監督、主演女優がノータッチのシリーズ第3弾『クワイエット・プレイス:DAY1』や、28年前の誰も覚えていない大ヒット作の続編『ツイスターズ』、そしてすっかり路頭に迷ってしまった挙げ句のシリーズ最新作『エイリアン:ロムルス』と、今年のサマーシーズンはハリウッドの正気を疑うようなタイトルばかり。ところがフタを開けてみればいずれも入念な企画開発がされた堂々たる娯楽映画で、特大級のヒットに繋がったのは嬉しい誤算であった。本作『エイリアン:ロムルス』は当初、ディズニープラスでの配信スルーが予定されていたものの、『ドント・ブリーズ』で知られるウルグアイ出身のホラー監督フェデ・アルバレスの熱意によって撮影初日に劇場公開が決まったという。
シリーズの大ファンであるアルバレスはエイリアンをプレデターと戦わせるような事もしなければ、人類の起源を探るなんて大風呂敷を拡げることもなく、第1作『エイリアン』から『エイリアン2』までの間、コールドスリープしたリプリーが約50年間漂流していたシリーズの空白期間に目を留めた。主人公はウェイランド・ユタニ社の運営する植民地惑星で働く若者たち。日照時間ゼロの過酷な労働環境から逃れるべく、彼らは衛星軌道上に打ち捨てられた廃ステーション“ロムルス”に忍び込む。おそらく国家すら超えるであろう邪悪な巨大企業は、第1作でノストロモ号の船外に放り出されたエイリアンを回収、培養実験を続けていたのだ。映画を1979年から86年の間に作られたように見せかけるプロダクションデザインは、宇宙世紀のディストピアを作り上げシリーズの世界観を拡張。思えばアルバレスの『ドント・ブリーズ』もまた荒廃した“ラストベルト”デトロイトを舞台に、追い詰められた若者たちが女性の身体性を奪う“怪物”と死闘を繰り広げる映画だった。
アルバレスは既に手垢の付いたクリーチャーの魅力を掘り下げる事にも余念がない。傑作ホラー映画の条件の1つが「絶対にこんな死に方はしたくない」であれば、本当に恐ろしいのは成体(ゼノモーフ)よりも寄生体フェイスハガーだろう。シリーズの最多の見せ場を与えて前半を盛り上げる。そして長年の疑問だったチェストバスターからビッグチャップへの変態シーンで、映画史上最高のモンスター“エイリアン”に暗黒の輝きを取り戻しているのだ。細部のディテールにも抜かりがなく、真空状態を演出する宇宙空間のリアリティやエイリアンの酸性血液まで扱いは徹底。ファンには不評の『プロメテウス』まで拾うサービスっぷりに、古参ファンとしては頭が下がるばかりだ。
アルバレスはそんなうるさ型のファンの肩を揉みながら、シリーズを知らない若い観客を取り込むことに注力している。79年『エイリアン』はシガーニー・ウィーバーを筆頭にジョン・ハート、イアン・ホルム、ハリー・ディーン・スタントンら名性格俳優を揃えたアンサンブル劇であり、そのキャスティング方針は以後のシリーズにも継承。本作では『プリシラ』でヴェネチア映画祭女優賞を獲得し、『シビル・ウォー』でも主役級の役柄を演じている若手演技派ケイリー・スピーニーを抜擢。ウィーバーとは対称的に少女の面影すらある彼女だが、劣らぬ受けの芝居の巧さで映画の恐怖を引き立て、アクションシークエンスでは自身の磁場を作り出すフィジカルの持ち主である。彼女を囲んでアンドロイドのアンディ役を昨年、インディーズで最も高い評価を受けた映画『ライ・レーン』の主演デヴィッド・ジョンソンが好投。ケイ役イザベラ・メルセードは来年『The Last Of Us』シーズン2のメインキャストを務めている。
ディズニーはこの再び金が成った木で即座にフランチャイズを再開したいところだろうが(2025年には奇才ノア・ホーリーによるTVシリーズがリリース)、頼もしいことにアルバレスはオリジナルシリーズに倣って6年程度の開発期間を儲けると発言している。願わくば逸材ケイリー・スピーニーをもってリプリーに劣らぬキャラクターアークを築き上げてほしいところだ。
『エイリアン:ロムルス』24・米
監督 フェデ・アルバレス
出演 ケイリー・スピーニー、デヴィッド・ジョンソン、イザベラ・メルセード、アーチー・ルノー、スパイク・ファーン、エイリーン・ウー
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