
▲野上照代女史の「もう一度天気待ち 監督・黒澤明とともに」
野上照代女史の「もう一度天気待ち 監督・黒澤明とともに」を読了したのでその感想です。
「羅生門」や「七人の侍」などの作品から黒澤組スタッフとして相当数の作品にたずさわり、当時の撮影現場を生で知っている、ほぼ唯一の存命スタッフであり、黒澤明の全力応援団である野上照代女史が、主に黒澤明と三船敏郎、そして数々の黒澤作品について記した書籍です。
書籍のかなりの部分が、すでに他の書籍でも書かれているような情報でしたがこれは致し方ないでしょう。
「羅生門」や「七人の侍」など、映画に関するいろいろな書籍が何十年も前からいっぱい出ているような状況ですから。
ただ、「デルス・ウザーラ」に関する話は初めて知ったことが多く、なかなか面白かったです。
また、「赤ひげ」後の黒澤明と三船敏郎のコンビ解消に関する考察も興味深かったです。
三船敏郎からそう希望したのだと、私は長らく思い込んでいましたが、実はそうではなく、野上照代女史の考えによれば、「赤ひげ」試写後の小国英雄の三船の演技に対する感想から、黒澤がそう決断したのだろうというのです。
そういえば、随分と昔、黒澤監督の「影武者」制作発表後、三船敏郎がどんな端役でもいいから出演したい、と切望したのに対し、やってもらえる役はないよ、と確か断っていたことを思い出しました。
ただ、それは主演以外、ほとんど無名の役者を抜擢せざるを得ない「影武者」制作の厳しい懐事情からだと思っていましたが、実はそうではなかったのかもしれません。
映画監督・黒澤明については、基本的にこの一冊あれば、ほとんど知ることができるようになっています。
だがしかし、野上照代女史の黒澤作品に関する評価は、全力応援団であるだけにかなり甘々で、作品評価に納得できかねる点が少なくないのが難点ですが、黒澤映画鑑賞の手引きには最適であると思います。