チェロとピアノによる、オール・ブラームス・リサイタルを聴きに行ってきた。チェロ伊藤悠貴氏、ピアノ渡邊智道氏という、才能溢れた若手演奏家による演奏会だった。
<プログラム前半>
ブラームス作曲
愛の誠 作品3-1
別離 作品19-2
私の王女よ 作品32-9
五月の夜 作品43-2
子守唄 作品49-4
愛の歌 作品71-5
野の寂しさ 作品86-2
メロディのように 作品105-1
私の歌 作品106-4
休憩
<プログラム後半>
ブラームス作曲
3つの間奏曲 作品117
チェロ・ソナタ第1番ホ短調 作品38
アンコール
ブラームス作曲
ふたりそぞろ歩く 作品96-2
前半は歌曲をチェロとピアノで。こんなに豊かな歌曲をブラームスは作っていたんだ。決して目で見ることも手でふれることもできないのに、聴いているうちに、懐かしい人や情景が、目の前に浮かんできたとともに、温かい思い出、切なかった思い出、普段の生活では蓋をしていた感情の部分にまで、触れられたような気がした。ピアノは出だしでしっかり歌の世界観を提示しながらも、歌が始まると、チェロと共同作業、ハーモニーを感じ尊重しながら音楽を築き上げていく。チェロの表現の幅の豊かさにも鳥肌がたった。しっかり、歌っていた。そして余韻。コーダでの繰り返し部分で噛みしめるような、名残を惜しむようなところ、曲も終わりたくない終わりたくないと言っているところも印象的だった。
後半、作品117。甘く儚く幻のような世界が紡ぎ出される。ゆりかごに揺られているような気分に。作品117-2、切ない歌が胸を打ち感極まる。この3曲の中で今回私が最も印象に残った作品117-3の前半、内声やバスが大切にされ濃厚な響きとなっていていた。ここまで深みのある曲だったのかと再発見。その後羽ばたいていくところ永遠の世界へ、曲が進むにつれて涙腺崩壊。
チェロソナタもぞくぞくしっぱなし、始まりの低音部からメランコリックな世界、チェロの音色の豊かさに心奪われっぱなしだった。第2楽章の中間部に夢のような世界と情景が浮かんできたところが。この世の最も美しいものが濃縮されて示されたような気がした。第3楽章、主張しすぎず、でもお互いに立ち位置はしっかりとしており。チェロもピアノも、ブラームスの作った音楽そのものを、何よりも大切にしているというのが感じられた。ブラームスも絶対に、喜んでいると思う。
そしてアンコールの「ふたりそぞろ歩く」、なんて愛情にあふれた美しい音楽なのだろう!歌の中では、一番、気に入った。歌詞をみて、納得!「すべてが美しかったのだ、ぼくの思っていたことは天井のように明るかったのだと」(参考リンク)。Op.96の4つの歌曲のうちの2曲目、かけがえのない、贈り物だった。
素晴らしき演奏会だった。この場にいて演奏を聴くことが出来て本当によかった。ぜひまたお二人で演奏してほしい。CDも出してほしいな。