寝転んで空を見る

山高きを厭わず 海深きを厭わない

槍を眺めに晩秋の蝶ヶ岳へ Day2

2015年11月15日 | 2015北アルプスの旅
10月8日。
前夜の22時くらいに目が覚めてから寝付けず・・・結局4時を迎えた。
『完全に寝不足』

―外は寒いからトイレに行きたく無いな―
などと思っていると、尚更トイレに行きたくなるのが人体の不思議。
尿意に負け、仕方なくテントを出ようとすると、フライシート(テントの外張り)が凍っている。
どおりで寒い訳だ。
この時期にこの標高(1500mほど)で0℃以下を体験するのは久しぶり。

トイレに行く時に空を見上げれば満天の星。
俺の生まれた町じゃ星の数が少なくて、星座観測の宿題すら不可能に近かったのに・・・

―ここでは『瞬く星の数が多すぎて星座がよく分からない』―

故郷の星は瞬かないのだ。
(因みに、星が輝いて見えるのは『尿意から開放されたから』では無い)


テントに戻って、作り置きの山菜おこわ(フリーズドライ)を食べる。
当然冷たいが、これが今日の朝食。

朝食を済ませたら、25ℓほどのサブザックに防寒着や行動食等を詰め込み外に出る。
そう、今回は『縦走では無く』しかも徳沢にもう一度戻ってくるので、テントなどの重い荷物は置いて行けるのだ。

ヘッドライトを装着して夜明け前の5時過ぎに出発。
明かりを頼りに、先ずは『横尾』を目指す!
『日の出』は6時前なので横尾に着く前には明るくなる計算。
以前この付近で熊に遭遇した事があるが…万が一襲われてもトレッキングポールでマズルをぶっ叩けば、なんとかなるだろう。

本日のルートはこちら↓↓


横尾から蝶ヶ岳(2677m)へ登り、長塀山方面から徳沢へ下山する。
地図によれば8時間の道のり!


予定通り6時に横尾到着。
涸沢へ向かう準備をする人達を横目に、俺は横尾山荘脇の蝶ヶ岳と続く獣道の様な登山道へ入っていく。
この先は樹林帯の急登が3時間余続く…ここからが本番。

30分も登っただろうか?
先行していた御老人に追い付き、道を譲ってもらう。
そのすぐ先は『槍見台』。そう、槍ヶ岳の先っぽが見える場所。
その『槍見台』でカメラでパチリとやっていると、先程の御老人が
「今日は良い天気やね」
と声を掛けて来た。
「そうですね。この天気なら稜線では素晴らしい景色が見れますね」
「でも上は風が強いだろうから寒そうですが・・・」
と返す俺。
この御老人は常念岳へ向かうそうな。(70~80歳くらいに見えるが、元気だねぇ)

御老人に別れを告げ、更に登って行くと・・・こんな所に出た。

「ああ、在ったねこんな所」と思い出す。

ここは樹林帯の急斜面の中を少し拓いてある場所で、丸太のベンチが作って在る休憩場所。
『なんちゃって』とはあるが、ここからの展望は本家『槍見台』より優れている。



山に登らない人は、その目では中々見る事が難しい槍ヶ岳。
―人里から見れる場所にあって、多くの人に見て欲しかった―
と思う反面。
―山深くに在るからこそ良いんだよな―
とも思う。

稜線で目に出来るであろう絶景を力に変えて、急登を行く。

それにしても、ここまで登ると寒い!
蝶ヶ岳は南北に伸びる常念山脈にあり、横尾から登ると西から東へ登る事になる。
その為、西側斜面のこの登山道に日が当たるのは遅い。(おまけに樹林帯)
更に風が吹き降ろしてくる。
指が痛くなる前にグローブを・・・と思ったら指が痛くなってきた…。

しかし、寒いとは言っても登山なので汗をかく。(特にザックと接する背中側)
なのでレイヤリングが難しい。
最初はアウター代わりに通気性の良いフリースを着ていたが、背中が汗で濡れたので脱いだ。
結局、長袖で速乾性と保温力の高いジオライン(モンベル)のシャツの上にレインジャケット。このレイヤリングに落ち着いた。
とは言うものの、行動中はこれでOKだが休憩すると寒い。
日差しが恋しい。


樹林帯の登りは苦手だ。その一番の理由は景色に感動して元気をもらう機会が少ない事。
二番目は、先(山頂)が見えない事。
生憎、腕時計の高度計は壊れたままなので、時間と地図を頼りに現在位置を推測して、登って行く。

