長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ヴァラエティ』

2024-12-30 | 映画レビュー(う)

 米インデペンデント映画の重要な先駆者、ベット・ゴードンの長編監督第1作が日本で劇場初公開された。1970年代後半から80年代前半に、NYアンダーグラウンドで興った“ノーウェイブ”に位置する女性監督である。彼女が撮らえたストリートの文化風俗史的価値はもちろんのこと、この時代に少なくなかった女性映画作家の存在は今日のアメリカ映画史において見過ごされがちである。ゴードンについては近年、ローラ・ポイトラスがやはりノーウェイブの重要な証人である写真家ナン・ゴールディンを追ったドキュメンタリー『美と殺戮のすべて』でも言及しており、『ヴァラエティ』の公式スチルを担当し、カメオ出演を果たしているのがゴールディンその人だった。

 クリスティーンはポルノ映画館のチケット売り場に仕事を見つける。長身、ブロンドの彼女に男たちは気まずそうに目を伏せながら入場料を払っていく。しかし、ストリートを歩けば彼女のルックスは人目を引く。おそらくゲリラ撮影であろうカメラに道行く人々は好奇の視線を送り、83年のNYで生きるクリスティーンの皮膚感覚を観客に実感させる。彼女は度々やって来る身なりの良い紳士が気になり、尾行を始める。映画の視点は一転、見られる側から見る側へと変わり、クリスティーンの性的アイデンティティは解放され、彼女の中で物語が生まれ始めていく。

 猥雑なネオンと交差点の暗闇が夜の街には何かがあると思わせてくれる。ゴードンは現在、コロンビア大学芸術学部映画学科で教鞭を執っているという。


『ヴァラエティ』83・米
監督 ベット・ゴードン
出演 サンディ・マクロード、ウィル・パットン、リチャード・デヴィッドソン、ルイス・ガスマン、ナン・ゴールディン

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ザ・バイクライダーズ』(... | トップ | 『グッド・ワン』 »

コメントを投稿

映画レビュー(う)」カテゴリの最新記事