長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『チャチャ・リアル・スムース』

2022-10-09 | 映画レビュー(ち)

 弱冠25歳のクーパー・レイフが監督、脚本、主演を務める本作は2022年のサンダンス映画祭で観客賞に輝き、配給権をAppleが獲得した。さながらサンダンス発でアカデミー作品賞にまで到達した『コーダ あいのうた』の再現といった所だが、さすがにそこまでの間口の広さは感じないか。しかし作品全体を貫く“Kindness”が気持ち良く、やはりAppleTV+からリリースされているテレビシリーズ『テッド・ラッソ』を思わせる好編である。

 主人公アンドリューは22歳。大学を卒業したが就職は決まらず、スペインへ留学した恋人は見知らぬ男とインスタに収まっている。やむなく実家に戻るも継父とは昔から反りが合わず、年の離れた弟の部屋で雑魚寝をする日々だ。ある日、バルミツバ後のパーティーで即席DJを務めたところ、これが大好評。アンドリューはバルミツバシーズンの盛り上げ役としてビジネスを始める。そんな折、パーティー会場で彼は自閉症の女の子ローラとその母親ドミノに出会い…。

 これまでいくつも作られてきた20代男子のモラトリアム映画と大きく異なるのは、主人公アンドリューの持つ優しさだ。彼のユーモアは時折TPOを間違えるものの、周囲の人々を和ませ、癒やす力を持っている。そんな彼自身は若さゆえの不様で無軌道な振る舞いとも一切無縁の“正しい”男性であり、映画の主人公としては正直物足りなさを感じるものの、これが2022年のアメリカ映画における男性像なのかもしれない。
 ドミノ役のダコタ・ジョンソンはプロデュースも兼任する力の入れようで、若くして自閉症の娘を抱え、人生に行き詰まった女性を誠実に演じている。『ロスト・ドーター』の役柄を思わせるものもあり、彼女が一定のプリンシプルを持ってキャリアコントロールしていることが良くわかる。娘ローラ役のヴァネッサ・ブルクハルトは実際に自閉症であり、それが必ずしも映画の中で機能しているとは言い難いが、アンドリューのキャラクターよりも先に開発されたのがこの母子だという。この製作経緯を思うと22歳男子のモラトリアムが既に映画の主題にはならない時代なのかもしれない。


『チャチャ・リアル・スムース』22・米
監督 クーパー・レイフ
出演 クーパー・レイフ、ダコタ・ジョンソン、レスリー・マン
※AppleTV+で独占配信中※

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