ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

荒野の古本屋

2021-02-11 15:48:51 | 本のレビュー

「荒野の古本屋」を読了。(森岡督行 著  小学館文庫 2021年)

とっても、面白かったです。今まで知らなかった世界が、ふんだんに紹介されており目からウロコ。読み終わった時、ほんとに本のページの間に、コンタクトレンズみたいな、透明なウロコが落ちてました――というのは、冗談ですが、神保町の古書店街や、新しい古本屋のあり方などが書かれており、本好きの方は、一読の価値があります。

まず、著者の森岡さんは、「ただ読書と散歩が大好きなあまり」大学卒業後も、就職せず、古本屋めぐりを楽しんでおりました。中野にある昭和初期の風情を残す「中野ハウス」に住み、読書と喫茶店めぐりをしているのですが、この「中野ハウス」がとても興味深い!

昭和初期の建築で、かの同潤会アパートを彷彿とさせる古いアパート。天井は高く、二階には昔の石炭置き場だった不可思議なスペースまであるそうな。う~ん、どんなところなんだろう? 私も古い建物が好きなので、こんな所に住んでみたいのですが、きっと原宿の同潤会アパートが消滅したように、今はもうないでしょうね。

そして、彼が紹介する古書街「神保町」の魅力的なこと! 実は神保町というのは、世界一の古本屋街で、パリにもロンドンにも、こんな場所はないのだそう。おまけに、百年以上の長い歴史がある。 寡聞にして、そんなことも知りませんでした……森岡さんは、「こんな場所があること自体、東京が素晴らしい文化都市であることを示す」と言っておられるのですが、本当にそうですね。

かく言う私は古本屋というものにほとんど縁がなく、神保町も数えるほどしか行ったことがありません。やたら、専門的な古本屋さんがいっぱい並んでいて、敷居が高く感じてしまったのですが、森岡さんの筆にかかると、ディズニーランドそこのけの楽しい場所のようで、ワクワクします。

神保町の老舗で修行した後、自分の古本屋を立ち上げた森岡さん。彼は、自分の好きな写真集をメインに展示するため、パリとプラハへ買い付けに行くのですが、この箇所がとってもスリリング。 同業の人から、プラハでは珍しい古書が安く買えると聞き、単身旅立つのですが、目的とする古本屋がある街へのバスが来ないなどハプニング続き。言葉も通じない異国で、こんなことになったら怖いな……事実、森岡さんも夜のプラハの淋しい街路を歩いていたりして、後で日本人女性に「そこは、川の洪水の時、被害があった地域で、恐ろしい事件も起きている。決して、近づいては駄目よ」と真顔で忠告され、ひやりとしたりしています。

最も印象的だったのは、カレル橋近くの古本屋へ行くところ。そこの女性が、森岡さんを店の奥のドアの向こうにある部屋に案内してくれます。そこは、選ばれた賓客しか通されない場所――ヨーロッパの店って、こんな仕掛けになっているのか。知らなかった……。

そこには、ヨーロッパじゅうから集められた古書が溢れかえり、森岡さんは戦前に発行された美しい花の写真集を見つけるのですが、「腰が抜けそうなほどの値段」なのにもかかわらず、購入。どんな美しい写真集なんだろう……私も、その花の写真集が見たくなってしまいました。戦前だけど、カラー印刷なのかな?

以前、プラハを訪れた時、アンティークショップに行ったこともフッと思い出しました。市街のどこにあったのだか、もうすっかり忘れてしまいましたが、とても広いお店で、光るように美しい家具や、装飾品があったっけ。マホガニー製の家具が、しっとりとした雰囲気を放っていたことも、記憶に残っています。

森岡さんが立ち上げたのは、写真集をメインとする古書店とギャラリーが一体となった「森岡書店」。大好きな昭和初期のムードを残す建物に、作りだされた古書空間。どんなお店なんだろう? ぜひ、訪れてみたい気持がふつふつと湧いてきました。

TVでも、神保町は古い喫茶店とおいしいカレーが楽しめる場所と紹介されていて、ますます行きたくなってしまった私。想像したこともなかったけど、本とカレーライスは友達だったのか……。

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