城郭都市設計史 27

2016年02月20日 | 湖と城郭都市

 

【ヘルダーリーンの国の街づくり Ⅲ】

今回は、水島信氏の「都市計画論」をまとめ参考にして
いこう。

● 市民の市民による市民のための街づくり

日本で街づくりというと主に観光になってしまう。観光
を推進することは、経済的には必要だが、まず自分たち
が住んで気持ちよくなければ街づくりにならないと著者
は指摘する。

人が見てきれいかどうかという前に、自分たちが住んで
気持ちいいかどうかが街づくりの基本であるのに、日本
では、街づくりとしての観光の推進が、自分たちの生活
を圧迫するものになってしまっているのは方向違いだ。、
と述べる。

Noerdlingen

彼自身が関わった街づくりで、レトロな路面電車を走ら
せれ
ば観光になるじゃないかという提案があった時、そ
のため
にどれだけの税金が使われるのかといったことや、
設置による
都市空間の分断の弊害などを考えたもので
なく、単に路面電車が欲しいと動機で、自分たちが使え
るような交通機関であれば問題はないが、
観光のための
路面電車であれば、住民の利便さに役立たない
、その街
の人は年に数度しか使わないような
ものを毎日走らせる
ために、単に税金を使うことになる――
結果として自分た
ちの街はよくならない。これは純経済――例えば、単年
度会計を前提とし「路面列車導入による観光収入増-(
路面列車建設運用経費+導入によるデメリット)」として
考えれば明確となる。ただし、「導入によるデメリット」
とは、観光事業運用費、例えば、ゴミ回収や美化整備の
ための出費など。
大きな施設をつくり施工者は利益を得
るが、でき
あがってしまった後は年間何億もの維持費か
かるといっなど日本の各地に実例があるものの、それは、
それが街づくりだと思っている人も多いので、税金を使
う行政側も、自分のお金じゃないから無責任なことをや
ってもそんなに堪えていないが、ドイツでは当該
市長は
即落選すると手厳しい。


開発の考え方も日本とドイツは違う。新規の開発は、基
本的には人間の手が入っていないところを開墾すること
であって、いま開発という名前でやっていることは、
はすべて再開発

この再開発の大きな目的は、最初の開発の間違いを直す
こと。日本の再開発は、最初の間違いの上にまた間違い
を重ねる。日本の再開発はスラムクリーニング。、劣悪
な環境を一見きれいにしただけで、本当の意味で居住環
境がよくなっていない。インフラも整っていないのに高
層の建物などをつくれば、住環境は悪くなるのは一目瞭
然。

これに対して、ドイツの場合は社会主義的な背景(その
政策をパックった国家純血主義(=ナチズム:目的なき
破壊運動)をもあって、再開発の目的は住民にとっての
居住環境の改善だという考え方が徹底し、経済性より生
態環境性の背景
にある。一番に問題を発生させるのは経
済優先の都市計画である。産業革命の後に経済を優先し
たことで、人間性を無視した都市開発が行われ、ヨーロ
ッパはそのことを既に経験した。だから、ドイツでは都
市計画の結果損害を被った人への保障まで考えている。
改善したことで利益を得た人たちから負担金を徴収し、
損失を受ける人を保障するソシアルプラン―――やり過
ぎだという批判があるが―――で、誰にでも平等な居住
環境を提供する。

 

● 観光事業の失敗学

ドイツでも、ロマンチック街道では、戦後の一時期、街
のなかを観光施設にして、普通の店をお土産屋にすると
儲かる。そうすると、いままで地域の人が、ちょっとミ
ルクを買いに行ったりしていたのが、買えなくなってし
まう。つまり、自分たちの生活が不便――日本では現在
はコンビニが乱立気味?にありそれは考えにくいが――
さに気づきは観光化を止めた。造ってしまった施設はそ
のままにしておき、これ以上増やさないようにする。ロ
ーテンブルクの建設局での話では、「自分たちが住めな
くなったら、自分たちの街じゃなくなってしまう。街づ
くりの基本はそれだよ」と。ローテンブルクの住民は観
光ではなくて自分たちが住みやすいかどうかという視点
から街づくりを始める。ところが、70年代の半ばに自
分たちが暮らしやすい街づくりに切り替え、城壁の外に
駐車場をつくって街の中に車を入れないようにしたら、
逆に観光客が増え、車が通らないので街の中を自由に散
策できるようになり、観光客にとっても魅力が増える
つまり、自分たちが歩きやすい街は、観光客も歩きやす
いという当たり前のこと。ロマンチック街道は観光を売
物にしなかったが故に、いまにして昔風に残っている。
もちろん観光で潤っている街だが、日本では、観光客を
呼ぶことが街づくりだと思っているが自分たちが住んで
不便な部分を直すことが先決だと事例を介する。



その上で、日本は、街づくりに民衆が関わった歴史がほ
とんどない、権利をきちんと主張したことがない、自分
たちの暮らしを脅かす相手に対して喧嘩もできない、時
には喧嘩もしなければいけないという認識もない。自分
たちの生活を守るという経験がないから、自分たちの生
活の場である街づくりに何が重要かということに気付か
ない。たとえば、体育館のない街の住民が森を壊してで
も体育館が欲しいと主張することはあっても、体育館が
できたらどれだけ自分たちの生活が豊かになるかという
議論はない。余暇を利用して健康になるための体育館こ
そが自分たちの生活のクオリティを上げるんだという話
だけになってしまう。誰も、どうして森のままでは健康
づくりができないのかも聞かないし、聞いたとしても多
数賛成派の意見に消される。体育館の目的は住民の健康
のためだから、森を残してジョギングコースにした方が
健康的ではないか、ちょっと森を荒らすことになるけど、
トレーニングができる設備をつくればいいでしょうと確
信を持って語れる人と場が日本には少ない――多少強引
なレトリックだが――と述べて「長いスパンで考えるべ
き経済効率性」という考え方を述べる。




