※このレビューは物語の結末に触れています※
ピークTVの昨今、ドラマの製作本数は年々増加傾向にあり、続編製作のスピードも早くなっている。TVシリーズはさらに進化し、時勢を捉えたテーマを見出す事はもちろん、従来にない独自のストーリーテリングの模索に突入した。『ウエストワールド』や『レギオン』、『ファーゴ』『アトランタ』など野心的な作品の数々がTVShowの地平を切り拓いているのがここ数年の動向だ。
『The OA』は前シーズンから約3年の時を経てもなお開拓者達の遥か先頭に立つ孤高の存在である事を証明した。ショーランナーであり、主演も務めるブリット・マーリングの"常軌を逸した”と形容しても過言ではない物語を信じて一級のスタッフ、キャストが作り上げた宇宙は狂気的迫力で僕らを圧倒し、惹きつけ、そして全く未知の領域へと誘うのである。
僕は連続ドラマ続編へ求める物の1つに慣れ親しんだ世界観の再現があると考えているが、『The OA』はそんな安穏としたレベルに留まったりしない。シーズン1の郊外からシーズン2はサンフランシスコへと舞台が変わり、未来都市を映すかのように画面のルックも異なる。シーズン2からは『ゴッドレス』の名手スティーヴン・メイズラーが撮影を担当、その芸域の広さを見せつけている。
さらに主人公OA(マーリング)は第1話も40分を過ぎる辺りまで姿を現さない。物語をひっぱるのは私立探偵カリムなる新しい登場人物で、ストーリーテリングはさながらフィルムノワール調だ。そして前シーズンで僕らと共にOAの物語に心奪われた少年達は第3話まで姿も見えない。いったいシーズン1は何だったのか、呆気に取られるばかりだ。
【ブリット・マーリングというオルタナティヴ】
本作のカルト的人気、そしてブリット・マーリングのカリスマを裏付けるように今シーズンでは多くの豪華ゲストが登板している。キャストではゼンデイヤ、『フロリダ・プロジェクト』のブリア・ヴァネイトに加え、前シーズンOA時にはブレイク直前だった『ナイト・オブ・キリング』のリズ・アーメッドも再登板。日本からは尾崎英二郎が意外なボイスアクトを披露しているのも必聴だ。スタッフ陣では前述のメイズラー、そして『さざなみ』『荒野にて』のアンドリュー・ヘイ監督が2エピソードを担当している。
メインストーリーが異次元の法則を解き明かす事に費やされている一方、現実世界に取り残された少年達を描くのがヘイだ。OA亡き後、信じる心を試された彼らの旅路は集団自殺の道行きである事も意味する。何ら迷いもなく歩みを進める彼らの刹那的な姿は今シーズン最も心を動かされるパートとなった。
【アンナとプレーリー、ふたりのOA】
これだけ複雑な構成では影響を受けているであろう作品の名前を1つ1つ挙げる事も難しいが、重要な引用元であろうこの作品には触れておきたい。
第4話、ハップのもとに次元移動の秘密を知り、自由に行き来する能力を持った謎の女性が現れる。自ら“異次元の旅行者”と名乗る彼女を演じるのはイレーヌ・ジャコブ。90年代初頭、ポーランドの巨匠クシシュトフ・キシェロフスキに見出され、『トリコロール/赤の愛』等に主演したフランス女優だ。”異次元の旅行者”は言う「別の次元で私は女優だった」。
そこで僕の脳裏によぎったのが同じくキシェロフスキ監督作『ふたりのベロニカ』だ。この作品でジャコブはパリとポーランドに住む全く同じ容姿を持つベロニクとベロニカを演じている。
『ふたりのベロニカ』はポーランドに住むソプラノ歌手のベロニカが突如心臓発作で命を落とし、その存在を知る由もなかったパリのベロニクが激しい喪失感に見舞われる。そして彼女の周囲では不思議なことが起こり始め…という物語だ。
既にシーズン2を見終えている人ならブリット・マーリングが『ふたりのベロニカ』から多大な影響を受けている事がわかるだろう。『ふたりのベロニカ』は一連のキシェロフスキ監督作同様、運命についての物語であり、根源には多言宇宙論がある。マーリングのリリカルなSFは多分にキシェロフスキの影響下にあったのだ(『ふたりのベロニカ』と『The OA』は平行世界上に存在するユニバース!)。シーズン終盤はマーリングがアンナとプレーリーという”ふたりのOA”を演じている。
【ブリット・マーリングを信じよ】
シーズン2のクライマックスはいわゆる”夢オチ”と大差ない、下手すれば非難轟々も有りうる展開ではないだろか。平行宇宙のどこかでOAはブリット・マーリングという名の女優であり、ハップもといジェイソン・アイザックスと結婚していて、『The OA』というドラマを撮影しているのだ!
前シーズンとは違う、明らかにシリーズ継続を意識したクリフハンガーに果たしてこの奇想が天才か、それともフロックかと期待と不安が入り交じる。いや、僕らもOAを、マーリングを信じて舞うべきなのだ。
『The OA シーズン2』19・米
監督 ザル・バトマングリ、アンドリュー・ヘイ
出演 ブリット・マーリング、ジェイソン・アイザックス、エモリー・コーエン、パトリック・ギブソン、フィリス・スミス
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