旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

紅梅と招き猫と赤鬼と 東急世田谷線を完乗!

2025-02-24 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

静かな住宅街をメタリックに輝くモーニングブルーの車両が、モーターの唸りをあげて走っていく。
ところで2月22日は「猫の日」らしい。それを知ってか知らずか呑み人は、
招き猫が描かれた「世田谷散策きっぷ」を握りしめ、世田谷線の旅をしている。

下町風情が色濃い下高井戸、駅に隣接した京王線の踏切が絶えずカンカンと鳴っている。
八王子方面への1番線を降りると正面に、小さな世田谷線の乗場が見えてくる。

下高井戸駅を「幸福の招き猫電車」が飛び出してきた。
10編成ある300系電車で、この車両に乗り合わせるのは、ある意味幸福なのかも知れない。
小さな子どもが「あっ猫の電車!」と指をさして、お母さんを見上げる姿が微笑ましい。

赤堤通り辺りからの下り勾配をバーントオレンジが下ってくる。
降車客の波に押し出されて山下駅に下車、なるほどここは小田急線(豪徳寺駅)との乗換駅か。

小田急線のひと駅分を歩いて羽根木公園まで足を延ばす。
ちょうど「世田谷梅まつり」が開催中で、紅、白、薄紅と600本の梅が咲き誇っている。

梅の香りに送られて山下駅に戻る。
まだ続く下り勾配を幸福の招き猫電車でひと駅、今度は宮の坂駅で途中下車。

この駅には旧玉電デハ80形が静態保存されている。
大正生まれの彼女は玉川線や下高井戸線で走ったのち、江ノ電にお嫁入りして海辺を走ったらしい。
1990年に現役を引退して、懐かしい世田谷に戻ってきたお婆ちゃんなのだ。

大谿山豪徳寺は彦根藩主・井伊家の江戸における菩提寺で、曹洞宗の寺院だ。
仏殿正面に篆額には「弎世佛」と描かれている。現在・過去・未来の三世を意味するそうで、
なるほど阿弥陀如来坐像、釈迦如来坐像、弥勒菩薩坐像が安置されている。

立派な三重塔だけど案外新しいもので、落慶は平成の世になってからだ。
この塔はちょっと変わっていて、二層目には招福猫児観音像が安置されているのだ。

鷹狩り帰りの殿様が、門前の猫に手招きされ寺に立ち寄ることで、突然の突然の雷雨を回避した。
これが豪徳寺と井伊家の縁なる故事で、豪德寺は井伊直孝に支援され再興したそうだ。

福を招いた猫を「招福猫児(まねきねこ)」と呼び、お祀りする招福殿が建てられている。
奉納所にずらり並んだ招き猫がフォトジェニックとして話題を呼び、人気のスポットとなっている豪徳寺だ。

下高井戸から南下してきた世田谷線は90度、上町駅進路を東に転じる。
突然っと、対向のブルーイッシュラベンダーが、急カーブの先から現れた。

唯一駅舎を持った上町駅は検車区を併設している。全10編成のねぐらってわけだ。
この日は運用から外れているチェリーレッドとカラフルなSDGsトレインが並んでいる。

ある意味世田谷線最大の名所は若林踏切だと思う。
都内の大動脈である環状七号線(都道318号)に唯一残った踏切なのである。
とは云え、この踏切は交通信号によって制御され遮断機はなく、最大限に交通量に配慮している。

キャロットタワーに併設した三軒茶屋駅、たった1本の線路にクラシックブルーのが終着した。
駅はアーチ状の天井、赤レンガ、丸い電灯、レトロモダンな雰囲気を醸している。 
共に「玉電」として走った二子玉川園行きの本線は、田園都市線となって地下深く潜ってしまった。

世田谷通りから路地に入って「銘酒居酒屋赤鬼」を訪ねる。
今宵も予約で満席だけれど、1時間少々の時間制限でカウンターの一角でダウンジャケットを脱ぐ。

先ずは “白穂乃香” で喉を潤しながら、銘酒リストを眺めて品定め。
ここは山形の “十四代” を始め、津々浦々の銘酒を生酒中心に取り揃えた日本酒専門の居酒屋だ。
この間のアテは “ぬか漬け入りポテトサラダ”、これビールによく合う。へしこソース付きが嬉しい。

一杯めは十四代の本醸造 “本丸”、トロッとした口当たりのバニラの様な香りが楽しめる。
本来、辛口を好む呑み人なんだけど、これは旨い、そして飲みやすい酒だ。

そして赤鬼名物の “こんにゃくの刺身”、玉こんにゃくを薄くスライスして、だし醤油と生姜でいただく。
たぶん芋本来の甘味と、独特の弾力ある食感を楽しみながら、これは逸品だと思う。

山形つながりで二杯めは西村山郡の “あら玉”、生酒谷地のあらばしりは出羽燦々を醸して柔らかな味わい。
本マグロ、ソイ、ハマチ、ホタテ、厚手の陶器に並んで彩りが鮮やかだ。
刺しちょこの醤油は九州のそれの様に、濃口で甘味を感じて美味しい。拘っているね。

“中トロの串焼き” を焼いてもらった。これもなかなか美味いアテだ。
県境に跨がる “鳥海山” だけど、この酒は越えて秋田県の天寿酒造の酒、由利高原鉄道で訪ねたね。
オリ引きしないままの生原酒は、薄にごりの爽やかで豊潤な味を楽しんでいるうち、そろそろ1時間。

マフラーを巻いたら、スタッフの温かい声に送られ、後ろ髪を引かれる思いで引戸を開ける。
雪が散らつく予想もあった寒い猫の日、美味しい心地よい店に出会った世田谷線の旅だ。

東急世田谷線 下高井戸〜三軒茶屋 5.0km 完乗 

<40年前に街で流れたJ-POP>
卒業 / 尾崎豊 1985



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