外食産業大手の「すかいらーく」(本社・東京都武蔵野市)で非正規の契約店長として働いていた埼玉県加須市の前沢隆之さん(当時32歳)が、長時間労働が原因で過労死した問題で、遺族と遺族が加入する労働組合は13日、正社員の年収計算での損害賠償、再発防止などで会社側と合意したことを明らかにした。生きていれば受け取れるはずだった「逸失利益」を正社員と同じ年収で算定した。今回の合意は、非正規と正規の格差是正に影響を与えそうだ。【東海林智】
合意書や母笑美子さんによると、合意は、会社側の謝罪や再発防止策、損害賠償、不払い残業代精算など。
損害賠償の逸失利益は通常、年収を基に計算される。同社では非正規の店長と正社員の店長では年収で約100万円の差があるが、前沢さんは、店長として正社員と変わらない重い責任を持たされていたとして、正社員と同じ年収で算出した額で支給されることになった。
また、不払い残業代の精算では、前沢さんに約122万円が支払われるほか、同社の他の契約店長55人にも計1746万円(2年分)支払われるという。
再発防止策では、労働時間を客観的に把握する仕組みを導入することや健康管理対策の強化を盛り込んだ。会社側は「(過労死は)当社の安全配慮義務違反に起因する」として、時間管理や健康状況の把握が不十分だったことを謝罪した。
前沢さんは91年にアルバイトとして入社。06年3月から1年契約の契約店長となり、遺族によると月200時間を超える残業をし、翌年10月に脳出血で死亡。08年6月に春日部労基署から過労死と認定された。すかいらーく広報室は「再発防止に更なる労務管理の改善に努める」と話した。
◇「生身の人間 忘れるな」遺族会見
「(仕事で)過労死になる人や障害を持つ人がいる。こんな社会を作ったのは人間です。ならば人間が変えられるはずです」。前沢隆之さんの母笑美子さんは13日、厚生労働省で会見し、振り絞るような言葉で訴えた。
会見には04年8月に同じすかいらーくで正社員の店長を務めていた夫の中島富雄さん(当時48歳)を過労死で亡くした妻の晴香さんも同席。晴香さんは「5年前会社は二度と過労死を出さないと約束したのに、繰り返された」と怒った。笑美子さんは「生身の人間が働いていることを忘れてはいけない。過労死という言葉が死語になるように頑張りたい」と決意を語った。
◇解説 労働者間の格差 是正待ったなし
同じ仕事をしたら同じ賃金を支払うべきだとする「同一価値労働同一賃金」という原則は欧州では広く定着している。しかし、日本では、雇用形態の違いだけで賃金に格差をつける状態が長く放置されてきた。過労死した前沢隆之さんは正社員と同じ重責を担い、過重な残業をこなしており、今回の合意は当然とも言える。今後、過労死に限らず、この合意をモデルケースとして、同じ仕事をしながら低賃金を強いられている非正規労働者の処遇改善問題に早急に取り組む必要がある。
最近の労働相談では、不況を言い訳に、仕事を与えることを人質として長時間労働を強いるケースが報告されているという。前沢さんのケース以外でも、非正規労働者が酷使され、過労うつなどの労災を申請するケースも出ている。正規も非正規も「仕事に殺される」ことを許してはならない。労働者間の格差の是正は待ったなしだ。【東海林智】
(毎日新聞より引用)
生身の人間が働いている事を忘れかけている「社会」「会社」がある。悔しい事だ。不況のツケは、経営陣ではなく、会社の末端スタッフに押し寄せて来るのだ。