ああ、ついに観ました……かの「マリー・アントワネット」を。
観終わった感想は――とっても面白かった! でも、それだけじゃない、充実感もあったというのは、実はこの映画、初公開された2006年、観に行きたいと思っていたのに、観ずじまいだったという過去があったから。 当時、この映画を観た人が「すごく面白かった。なんなら、もう一度観に行きたいくらい」と言っていたのも、印象に残っているくらいなんです。
さて、この映画――かの、映画界の巨匠フランシス・フォード・コッポラの娘である、ソフィア・コッポラの監督作ということも、ずいぶん話題になったものでした。「ゴッドファーザー」を生み出したDNAが、断頭台の露と消えた悲劇の王妃を描くなんて、考えただけでも、スリリングですもの。
冒頭、オーストリアからフランスに輿入れする少女時代から始まって、マリー・アントワネットを描くやり方は、(多分)史実に沿ったもの。主演女優が、美人とは言えないにしろ、ブロンド・白い肌が魅力的な女性であるのも、実在のアントワネットを彷彿とさせます。 フランス民衆の怒りを買い、あの大革命を引き起こした張本人は、本当に、こんな罪のない(あまり、思慮深くないともいえる)、今を楽しむことでいっぱいの女性だったのでしょうしね。 宮殿のしきたりや、世継ぎ問題なんて、庶民には想像もつかない重圧もあったはずだし……。
そして、この映画をいろどるのは、画面にあふれかえる鮮やかな色彩! マリー・アントワネットたち貴婦人の着る華麗で女性的なドレス、ラデュレがこの映画のために提供した色とりどりの夢のようなお菓子たち……実際に、この時代のベルサイユやトリアノン宮は、おとぎ話の世界が現れたように、華やかだったに違いありません。
パステル調の美しいドレスを着て、傍らには、瀟洒なケーキたち――女性なら、誰でもため息をつくはず。ケーキも、ピンク色で、まわりには薔薇の花さえ飾られていて、この世のお菓子とは思えないくらいなのであります。
けれど、夢はいつか覚めます。ある朝、マリー・アントワネットを襲ったのは、美しい装飾品や豪奢な料理、ボンボンやマカロンからなる「おとぎ話」の世界ではなく、怒り狂った民衆の怒号と襲撃でした。
最後の日、国王夫妻の食卓に並ぶのが、美しい料理でなく、深海魚を思わせる奇怪な魚を盛りつけた皿だったのも、夢の終わりとして象徴的ですらありました。
宮殿から、牢へ護送される馬車に乗るルイ十六世夫妻。馬車の窓から、外を眺めるマリー・アントワネットに王は訊ねます。「一体、何をみているんだい?」
それに、答えるマリー・アントワネット。「庭の並木にお別れを言っていたの……」――深く余韻の残るラストシーでした。