長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『教授とわたし、そして映画』

2020-10-20 | 映画レビュー(き)

 主演女優(キム・ミニ)との不倫を堂々公言し、映画監督と女優の色恋ばかりを描いてきたホン・サンス。“韓国のウディ・アレン”とも評される彼だが、御大のようなエグ味がないのは女優に惚れ込むある種のフェミニズムが自己愛を絶対的に上回っているからだろう。『威風堂々』をテーマ曲に映画監督、不倫相手の学生、彼女に恋する若い男の3人を描いた4話構成のオムニバスだ。

 ホン・サンス映画の男たちはどうにも冴えない。映画学科で教える監督(明らかにホンだ)は風采が上がらないし、若い男もルックスはともかく話し方に品があるとは言い難い。翻って2人と付き合う学生オッキ(チョン・ユミ)は清廉なルックスで、男達に依らない自立したヒロインだ。毎度、同じ女性像でホンの好みは本当にブレがない。チョン・ユミはキム・ミニが登場するまでの2010年代前半を支えたミューズだった。ホンの映画には必ずと言っていいほどしこたま飲んだくれる場面が出てくるが、おそらく本当に(けっこうな量を)飲んでいるのだろう。彼は好きな女が酔っ払った姿が好きなのだ。絡み酒のキム・ミニに対してチョン・ユミは大人しめ。可愛い。

 そんなオッキは監督とデートした公園に若い男を連れていく。同じ場所に来ることで2人の男の違いが際立つ。本当はどちらの事もそんなに好きじゃないのかも知れない。唐突にオッキのモノローグが流れる「似ている俳優を起用しましたが、実在の人物とは違います。それが私の望む効果を薄めているのかもしれません」。原題は“Oki's Movie”。好きな女の目線から不倫を清算。この角度こそホン・サンスである。


『教授とわたし、そして映画』10・韓
監督 ホン・サンス
出演 イ・ソンギュン、チョン・ユミ、ムン・ソングン
 

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