニール・ブロムカンプ監督の才気と若さが漲る快作だ。2016年、南アフリカはヨハネスブルグ。エビ型エイリアンはまだ飛来していないが、治安が悪化の一途を辿っていた街はロボット警官の導入を決定。圧倒的な戦闘力で犯罪撲滅に乗り出した。開発者のディオンはその1体にかねてから研究してきた人工知能(=AI)を搭載しようとするのだが、ニンジャとヨーランディのギャング夫婦にAIごと誘拐されてしまう。ギャング達は現金強奪のために警官ロボットを悪用しようとするのだが…。

実在の音楽ユニット“ダイ・アントワード”のDJコンビで実生活でも夫婦であるニンジャとヨーランディは芸名そのままに登場し、実質上の主役として既存のハリウッド映画にはないコスモポリタンな新風を吹き込んでいる。彼らに対するブロムカンプの愛は並々ならぬものがあり劇中、彼らが自分達の曲を聴いているのが可笑しい(ニンジャはヨメの顔がプリントされたTシャツを着ている。物販か!)。南アできゃりーぱみゅぱみゅがオバサンになったようなヨーランディはキュートだ。

この風変りな夫婦が自我を持ち始めたAIにチャッピーと名付け、子育てをしていく。ブロムカンプはプロットの破綻など恐れもせずに次から次へとテーマをぶち込み、観客を一度も立ち止まらせない。貧困家庭の子育てによる悪循環、いかにして子供に人間の善意と悪意を教えるか、そして怒りと許しとは何か。ブロムカンプと3度目のタッグとなるシャルト・コプリーがパフォーマンスキャプチャーでチャッピーを演じ、驚くべき事に観客をロボットへ感情移入させる事に成功している。純真なチャッピーが直面する苦しみに胸が詰まる場面も多く、自らの寿命を知った彼がディオンを問い質すシーンは見た目以上に深遠な本作のハイライトだ。常に観客の知性に訴えるのがブロムカンプ演出であり、前作『エリジウム』にはこの勢いが足りていなかった。

 SFガジェット満載の大アクションシーンへと転調するや、富野節かと見紛うブロムカンプのハイテンション演出は前2作を凌ぎ、圧倒的だ。ここから終幕に入るとSF版『ピノキオ』だなんて解釈はとんだ見当違いで、実は『攻殻機動隊』へのラブコールである事が見えてくる。果たして人間を定義するものは身体なのか、ゴースト(魂)なのか?なぜか押井演出の長セリフをフォローしてしまった『マトリックス』ウォシャウスキー姉妹とは違い、ブロムカンプは人間性を問いかけていくのである。期待されたリブート版『エイリアン』は頓挫してしまったが、未だ次作が気になる鬼才だ。


『チャッピー』15・米
監督 ニール・ブロムカンプ
出演 シャルト・コプリー、デヴ・パテル、ヒュー・ジャックマン、ニンジャ、ヨーランディ、シガーニー・ウィーバー
 

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