長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

2024年上半期ベスト10

2024-07-29 | ベスト10
【MOVIE】
監督 クリストファー・ノーラン


監督 ジョージ・ミラー


監督 ドゥニ・ヴィルヌーブ


監督 ジョナサン・グレイザー


監督 ヨルゴス・ランティモス


監督 アンドリュー・ヘイ


監督 ルカ・グァダニーノ


監督 濱口竜介


監督 ローラ・ポイトラス


監督 ダグ・リーマン
 遅れること半年以上を経て、ようやく2023年最重要作の1本『オッペンハイマー』が日本公開された。同年ワールドリリースを基準とする当ブログの年間ベスト10では選外となるため、ここでしか1位に挙げる機会がない。公開前からソーシャルメディア上で紛糾したかまびすしい批判を経て、周到に日本公開の準備を整えた配給ビターズ・エンドの尽力に感謝したい。

 パンデミックとストライキという2つの難局を乗り越えたものの、ハリウッドは今やジリ貧状態にあり、『オッペンハイマー』と『バービー』が並んだ2023年が最後の大当たりだったのかもしれない。2024年のサマーシーズン興行は『インサイド・ヘッド2』や『ツイスターズ』の大ヒットでようやく復調傾向になるも、これらは共に前作から数年ぶりとなる続編映画で、ハリウッドは相変わらずオリジナル作品に期待をかけていない。ストライキの影響で公開が昨年秋から今年の3月へとずれこんだ『DUNE PART2』と『オッペンハイマー』の存在によって一時的に興行が華やぐ瞬間もあったが、ともにオールスターキャストを擁する2作はまるでハリウッド映画最後の総力戦にも見えた。

 2位に挙げた『フュリオサ』は初見時、筆者のチューニングが合っていなかったのか、さほど面白いとは感じられなかった。しかし2度、3度見直すことでその強固な神話世界と語りの気迫に魅せられ、心酔した。『DUNE PART2』もフィルム内に構築された世界観に圧倒されたが、ここでは原作の有無で順位を決めさせてもらった。公開初週の興行成績で映画の価値を決めてしまうハリウッドの悪癖には困ったもので、『フュリオサ』はもっと評価されて然るべきだろう。

 映画を見続ける理由の1つに“ショック”があるとすれば、上半期は『哀れなるものたち』『関心領域』『悪は存在しない』が抜きん出ていた。一方、ウォーキズムに満ちたソーシャルメディア上では映画の受け取り方も画一化されつつあり、時に受け入れがたい人間のグロテスクさや不可解さに相対する観客の視座が欠けている。映画は主観的な体験であり、外野の声に惑わされず、自分だけの感動を見つけたいものだ。『異人たち』に涙した一方、『パストライブス』『チャレンジャーズ』は楽しんだものの、今の自分には“3すくみ”という個人と社会の関係性を描く構造はしっくりこなかった。1対1の濃密な関係性が観たいのだ。

 ドキュメンタリーでありながら芸術性の高い劇場空間の構築をしていた『美と殺戮のすべて』が忘れられず、“普通の(上質な)ハリウッド映画”の良さを思い出せてくれた『ロードハウス』を愛でたい。ヴィクトル・エリセの『瞳をとじて』を語るにはあまりにも前作から時間が経ちすぎているため、筆を取ることを止めた。オスカーにも輝いたフランス映画『落下の解剖学』は昨年に鑑賞しているため、選外としていることを断っておきたい。
 なお、上半期の映画についてはNieWで木津毅氏との対談からも振り返っている。こちらもぜひ御一読ください。
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【TV SHOW】
監督 スティーヴン・ザイリアン


製作 マーク・プロトセヴィッチ
製作 レイチェル・コンドウ、他


監督 リチャード・ガッド


製作 ドナルド・グローヴァー、他


製作 ノア・ホーリー


製作 イッサ・ロペス


製作 ネイサン・フィールダー


製作 ネイサン・フィールダー


10、『TOKYO VICE シーズン2』
製作 J・T・ロジャース
 昨年以来、筆者はPeakTVが終焉を迎えたとの見解を示し続けてきた。事実、制作本数は最盛期よりも大きく数字を落とし、ナラティヴの形態も変遷しつつある。複雑なイシューを含んだハイコンテクストよりも、週1回、決まった時間にテレビドラマを見る娯楽性が復古し、今なおハリウッドにおいて傑作が多く生まれ場所であり続けている。今年、トレンドは1シーズン完結のアンソロジー・リミテッドシリーズへと移り、巨額をかけた大河ドラマが鳴りを潜めつつある中、エミー賞を狙って限定シリーズから連続ドラマへと方針転換した『将軍』は結果、今年のノミネート作で最多ノミネートを達成、2024年を代表する大作シリーズへと変身した。アジア系の躍進は目覚ましく、『将軍』の他にも『TOKYO VICE』シーズン2がシリーズ終盤にかけて尻上がりの面白さを見せていた。

 PeakTVが培った豊かな土壌は名脚本家スティーヴン・ザイリアンにパトリシア・ハイスミスの『リプリー』を全8話モノクロで撮らせるという快挙を成し遂げさせた。上半期、最大のサプライズにして最もチャーミングな作品である『シュガー』を生み出せるたのはAppleTV+による所も大きいだろう。先達的存在であるNetflixは今やトレンドの発祥を北米に限っておらず、英国から生まれた小品『私のトナカイちゃん』は上半期最大の衝撃作となり、ここ日本でももっと多く観られるべきである。

 『アトランタ』はじめ、数多くの作品でコラボレーションしてきたドナルド・グローヴァーとヒロ・ムライによる新作『mr.&mrs.スミス』のラグジュアリーな仕上がりに惚れ惚れとし、今や長寿シリーズとなった『ファーゴ』『トゥルー・ディテクティブ/ナイト・カントリー』の進化に舌鼓を打った。上半期の個人的な発見と衝撃はネイサン・フィールダーで、彼の2作品『リハーサル』『ザ・カース』に笑い転げた。
上半期は他『エクスパッツ』『ポーカー・フェイス』を見逃したことを記しておきたい。

上半期ベストテンについてはポッドキャストでも紹介しています。




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