こういったキツイ登りに効くのが『飴玉』。
行動中も味わえる『飴』は俺にとって北アルプス必須の行動食。
今回持って行ったのは『アミノ酸入りの飴』と『小梅ちゃん』
昔から小梅ちゃんが好き(普段飴は舐めないが)
今回の『小梅ちゃん』は期間限定で大玉が『青梅』になっていた。
―あの木の所まで登ったら青梅の大玉を舐めていい―
そんなマイルールと御褒美を決め、時に小梅ちゃん恋しさから
「小梅ちゃーん!」と叫び登って行く。

急登や寒さ、山頂の見えない辛さに対し、鍛えた体力+レイヤリング&ギア+小梅ちゃんで立ち向かって行く事3時間・・・。

―稜線はまだかよ―

―確か突然、視界が開けたら、そこから樹林限界で、すぐに稜線に出るんだよな―

過去の記憶を思い返し歩を進めていたら、急に木々が無くなり、ハイマツと岩だらけのなだらかな稜線に出た。

やっと稜線に。

―振り返れば穂高連峰の絶景がある―
それを知っているから、樹林限界を越えても振り向かず稜線まで歩いた。


振り返れば、秋晴れの青空と槍と奥穂を始めとする大好きな穂高連峰の姿。
なかでも、槍ヶ岳は格別な存在感。

「これを見に来たんだ」と呟く。

上高地ビジターセンターで目にした『小島鳥水』の一節が胸に蘇る。

余が 鎗ケ嶽登山をおもひ立ちたるは一朝一夕のことにあらず。

何が故に然りしか。

山高けれ ばなり。

山尖りて嶮しければなり。



―ここに来て良かった。また槍ヶ岳に登ろう―
そんな思いがこみ上げて来て、にんまりと笑う。

この景色を堪能しながらの休憩といきたいが、なにせ風が冷たく、しかも強い。
なので、蝶ヶ岳山頂方面へ歩く事30分。そこに建つ蝶ヶ岳ヒュッテへ向かう。
(2010年撮影の蝶ヶ岳ヒュッテと槍ヶ岳)
暖かいココアでも飲みたいところだが、この山小屋は例年10月10日位に閉めるので、物資が無い可能性が高い。
じゃあ、と風を避けれるテント設営地へと向かった。

2010年の秋は俺一人のテン場だった。(この年の涸沢の紅葉は素晴らしかった)
翌2011年の秋は、狭い設営地いっぱいにテントが在るのを見てここを通り過ぎ、安曇野へ下山したっけか―(下山後ホテルが空いてなくて辛かった)

(2011年秋のキャンプ指定地)

2015年の今日は、紅葉のピークも過ぎたからだろうか?
夫婦のテントが一張りだけで、以前テントを張った風裏の場所が空いていたのでそこで休憩。
日差しは強いので風裏は暖かい。
カロリーメイトを二袋(フルーツ&チョコ)に行動食のカシューナッツ&胡桃を食べつつ、汗で濡れた衣類をそこらに広げて乾かした。

後で思えば、この判断は絶妙だった。
濡れたフリースとジオラインのシャツは就寝時にも使用したのだが、このタイミングを逃していたら今晩は凍えていたであろうからだ。

そうこうしている内に、適度な風と日差し、あとは機能性のおかげ(アウトドア用品はここが重要)で衣類はあっと言う間に乾いた。
腹も満ちた事だし、蝶ヶ岳2664mの山頂へ向かう。


―うーん、この景色とも、おさらばか・・・―

―来年は今見ている風景の中を歩きたい―

そんな想いを懐いて下山開始。

(2010年撮影 蝶ヶ岳山頂から見る山小屋となだらかな稜線)

↓↓昨日から蝶ヶ岳山頂までの流れを撮影した動画↓↓
編集無しの動画をつないだ物なので粗さは御勘弁を。
蝶ヶ岳Movie



さあ下山。
蝶ヶ岳から長塀山の尾根伝いに徳沢と至る山道は、かつて登った事がある道。しかし、下山に使うのは初めて。
3時間の下山(しかも傾斜がキツイ)は結構ハードだと理解していた。
3時間登った後だし・・・。
まあ、それでも妖精の池や長塀山までは問題なかった。

あっそうそう。
長塀山頂での休憩中、関西弁の初老の男性に出会い言葉を交わしたのだが、そこで感じたのが
『北アルプスでは、やたら関西の人に出会うな?』って事。
これについて後々思い至ったのは
『関西の人は北アルプスが好きなのだろうか?』(東北の人には出会った事がない)
いや、『関西の人は話好き&フレンドリーだから言葉を交わす確率が高く、印象に残るんじゃないか?』
の二つ!

