今年のサンダンス映画祭で審査員対象を受賞した映画が自宅で手軽に見られるのは有り難いものの、ストリーミングサービスがラベリングし、観客のアルゴリズムからおすすめする手法は必ずしも映画を正しく観客に届けられるとは限らない。本作『ナニー』はPrime Videoによれば“ホラー”と“ドラマ”に分類されているが、僕が視聴した時点では日本語の解説が付いておらず、”サイコスリラー”の表記だったと記憶している。僕に言わせてもらえば『ナニー』は“怪談”で、その根源に哀しみが漂っている。
セネガル移民の主人公アイシャは郷里から我が子を迎えるべくNYで昼夜働き続ける毎日だ。彼女は元教師で、フランス語に堪能なことから白人富裕層の家庭でナニーを始める。しかし、ある日を境に彼女の周辺では奇妙なことが起こり始め…。
これが長編デビューとなるニキヤトゥ・ジュース監督の語り口は端整で、プロダクションデザインも一級。アイシャがステレオタイプのアフリカ移民ではなく、アナ・ディオプによって洗練された現代的女性として描かれているのが新鮮だ。何より目新しいのはアイシャを迎える白人一家の描写だろう。ここ数年、黒人を酷使する白人富裕層は高慢な悪役と相場が決まっていたが、決して一面的な人物ではなく、彼らは疲弊しきっている。分断と対立、そして経済的混乱を経てかつての搾取する側だった人々も今やどうにも立ち行かず、ここにはアメリカンドリームという言葉すらないのだ。ホラーが時代を映すジャンルなら、『ナニー』は的確に2022年を批評していると言っていいだろう。
『ナニー』22・米
監督 ニキヤトゥ・ジュース
出演 アナ・ディオプ、ミシェル・モナハン
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