長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ザ・イースト』

2017-05-07 | 映画レビュー(い)

 Netflixのオリジナルドラマ『The OA』でも話題を呼んだ監督ザル・バトマングリと脚本、主演ブリット・マーリングのコンビ第2作目。FBIからリクルートされた捜査官マーリングが環境テロ集団ザ・イーストに潜入する…というサスペンス映画なのだが、そこはこの2人。ジャンルの皮を被って彼ららしいツイストとメッセージを込めた快作だ。

環境テロというのは環境汚染や薬害などを引き起こした企業をターゲットとする暴力行為を指す(シーシェパードなんかもこれに当たるのだろう)。本作ではこの標的となった企業に向けて営業を仕掛ける調査会社が登場する。FBI捜査官マーリングはこの一般企業にリクルートされ、テロ集団“ザ・イースト”へ潜入する事になるのだ。
バトマングリとマーリングの特色は物語設定をより強固にするディテールの異様なまでの作り込みだ。『The OA』では物語の大半が監禁部屋で進行するのだが、監禁映画史上類を見ない機能美とオーガニックさによって作られた独房が目を見張る。全面がガラスで仕切られ、5人が互いに向き合いながら個別に捕らえられている。各自の部屋には観葉植物が置かれ、床には飲料としても排水としても使える側溝が流れ…。

『ザ・イースト』では森の奥深く、朽ち果てた洋館で暮らすテロ集団の独自の生活形態が面白い。
拘束具に身を包み、手を使わずに咥えたスプーンで相手へ分け与える食事の儀式。材料は既成品を購入せず、全て拾い集めた残飯だ。沐浴はまるで洗礼式のようであり、このある種の宗教性に彼らの正義心がナルシズムと表裏一体であることが伺える。マーリングが初めて屋敷を訪れるシーンの異世界への入り口にように見える林道は、艶めかしい夜間撮影もあって抗し難い魔力を放つ。

リーダー役アレクサンダー・スカルスガルドの理想主義的な貴公子像や、参謀役エレン・ペイジの濡れて光る病的な陰りがいい。ペイジは『JUNO』でブレイクしたが、『ハードキャンディ』のサイコパスのような、底知れない役柄でも魅力を発揮する稀有な女優だ。レズビアンである事をカミングアウトしてから露出が減ったように思えるが、どうなのだろう。

当初“フツーの女の子”として登場するマーリングは、潜入を開始すると次第にいつもの透明感、誰にも近寄れないオルタナティブな輝きを放ち始める(そもそも、潜入モノにおける“潜入”とは自己の発見、実存についての探求に他ならない)。開腹手術をするシーンにすら漂うこの神々しさは一体どこから来るのか。手話が劇中に取り入れられており、続く『The OA』での“5つの動作”同様、彼女がフィジカル表現に強い関心を持っていることもわかる。

 このマーリングならではの存在感があってこそ、ラストにはゾクリとさせられる衝撃性がある。誰にも媚びないそのクールな作劇は“バトマングリ×マーリング”というオルタナミュージックのような、独自のジャンルを形成しつつある。


『ザ・イースト』13・米
監督 ザル・バトマングリ
出演 ブリット・マーリング、アレクサンダー・スカルスガルド、エレン・ペイジ、パトリシア・クラークソン
 

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