ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

リスボンに誘われて

2014-12-12 21:02:13 | 映画のレビュー
昔から好きなジェレミー・アイアンズ主演だというので、ぜひとも見たかった映画。作品の舞台が訪れたことのあるリスボンだというのも魅力。

教養はあるものの真面目で堅物な高校教師をアイアンズが演じ、彼がひょんなことで巡りあった本の謎に引かれるように、リスボン行きの夜行列車に乗るというのが物語の発端。

ジェレミー・アイアンズには、幾多の映画で、その素晴らしき演技力、雰囲気あるたたずまい(彼は、英国のシェークスピア劇団の俳優でもあるのだ)に魅せられて以来、久しぶりのご対面となるのだが、とても年を取ってしまっているのに愕然。私が彼の映画を立て続けに見ていたのは、まだこのスターが四十代だった頃だから、当然といえば当然なのだが――。

本をポケットにだけ入れて、リスボンの地に降り立った主人公が向かった先は、本の著者の自宅。そこは医院跡で、著者の妹が家を守っている。この妹をシャーロット・ランプリングが演じているのだが、これもすっかり年を取っているのに、ショック。ランプリングも私の大好きな女優の一人で、「愛の嵐」、「さらば愛しき人よ」(これは、フィリップ・マーロウ物)でいかにもヨーロッパの凄みを感じさせる美貌が印象的なスターだった。 肉など感じさせない、細い肉体に、繊細な骨格。その上に、「爬虫類の目」と誰かに言わしめた冷たく輝く瞳とチェシャ・キャットのような謎めいた微笑を浮かべていたシャーロット…彼女にも老いが訪れることがあったのか……。 私だって、年を取ってしまったのだから当たり前なのだけど。


スイスの作家が著したベストセラー小説を映画化したものだというのだが、本を巡るミステリーはさほど面白いとはいえず。本の著者にして、レジスタンスの英雄でもあった青年医師の人物像がそれほど魅力的に感じられないのだ。 アイアンズが、すべてを振り捨てて、誘われるようにリスボンまでやってくるほどの動機づけがないのでは?  ただ1970年代頃の、揺れ動くポルトガルの政情がこまかに描かれ、歴史に対する目が開かれることは確か。

この映画は、アイアンズやランプリングとの久しぶりの再会であるだけでなく、リスボンをも懐かしく思い出させてくれた。おだやかな潮風の吹くリスボア(ポルトガルの人たちは、この街をそう呼んでいた)の街並み--こっくりとした黄色の路面電車が通り、シエナ色の屋根を抱く家々がどこまでも続くところ。 夜になると、灯が闇の中にともり、哀切なファドの歌声が夜風の中を流れてゆく――私は、リスボアの目抜き通りで買った専門店(とても小さなお店だった!)の革手袋を10年たった今も、大切に使っている。
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