寝転んで空を見る

山高きを厭わず 海深きを厭わない

酔いどれ次郎八

2012年08月15日 | 本と雑誌

山本周五郎の短編小説を北アルプスの山中、テントの中で読んでいる事は以前にも書きました。

元々は山に持って行きたい本が思い当たらず、兄貴の本棚から拝借して行ったのが山本周五郎作品との出会いです。

 

その山本周五郎作品の中で感動的な物語は幾つもあるのですが、最近特に感動したのが

新潮文庫『花匂う』内の『風車』と『酔いどれ次郎八』内の『酔いどれ次郎八』です。

 

周五郎作品の主人公(男)は本当に爽やかな、夏の稜線を吹き抜ける風のような男達です。

その男達に一途で直向きな想いをよせる妻や許婚の女性達。

北アルプスで周五郎作品を読んでいると、そんな主人公にチョッピリ近づけた気にさせてくれます。

 

でも、酔いどれ次郎八』は、ちょっと異質。

ほんと切ない・・・物語です。

正に日本の情緒、ラストに余韻を残す素晴らしい作品です。

その感動の切ないラストをここで『ぶちゃけたい』気持ち満々ですが、そこはぐっと我慢。

文庫本裏表紙にあるストーリーだけを御紹介!

 

藩の名刀を奪い、役人を斬って薩摩藩に逃げ込んだ侍を上意討ちにする命をおびた矢作次郎八と岡田千久馬。

二人は首尾よく本懐を遂げるが、薩摩藩士に取り囲まれ退路を断たれる。

千久馬を逃がし、その場で死んだと思われていた次郎八が二年後に藩に姿を現した時、

かつての許婚は千久馬のもとに嫁いでいた―。

次郎八のとる意外な行動を描く表題作。

 

読み終えると、感動です。やるせない・・・。

俺がもし、次郎八と千久馬の共通の友である欣之助だったなら、黙っていられないのは間違い無し。

ラスト、欣之助が発する言葉は、この物語を読んだ者の想いでもあると思います。

その言葉だけでもブログに乗せて、この記事をしめたいと思います。

 

『これ程の武士を、――』

欣之助は咽びながら云った、

『みすみす悪名に朽ちさせるのか』


良く頑張った!

2012年06月06日 | 本と雑誌

『岳』の最終話を読みました。

 

凄くいい終わり方だったと思う。

 

三歩は、どうなってしまったのだろう。

今も元気で何処かの山に居るのか?

それとも、もう居なくなってしまったのだろうか?

 

最後のページ、エベレストで欠けたはずのコーヒーカップが湯気を上げていたのが意味深。

(カップが欠けていないのは、どちらを意味するのだろうか)

 

なんか、すげー寂しい

どうやら俺は、三歩が居なくなってしまったと受け取って居るみたいです。

心にポッカリと穴が空いてしまった・・・

 

三歩との約束の地ティートンに立つナオタは、まるで三歩の様だった。

ナオタの物語が見たい。

 

ポッカリ空いてしまった穴を埋めるには、山に行くしか無いでしょう!

って事で、急遽明日の始発で山に行って来ます。

 

三歩へ

ありがとう!

良く頑張った!

 


You will come, back to mountain.OK?

2012年05月19日 | 本と雑誌

漫画『岳 -みんなの山-』が6月5日発売のビックコミックオリジナルにて完結するそうだ。

『ああ、やっぱり・・・ね』って感じ。

『終りは近い』と感じていたけれど、ちょっと寂しい。

けど正直、最近のストーリー展開に違和感を感じて居いた。

『三歩の山岳救助に対する考え方が変っちゃってるだろ』って・・・・。

三歩は、山と救助のスーパーマンだ。

大好きな山で悲しい思いをして欲しくないから、山岳救助ボランティアをする三歩。

しかし三歩にも限界があり、自分の命と引き換えの救助なんてしない。

『山が大好きだから、山では死なない』

そう三歩は言っていた。

その為、時に辛い決断を迫られる事もあるが、その辛さや背負う悲しみを表には出さない。

俺は、そんな『島崎三歩』が大好きなのだ。

ところが完結へと向かう物語の中では、

吹雪の中、エベレストの頂上やヒラリーステップ付近を救助の為に何度も上り下りする三歩の姿がある。

しかも、ほとんど無酸素でだ・・・・。

(エベレストでそれを出来るのなら、2巻の第6歩『選択』で二人とも救助出来たんじゃ?なんて思ってしまう)

そして終いには、自殺行為的な救助へと向かう。

まあ此処で、この素晴らしい物語を完結へと持って行こうとする『強引さ』を感じて

『ああ、終わっちゃうんだな・・・・』と結末が近い事を確信した。

寂しく思うと同時に、ちょっと無理やりな展開に残念な気持ちになった訳だ。

(物語を終わりに持っていくのは難しいのだろうねぇ)

そんな強引さに違和感は感じても、それでも、やっぱり良い物語。

俺にとって、ず~っと手元と心に残しておきたい漫画!