さて、答えはどちらなのだろう?


さてさて、下山。
実は今回の山旅の前から、左足の親指を傷めており、そこにバイ菌が入り腫れていた。
その為、登山靴を緩めて履いていたのだが、それが下山に祟り、足の裏中や踵にマメが出来てしまった。
おまけに腫れていた指は出血してしまう始末。
こんな事もあって今までで一二を争うキツイ下山になった。

しかしコースタイム的には予定通り、12時30分に徳沢に下山。

足の事もあるので、徳沢にもう一泊る手も考えたのだが、上高地をぶらぶらしたいし、小梨平でキャンプがしたかったのでテントを撤収。
更に2時間ほどの道を歩いて上高地へ向かう。
(足が酷い事になっていたので、なんでも無いこの道のりがきつかった)

15時前に上高地に到着してテント設営。(正直かなり疲れた)
(小梨平の設営料は100円上がって800円になっていた)
痛む足を引きずりつつ河童橋やビジターセンターを中心に散策、日が傾くと風も吹き出し、急に寒くなって来たのでテントへ。

夕食の準備をしていると、毎年小梨平でキャンプをしつつ絵を描いている、あの御老人が声を掛けて来た。
「夜は冷えるよー」
俺はその言葉に笑顔を返しておく。
―俺は雪が降る北アルプスでキャンプした事もあるんだぜ?―


それに、今日のディナーは豪勢!これで今晩はグッスリさ。
『白米二食分』と売店で買ったウインナーをぶち込んだ『おでん』!!さらにコーンポタージュスープつき。
流石に多すぎたディナーに苦戦しつつも、なとか腹に収めて19時に就寝して旅を終えた。


今回の山旅を終えて、今思う事は
「また槍ヶ岳を登りたい。夏の日差しを浴びて縦走がしたい」

うん。来年の夏が待ち遠しい。


槍を眺めに晩秋の蝶ヶ岳へ Day1

2015年10月25日 | 2015北アルプスの旅
10月6日の深夜。
部屋中に散らばった衣類や小道具に囲まれて悪戦苦闘・・・。

大量の荷物を75ℓのザックにどうパッキングして行くか、何から手に付けて行くか・・・
面倒くさくて先延ばししたい。

重い物はザックの上の方で、なるべく重心に近い背中側へ。
ああ、でも防寒着も取り出し易い所に入れとか無いと・・・。
山の朝ではチャチャッと準備できるのに、毎度の事ながら出発前夜は、これがはかどらない。

何とかパッキングが終って時計を見れば、日付が変わって10月7日。

忘れ物は無いか?頭の中でチェックする。(ザックの中身を出す気には成れないので)
カイロもう一個持って行くか?などと迷いが生じるが、何でもかんでも持っていく訳には行かないので…
これで良しとして置く。


前夜の残りのカレーライスと、かけ玉うどんで腹を満たして5時前に出発。


いきなり電車の乗り継ぎを間違えて、一本遅い松本行きの電車で行く事に。
この日は上高地から徳沢まで歩き、徳沢でテント泊の予定なので・・・
まあ、問題なし!

中央本線八王子発、松本行きの鈍行に揺られていく。
窓の外は山・山・山。
山ばかりなのに山梨とは、これ如何に・・・(結構そんな風景が好きなんだけどね)

しかし、毎度の事ながら『永い!』(乗車時間5時間ほど)

10時過ぎにやっと松本に到着。
新島々線とバスを乗り継いで上高地に着いたのは・・・
12時40分!


河童橋の手前からパチリ
『うん。良い天気!』(でも肌寒い)

穂高も梓川も今日も変わらず美しい!


13時15分、本日の野営地「徳沢」を目指して梓川左岸の道を歩き出す。


風は冷たいが、歩き出すと直ぐに汗ばんで来たので、フリースを脱いで速乾Tシャツ一枚で歩く。
(裸にTシャツじゃないよ?)

