長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『生きてこそ』

2023-10-12 | 映画レビュー(い)

 雪深い山中に遭難した少女たちのサバイバルを描くホラーTVシリーズ『イエロージャケッツ』の参照元として、1993年の本作を改めて紐解くのも良いかもしれない。1972年、ウルグアイの学生ラグビーチームらを乗せた飛行機がアンデス山脈に墜落。72日間もの遭難生活の末、16人が生還した“ウルグアイ空軍機571便遭難事故”の映画化だ。ピアズ・ポール・リードのドキュメンタリー小説『生存者 アンデス山中の70日』を原作とする本作は、想像を絶する72日間をわずか126分に圧縮。俳優たちのフィジカルもリアリズムに乏しい“ハリウッド映画”かもしれないが、そもそも世の中には物語ることが困難な物語があり、故にこの事件は何度もドキュメンタリー、書籍で語り直されてきたのだろう。2023年には『インポッシブル』でスマトラ沖地震津波を描いたJ・A・バヨナ監督による『雪山の絆』で再度映画化されている。

 しかし、昨今では映画監督よりもプロデューサーとして認知されているフランク・マーシャルの手堅い演出や、カナダ西部コロンビア山脈で行われたロケーションの迫力は代えがたく、力作と言っていい。少年たちの敬虔な信仰心が極限状況下を支え、死者の肉を食べる決断を下したのだと解釈する劇作家ジョン・パトリック・シャンリー(『ダウト あるカトリック学校で』)の脚色は、現在のハリウッドでは到底、企画書に上げることすら叶わないだろう。生還後、彼らが見舞われたバッシングだけでも映画1本分に相当する内容だが、メインストリームの映画が120分で収められていた時代にそれは望みすぎというものだ。

 生存者の1人で若きイーサン・ホークが出演。今やアメリカ映画界を代表する名優となった彼が、ここでは早くもカリスマ性を垣間見せている。盟友リチャード・リンクレイターとのコラボレーション第1作『恋人までの距離』が公開されるのはこの翌年のことだ。


『生きてこそ』93・米
監督 フランク・マーシャル
出演 イーサン・ホーク、ヴィンセント・スパーノ、ジョシュ・ハミルトン、ブルース・サムゼイ
 

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