三歩が救助された人や、山で大事な人を失った人達にかける言葉が大好きだ。

『よくがんばった!』

『がんばった君に、ありがとう』

『また山においでよ!』

どんな結末を迎えるにせよ、完結を迎える6月5日が楽しみであり、ちょっと寂しい。


2011夏の北アルプスで読んだ本

2011年10月30日 | 本と雑誌

今年の夏、北アルプス縦走時に読んでいた本、『破軍の星』と『宇宙兄弟』の話。

 

一冊目はテントの中で読んでいた北方謙三の小説『破軍の星』。

南北朝時代の公家(武士では無い)北畠顕家を主人公とした物語。

以下、北畠顕家の生涯を簡単に(史実)

北畠顕家は、建武の親政により16歳で陸奥守に任官。1334年多賀城へ赴き奥羽を平定。Img_1007

同年、足利尊氏が後醍醐天皇に反旗を翻した折りには、鎌倉から京を目指す尊氏軍を追い、陸奥より出陣。長躯して足利軍を京から追い出して九州へ敗走させる。

1335年には、吉野へ落ちている後醍醐天皇の勅を受け、再び軍勢を率いて足利尊氏の勢力化にある京奪還を目指し陸奥より出陣。鎌倉を攻略。

1338年、美濃青野原にて足利方の軍勢を打ち破るも兵の損耗激しく、京奪還は為らず伊勢へ後退。

和泉の国石津にて僅か兵200を率いて足利方の高師直率いる軍勢と戦い討ち死に。(享年21歳)

この最後の戦の直前に後醍醐天皇に対し、その失政を諌める奏上文を遺した事が有名。

以上が顕家に関する史実である。

勿論小説には、フィクションの部分が多分に含まれている。(特に、この作者の作品は)

しかし、近年暗君の評価を得ている後醍醐天皇に不満を持ちつつも忠誠を尽くし、若い命を散らした顕家の切なく物悲しい生涯は作中に表現されている。

この小説を北アルプス縦走中テントの中で少しづつ読み進み旅の終わりと共に読み終えた。

本来、歴史小説は出来るだけ史実に基づいた作品が好きだが、

『君君足らずとも臣臣たれ』を貫いた若き名将の短い生涯に思いを馳せる事は、山旅の味わいをより深いものにしてくれた。

 

もう一冊はヒュッテ大槍で読んだ『小山宙哉』作の漫画『宇宙兄弟』!

以前から面白い!との話を聞いていたが、ヒュッテ大槍の食堂に置いてあったので読んで見た所・・・

面白い!ハマリました!現在発売中の全15巻まで新刊で購入&読破済み!

この物語は宇宙飛行士&宇宙を目指す兄弟の物語。

ストーリーは勿論、笑いあり涙ありで面白いのだが、とにかく出て来る登場人物が魅力的!

ちょっとネガティブだがユーモアと熱い心を持った主人公『南波六太』を筆頭に弟『南波日々人』ヒロイン『伊藤せりか』等々出て来るキャラクターが其々愛すべき個性を持っている。

中でも俺は、『ヤングじい』事、『デニール・ヤング』と『六太』のやり取りが好きだったりする。

読む者を元気にしてくれる作品『宇宙兄弟』お勧めです。(週刊モーニング連載)

 

後日、『宇宙兄弟』が実写映画化される事を知りました。

主人公『六太』を演じるのは、なんとあの・・・『小栗旬』!

本屋でそれを知った時、『なんじゃそりゃ!』と声に出して突っ込んでしまった(笑)。

物凄い漫画好きで有名らしいから、本人が映画化の話を持ち込んだのかな?

まあ、岳の三歩役よりはマシかな・・・。

しかし、『伊藤せりか』役には『麻生久美子』では無く『ミムラ』が良かったなぁ~。

『六太』役も若かったら『阿部寛』が良かった!(幅のある演技が出来るし)

『大泉洋』って言う人が多いけど、それ髪の毛だけのイメージじゃね?(笑)

大好きなんだけど役者の大泉洋はあまり評価していないんだよね・・・

役の年齢と演者の実年齢は関係無いから、やっぱ阿部寛が良いや!(ムッタはフケ顔でおじさんって言われてるし 笑)


ガックし! 