道中、所々でカラメルの様な甘い香りが漂う。
その正体は、カツラの落ち葉が出す香り。
(上高地ビジターセンターによれば、この香りの正体は飴細工に含まれる成分と同じなんだとか)

『今年も観光客が多いなぁ』『外国人も多いいが、特に中華系の人が多いな』などと思いながら更に歩を進める。
そう言えば明日8日は、明神池で行われる穂高神社奥宮の例大祭だったな~と思い出す。

こちらが以前目にした『穂高神社奥宮例大祭(明神池お船祭り)』の模様。
拝観料取られずに明神池が見れるからラッキーなのだが…(たしか11時から無料で入れたはず)
『流石に11時までに下山は出来ないだろうから、無理』。などと思いながら明神も過ぎて、徳沢到着。
(因みに徳沢ロッジは工事で休業中だった)

さっそく徳沢園で受付を済ませて、テント&寝床の準備が完了したのは15時50分過ぎ。
設営料700円(水&水洗トイレ利用両込み)ムムッ?やはり値上がりしている。
(北アルプスの多くのテン場は、軒並み以前の500円から1000円へ値上げされている)



中央のテントが我が移動式別荘!

どおよ!?このロケーション!

ちまたのキャンプ場は1500~3000円取るのがザラだが、このロケーションで700円。
全国のキャンプ場さん、徳沢や小梨のキャンプ場に勝てるのか?いや、勝てねーよな。



日が傾くと一気に寒くなって来たので、テントの中で小説を読んで過ごす。
すると、徳沢にテントを張る他の登山者達の話し声が聞こえてきた。
『涸沢の紅葉は終っちゃったらしい』『何回も来てるけど何時もタイミングが合わないんだよねー』と。
なもんで、明日は飛騨に行って高山祭りを楽しむんだとか。

そんなもん、なんだろうか?

俺は涸沢で『今年は10年に一度の紅葉』って言葉を数年で数回聞いているのだが・・・。

日本一と言われる、『涸沢の紅葉』を見たい人は、涸沢ヒュッテや涸沢小屋のHPをチェックして行く事をお勧めします。
大体、紅葉のピークは、早い年で9月下旬、例年で10月上旬。(9月24~10月10日の間くらい)

自分の経験上、多くの年は10月4日~10月10日の間にピークが来る事が多いと思っています。
急に休めない人は、夏の様子から紅葉の時期を予測して、休みを取っておく事をお勧めします。
天候は難しいですが、紅葉のピークは予測できるし情報も出てますので、それを利用しましょう。

今回の俺は、紅葉目当てでは無いですが・・・。


さて、日没後の18時過ぎ、本日の夕食『サッポロ一番』を食べる。
かなり冷え込んで来たのでポタージュスープを飲み、腰にカイロを貼って、19時過ぎに就寝。

明日は、夜明け前に出発して横尾から蝶ヶ岳を登る。



                                   つづく

帰宅

2015年10月18日 | 2015北アルプスの旅
10月10日に帰宅。

まあ、今回は色々大変な山旅でした。

山旅の前から指を痛めていた為、少し靴を緩めたら
下山で足がマメだらけになり、上高地や松本をブラブラする事が出来なくなってしまったり。

帰りの特急を待っている間に震えが止まらなくなるわ、電車の中で発熱するわで、中々に厳しい旅でした。 笑



当初、今回の山旅は燕岳から槍を登り(表銀座ルート)穂高連峰(北穂・奥穂・前穂)を回る旅を考えていました。

しかし、今年は秋の訪れが早かった為、縦走は諦めました。


次に考えたのは、槍ヶ岳か霞沢岳、若しくは蝶ヶ岳。


事前情報では、かなり冷え込みが厳しくなって来つつあるとの事だったので…

結果、蝶ヶ岳に登る事を決めました。


徳沢でテント泊、翌日に蝶ヶ岳へ登り、そのまま下山すれば寒さもほぼ回避できるので!

個人的には、槍沢に前泊しての槍ヶ岳登山の方が体力的に楽だと思ってますが、(蝶ヶ岳の方が急登でキツイ)
槍沢や徳本峠より徳沢の方が、標高が低い分、暖かいかな?と言うのが理由。


まあそれと、北アルプスへ来るのに少し間が開いていたので、好きな山々を眺めて来夏へのモチベーションを高め様と思いました。

大好きな槍を眺めて『また行くよ!』ってね。

何回か言ってますが俺『楽しみは、後に取って置く』方なんです!



つー事で、ぼちぼち『2015北アルプスの旅』の記事をアップして行こうと思います。