長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ウェンデルとワイルド』

2022-11-18 | 映画レビュー(う)

 製作に非常に長い時間がかかるストップモーションアニメとはいえ、さすがに僕たちは長いことヘンリー・セリックの新作を待たされ過ぎた。2009年の『コララインとボタンの魔女』以来となる最新作『ウェンデルとワイルド』は『ゲット・アウト』『アス』『NOPE』の奇才ジョーダン・ピールがプロデュース、脚本を務め、Netflixからのリリースだ。セリックといえば不気味でグロテスク、キッチュでダークな作風でこれまでティム・バートン(『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』)やロアルド・ダール(『ジャイアント・ピーチ』)、ニール・ゲイマン(『コララインとボタンの魔女』)など錚々たる“狂気”と組んできただけに、現役最高峰のピールがどんな化学反応を起こすのかと期待が高まった。

 幼少期に自動車事故で両親を亡くした主人公カットはその後、養護施設を転々とし、生まれ故郷の町に帰ってくる。かつて両親が経営し、町の基幹産業だったブルワリーは失火事故で焼失しており、これをきっかけに人口は激減。ゴーストタウンと化した跡には企業による刑務所誘致が進んでいた。カットはウェンデルとワイルドという2匹の悪魔と契約し、両親を甦らせようとするのだが…。

 地獄の大王の頭皮の上で植毛を続ける使い魔、というセリックらしい突拍子もない設定のウェンデルとワイルドをピールと相棒キーガン・マイケル・キーが演じ、キャラクターデザインも彼らそっくりだ。現代社会を恐怖で風刺するピールだが思いの外、狂気が足りず、随所に散りばめられたイシューがセリックの奔放で時に禍々しいインスピレーションを妨げてしまっている。養護学校の子供たちが刑務所へ送られるシステムはエヴァ・デュヴァネイ監督の『13th』でも描かれた“刑務所ビジネス”という産業構造的人種差別を彷彿とさせるも、セリックの狂気はこの問題にあまり熱量を持っておらず、ランニングタイム106分は長い。これは逆説的にピールの(現時点での)限界にも思え、理詰めの物語には無意識から来る創造性がないのだ。『コララインとボタンの魔女』以後、様々な企画が頓挫したセリックを担ぎ出したピールの功績は大いに評価されるべきだが、ピールの知性と理性に巨匠がいささか居心地悪そうに見えてならなかった。


『ウェンデルとワイルド』22・米
監督 ヘンリー・セリック
出演 キーガン・マイケル・キー、ジョーダン・ピール、アンジェラ・バセット、ビング・レイムス、リリック・ロス

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