2011年05月15日 | 本と雑誌

5月10日、映画『岳』を観て来ました。

 

上映開始直後は、『岳』が映画になった事に感動していた俺。

しかし・・・。

ストーリーが進むにつれ・・・原作と映画の設定の違い。

原作のエピソード改ざんが目に付き、完全に冷めた気持ちでエンディングを迎えました。

 

冷めた理由

何故にあそこまで原作の登場人物設定を変えたのだろうか?

「野田」が「三歩」の先輩だったり、「阿久津」が熱血救助隊員で「久美」の先輩ってのは酷かったし

「ナオタ」も、ひ弱な子供に描かれていた。(岳第3集、第3歩『オトコメシ』のラストに於ける「ナオタ」と比べて欲しい。)

特に酷かったのが「椎名久美」の設定と「三歩」の過去の設定。

「久美」の父親が救助隊員!しかも「野田」の先輩で二重遭難で死亡・・・

それが「久美」の救助隊員を志願した理由って・・・(なんてベタなんだ)

 

「三歩」がハーフドームで滑落して来る「親友」(誰れ?笑)の手を掴もうとするシーンにもビックリした。

映画の元になった原作のエピソードで「三歩」がやらないと言っている事を(『岳』第2集 第3歩『滑落』を参照)映画の「三歩」はやってしまっている・・・。

あれでは、映画の「三歩」は救助で死んでしまうだろう。

 

ラストの『久美』なんて、原作では考えられない行動を取る。

更に驚く事に、その『久美』の無茶な行動によって一人の命が助る・・・・。

本当の救助隊員なら絶対にしてはならない事をカッコいいと見せる

安っぽい熱血救助物は大っきらいなんですよ俺!

そうじゃないから『岳』が好きなのに・・・。

  

原作において、一番心に強く残っている救助の話があります。

それは第2集 第6歩『選択』です。

この話で「三歩」は非情な、しかし正しい選択をします。

その選択を悲しい表情や苦しさを見せずに行います。

ウソまでつきます(この話で完全に、岳と三歩に惚れ込みました)

(第5集 『救助士』の話も改ざんされててショック)

このエピソード、『岳』の魅力である『穏やかな面』と『厳しい面』の後の方を表している部分だと思っていますが、

映画では意図的にこう言った『厳しい面』を排除している事が伺われて残念でした。

どうも在り来たりの、甘っちょろい救助物語が作りたかった様で・・・残念。

 

更にもう一つ言わせてもらうと

映画では、山に来る人達が何故山に来るのか?登るのか?が描かれていませんでした。

(映画オリジナルの三歩と久美が救助をはじめた理由を除き)

何故山に来るのか?山を登るのか?山に何があるのか?山で何を得たのか?

これ、原作『岳』の重要なテーマのはずでしょう?

映画序盤シェルンドに落ちた遭難者、あれじゃただの愚か者でしょう?

彼が何故山に来たのか?知りたい人は原作第1集 第3歩『写真』を読んで下さい。

 

最後に、

『登場人物の設定を変える』

『原作の重要なテーマや主人公や作者の救助の考え方すらも変える』

監督自身も、これは別の『岳』なんて言いますが、じゃあオリジナルの救助物でも作れよ!と言いたい。

其処までして何故原作のあるものを映画化するのだろうか?

よく言われるのは、人気のある原作を映画化する事で、原作のファンによる収益がある程度見込める事&話題性&出版社も取り込める。

それにより映画会社からの製作許可、スポンサー(資金)が集まるからだそうです。(製作の許可が下り易い)

結局、これを映画化したい!この素晴らしい作品を見せたい!では無いんですよね。

ほんと残念。

  

そんな訳で『岳』を愛するが故にこの映画、評価できませんが・・・

映画を好かったと思う方も、そうでない方も原作を読んで見て下さい。

原作は、映画よりも100倍厳しく優しい、山へ来る人達の物語です。

人は何故山へ来るのか?その答えの一端を垣間見れるでしょう。

 

劇中、谷村山荘のシーンに『岳』の作者、石塚真一さんと超有名フリークライマーの平山ユージさんが出演している事に気付きました。(気がつきましたか?)

そこが、この映画で一番印象に残ってるかな(笑)。