ブータン映画として初のアカデミー国際長編映画賞にノミネートされた本作は、家にいながら異国情緒を味わえるコロナ禍には打ってつけの1本だ。落ちこぼれ教師ウゲンは山間の僻地ルナナ村への教育実習を命じられる。都市部からバスで半日、そこからはなんと1週間をかけて標高5000メートルの山々を越えなくてはならない。彼方に望むのはヒマラヤ山脈という、もは秘境と言ってもいい辺境の集落だ。雄大な自然に分け入るカメラを追うだけでも目にも楽しく、ワクワクしてしまう。
ルナナ村の生活は清貧そのものだ。電気が点くかは運次第、窓ガラス代わりに紙を貼り、もちろんトイレットペーパーなんてありはしない。村の主要産業は放牧。ヤクの糞は貴重な燃えさしにもなる。決して容易くはないが、しかし人々は皆、幸せそうだ。タイではGDP、GNPではなくGNH(Gross National Happiness=国民総幸福量)の向上が推奨されており、この辺境に教育を行き届かせるのもその一環だという。現地の子供たちが実名で演じる生徒たちは皆、先生の到着を心待ちにしており、なんとも愛らしい。
ウゲンはルナナ村の子供たち、人々との交流を得て“本当の幸せとは何か?”と考え、自らの足で人生に立つことを学んでいく。この映画の最大の問題は作り手がウゲンや僕たちと同様、ツーリスト目線から出ていないことだ。クラス委員長のペム・ザムは父がアル中の博打打ちで、彼女の面倒を見ているのはもっぱら祖母だという。村長は早くに妻を亡くして以後、長女が家事全般をこなしている。教育と可能性を奪われた彼女たちの姿は雄大な自然と同じく“遠景”として描かれ、清貧という美談の域を出ない。映画全体のトーンが何とも人好きのする体裁だけに、これはタチが悪い。『ブータン 山の教室』はその見た目が人を引き付けるが、ローカルの域は出ていないのだ。
『ブータン 山の教室』19・ブータン
監督 パオ・チョニン・ドルジ
出演 シェラップ・ドルジ、ウゲン・ノルブ・ヘンドゥッブ、ケルドン・ハモ・グルン、ペム・ザム
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