ドイツでも、経済効率性を考えるがスパンが違う。何年
たって儲かるかという考え方、それが日本は短いのだと、
たとえば、一戸当たり180平方メートル(60坪)ぐ
らいの土地であったら、ドイツでは長屋として計画する。
そうすると土地の半分は庭で残ることになる。180平
方メートルの土地で奥行きが30メートル、間口が6メ
ートルだと、境界線からの引きが5m、建物が12メート
ルなら、残りは13メートルになる。この13メートル
と引きの5メートルも、一軒の家だと狭い庭でも、2軒、
3軒、10軒と並んだのを合わせれば、成長してグリー
ンベルトになる。50年、百年といった長いスパンで考
える発想ができる。ところが、日本のデベロッパーと話
しても、そんな話にはならない。慣習的な正方形が良い
という日本の杓子定規なやり方なら、グリーンベルトと
して残らない。将来的に環境が良くなることで資産価値
が上がらない。これも、経済効率を短いスパンで考える
弊害だと一例を示し、次のように問いかける。

Romantische Straße


「クオリティの悪い環境に住んでいて、人間としての尊
厳を守れるかと」
。良くない環境に住んでいて、それが
当たり前になってしまうことで生じる文化格差なものが
あるのではないか、日本人は、戦前にはすごくいい環境
に住んでいたのに戦後にバラックを建てたことで、それ
が当たり前になってしまった。家の中にモノがいっぱい
で、ちょっと歩くと何かに当たってしまうのが当たり前
の住環境になる。一度慣れてしまえば、なかなかそこか
ら抜け出すことはできない。だから今の日本では、街の
中でも景観とかそういう視点がなくなってしまっている
と問題提起し読者に迫る。
 

Schloss Neuschwanstein

【エピソード】      

           

【第1回現地調査日】 2016年4月下旬(予定)  

 

   

 

【脚注及びリンク】
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  1. 「地域資源・交通拠点等のネットワーク化による
    国際観光振興方策に関する研究」国土技術政策総
    合研究所 プロジェクト研究報告 2008.05.21
  2. 「歴史まちづくりのてびき(案)」ISSN 1346-73
    28 2013.11.13
  3. 歴史まちづくりの特性の見方・読み方 国土技術
    政策総合研究所 2013.04.11
  4. 「城と湖のまち彦根」中島一 サンライズ印刷出版
  5. 「続・城と湖のまち彦根」中島一 サンライズ印刷
    出版部 
  6. 中島一・水野金一・田中治是『建築空間における
    都市計画額』コロナ社
  7. 中島一元彦根市長 Wikipedia
  8. ドイツ:ニュルティンゲン市「市民による自治体
    コンテスト1位のまち(1)」 池田憲昭
     内閣
    府経済社会総合研究所
  9. The Neckar river near Heidelberg  Wipipedia
  10. ラウフェン・アム・ネッカー Wipipedia
  11. ボーデン湖 Wikopedia
  12. コモ湖 Wikipedia
  13. ネッカー川 Wikipedia
  14. 『ヘルダーリン詩集』 川村次郎 訳 岩波文庫
  15. 『ヘルダーリン』小磯 仁 著 清水書院
  16. 三島由紀夫 著『絹と明察』
  17. 三島由紀夫の十代の詩を読み解く21:詩論とし
    ての『絹と明察』(4):ヘルダーリンの『帰郷
    』詩文楽
  18. 三島由紀夫の十代の詩を読み解く18:詩論とし
    ての『絹と明察』(1)~(7)詩文楽-Shibun-
    raku
  19. フリードリヒ・ヘルダーリン  Wikipedia 
  20. フリードリッヒ・ヘルダーリン - 松岡正剛の千
    夜千冊
  21. ヘルダーリンにおける詩と哲学あるいは詩作と思
    索頌歌『わびごと』を手がかりに 高橋輝暁 2010.
    09.06
  22. 『ヘルダーリンの詩作の解明』、ハイデッガー著
    イーリス・ブフハイム,濱田恂子訳
  23. 南ドイツの観光|ドイツ観光ガイド|阪急交通社
  24. バーデンヴェルテンベルク州&バイエルン州観光
    局公式日本語
  25. リンダウ - Wikipedia
  26. ハイデルベルグ Wikipedia
  27. ハイデルベルク城 - Wikipedia
  28. 城郭都市 Wikipedia
  29. List of cities with defensive walls Wikipedia
  30. ヨーロッパ100名城 Wikipedia 
  31. 中国の城郭都市 : 殷周から明清まで 愛宕元著
  32. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  33. 万里の長城 世界史の窓  
  34. 中国厦門の城郭都市研究における外邦図の利用
    山近久美子(防衛大学校)2005.08.25
  35. ヨーロッパ100名城 Wikipedia
  36. 近江佐和山城・彦根城 城郭談話会編 サンライズ
    出版
  37. 淡海文庫 44 「近江が生んだ知将 石田三成」太
    田浩司 サンライズ出版
  38. 佐和山城 [5/5] 大手口跡は荒れ放題。現存する移
    築大手門は必見 | 城めぐりチャンネル
  39. 中井均 『近江佐和山城・彦根城』サンライズ出
    版2007
  40. 彦根御山絵図 彦根三根往古絵図など古絵図デジタ
    ル・アーカイブ化に、彦根市立図書館  2012.05.
    27 
  41. 彦根市指定文化財 「山崎山城跡
  42. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  43. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  44. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  45. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  46. 列伝 井伊家十四代 国宝・彦根城築城四百年祭   

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