旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

三段スイッチバックとヤマタノオロチと美波太平洋と 木次線を完乗!

2023-08-19 | 呑み鉄放浪記

定刻から3分遅れてパステルカラーを纏ったディーゼルカーが1番ホームにやってきた。
ヘッドマーク代わりの「き♡」が木次(きすき)線を表しているようだ。
呑み人が乗車するのは折り返しの1462D宍道行き、木次線も今乗っておくべきローカル線と言える。

この日は3月23日の落石〜脱線事故で運休していた芸備線 備後落合~東城 間の運行再開日。
14:30過ぎの備後落合駅は、三次、新見、宍道からやってきた列車がホームを埋めて往時の賑わいを見せる。
三次行きと新見行きを見送って14:43、パステルカラーはガクンと動き出した。

パステルカラーは広島・島根県境をめざして、必殺徐行区間を織り交ぜながらもぐいぐい勾配を登る。
標高727m、県境の三井野原駅から第八坂根トンネルを潜ると、足もすくむ様な崖上に飛び出す。

並行するR314は深い谷をアーチ橋で跨ぎ、1と4分の3周する奥出雲おろちループで急勾配を降りていく。
一方、木次線は三井野原駅(727m)から出雲坂根駅(565m)の高低差162mをZ字の三段スイッチバックで降る。

三井野原からの6.4kmを20分をかけて出雲坂根まで降りてきたパステルカラー、
運転士が運転台を替わるために少し長めの停車をしている。

右手は備後落合方面から降りて来た本線、左手はこれから向かう宍道方面への本線。
急な下り勾配はまだまだ続く。

二つ先の出雲三成駅、宍道方面から登って来たのはピンクの「き♡」やはりパステル調だ。

いくつかのトンネル出口で幻想的な光景を見る。谷川から立ち昇る霧が漂って真っ白になるのだ。

16:50、沿線最大の町木次に到着、ここでは途中の出雲横田まで行く下り列車と交換の10分停車。
青春18きっぷの季節ならでは、ほぼ全ての座席を埋めた乗り鉄ご同輩は誰ひとり降りない。
唯一人改札を出るのは呑み人、そうボクの目的は呑んで乗るだから。

突然っと大粒の夕立、アスファルトが夏の匂いを発する。
慌てて飛び込んだ大きな軒下、振り返ると偶然にも探していた “美波太平洋” の木次酒造さんだった。

「大変ですねぇ 降られちゃって」と品の良い奥さんに声をかけていただいた。
来訪の目的を告げると、奥から出してきたご自慢のお酒を次から次にグラスの猪口に注いでいただく。
ヤマタノオロチを酔わせた酒を思いながら試飲を重ねる。いやぁ酔っちゃいそうだ。

雨上がりに煙った木次駅に夕暮れが近づく、終点の宍道まではあと30分と少々の旅になる。

18:57、宍道行きの1464Dが入ってきた。今度は昔ながらの朱色の車両だ。

おっとその前にこの日の一杯を備忘しておこう。
山中の小さな町で寿司でもないでしょ、でも木次酒造の奥さんが奨めてくれた「和かな寿司」へ。

みっともないくらい噴き出した汗に、やはり生ビールから始める。
中皿の陶器に盛られた、よこあ、はまち、たい、いか、日本海の海の幸が美味しい。

カウンターの中は19時からの宴席の準備に忙しい。
その献立の中から気になった “奥出雲牛しぐれ煮” をアテに分けてもらう。
無濾過生原酒 “雲” は、辛口ながらも米の旨味を感じる爽やかな純米吟醸だ。

“七冠馬” は通り過ぎてきた出雲横田の酒、レモンを絞って “焼き鯖” を肴に美味しい。
七冠馬とは「皇帝」シンボリルドルフのこと、名門牧場のオーナーのルーツが石見にあるらしい。

さて、朱に染まった1464Dはいつしか平地に出て、青々とした田圃の中をラストスパートをかける。

左手から山陰本線が近づいてきた。暫し並走したのち、朱のディーゼルカーは宍道駅の3番ホームに収まる。
出雲の酒肴を楽しみつつ、今乗っておくべき木次線の旅は終わる。中空には上弦の月が輝いている。

木次線 備後落合〜宍道 81.9km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
EMANON / サザンオールスターズ 1983