近鉄四日市の5番ホームに停まる3両編成は湯の山線、先頭車両には開湯1300年のヘッドマーク。
鈴鹿の山波に向かう短い旅だけど、おそらくは長く苦難の近鉄線呑み潰し、過酷な旅の始まりなのだ。
四日市の賑わいの中心は、明らかにJR駅ではなく、西に1km離れた近鉄駅に寄っているなぁ。
北(名古屋方面)に向かって出発した3両編成は、いきなり左へ急カーブして西へと転針する。
ひと駅分を高架で市街地を跨ぐと地上に降りて、住宅街を抜け、ほどなく車窓には田園風景が広がる。
桜駅では乗降が終わっても構内信号は赤のまま、やがて緩いカーブの向こうから交換列車が現れた。
日中30分に1本走る湯の山線は、行程半ばのこの駅で上下線が行き違うのだ。
右へ左へ半径の小さいカーブに車輪が悲鳴をあげ、登り勾配に古いモーターが唸り出したら終点は近い。
四日市から約25分、乗り通したわずかな乗客を見送って、3両編成の短い旅は終わる。
「男はつらいよ フーテンの寅」(昭和45年作品)で見るような賑わいはすでにない湯の山温泉駅。
温泉を訪れる客の多くはマイカーか名鉄バスセンターからの直行バスを利用するのだろう。
呑み人は駅前からの路線バスに乗る。乗客は山ガール姿の初老のご婦人二人連れとたった3人だ。
日帰り温泉か、御在所ロープウェイか、後者を選択。標高1,212m、山上の別天地に惹かれる。
ところがだ、日本一の白鉄塔(高さ61m)と言われる6号支柱を過ぎた辺りからすっぽり白い霧の中。
山上の奇岩・珍岩、富士山(空気が澄んだ晴天には見えるらしい)も琵琶湖も見えず終いなのだ。
しからばお約束の生ビール、鶏からをアテにキンキンの一杯に喉が鳴る。
名物だという “カレーうどん”、モチモチの伊勢うどんに豚の角煮をトッピング、たぬきを散らして美味しい。
山上で2時間粘るも霧が晴れることはなく、夏をあきらめて下りのロープウェイに乗る。
車止めに行く手を塞がれた1番ホーム、律儀に迎えに来てくれた3両編成に再会して湯の山線の旅は終わるのだ。
近畿日本鉄道・湯の山線 近鉄四日市〜湯の山温泉 15.4km 完乗
<40年前に街で流れたJ-POP>
哀 戦士 / 井上大輔 1981