1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
3.日本型田園都市構想
3-2-3 都市計画理論による問題是正
② 日本型グリーンベルトの必要性(環境のポイント)
田園都市構築の一つの目的には、地球環境問題対策も含
まれている。特に、地球温暖化防止のための行動計画と
して、省エネルギー政策、ライフサイクル・アセスメン
トによる二酸化炭素輩出量の最小化、植林、緑化の推進
をあげている。もちろん、これらの計画は温暖化防止に
対して効果はあるのだが、これらには基本的視点が欠落
している。それは、都市構造自体の変革なしには、地球
温暖化の問題は解決しえないという事実であり、都市構
造の変革(①土地所有問題、②土地区画、③税制など)
をしなければ、過去のように、混在した住宅、人口の膨
張などを引き起こすという同じ過ちを繰り返すことにな
る。これは、今日の都市問題は、土地利用における問題
である。
2000年5月に、都市計画法が改正され、新たに線引き制
度(原則として都道府県の選択制とすること、市街化調
整区域で、一定の要件を満たす区域を条例で定め、住宅
などの立地を許可対象とすること、特定陽と制限区域の
創設、準都市計画区域の導入)が定めらる。この線引き
制度への移行は、地球環境問題に向けてのコンパクトな
都市形成の計画を、それぞれの自治体の裁量に委ねたこ
とを意味する。まさに、基礎自治体の先見性、力量、ビ
ジョン、行動力、決断力が、都市構築を左右する時代と
なった。
また、ただ単に環境問題対策としての環境のあり方を見
るのではなく、景観やデザインといった視覚的要素も考
慮しなければならない。ただ植林をし、緑を増やしてみ
ても、そこに統一性がなければ、個性も創出できず、環
境はさらに悪化するであろう。その表現の仕方は様々で
あるが、各地域の特色や個性を引き出せるものを創出が
必要で今後必要とされることは、
- 洪水、地震などの災害国である日本は、広域連携
により市街化調整区域の緑地を担保していくこと
が、必須であり、特に、永続的担保を行うべき緑
地については、税制の見直し、個別自治体の枠組
みを越える問題を考えること。
- あらかじめ、都市に最適な人口設定(予測)をし
ておく。市街化調整区域という不明瞭で、消極的
な都市計画用語を変更し、理念と思想を明確にす
る必要がある。
- それぞれの土地所有者を明確にしておく。土地区
画整理を効率的に行うために整理する必要がある。
- 国土利用法、農振法をはじめとする各種土地利用
規制の縦断的見直しが必要である。
- 最新技術を使用し、既存のビルや住棟や駐車場棟
の屋上にビオトープ)を作りだし、公園や大小様
々なビオトープなどをつなぎ、ビオトープネット
ワークを形成させる。地域における生き物の生息
空間の拡大、ヒートアイランドの防止を目的とす
る。
- 新技術を使用した、様々なシステムの活用を積極
的に行う。(コンクリートリサイクル・グリーン
バンクシステム、水循環システム、生ごみのコン
ポスト化、バッシプソーター住宅、雨水地下浸透施
設など)。
③ 市民参加型農業の必要性(農業のポイント)
農園とは単に、自給自足や市場に出荷するための農産物
を作り出すためだけに使われる場ではない。そこには、
市民との交流、自然とのふれあいの場を提供する機能も
ある。現在、相当数の市民農園や学童農園が設置されて
いて、都市住民や学童に土に親しむ機会や作物をつくる
喜びを提供している。
しかし、既存の市民・学童農園の多くは狭小な区画、無
秩序な利用、農家・利用者間の交流の欠如、貧弱な施設
などの内容面でも景観面でも不充分である。市民・学童
農園を住民共通の息い場、緑のオープンスペースとして
育てて行く必要がある。
また、農家は農地の提供者としてのみではなく、利用者
に対して農業生産や地域文化の専門家として関わること
が期待される。そのために必要なことは、
- 地方自治体による農地の確保(長期借地か、出来
れば買い上げ)。
- 利用者の契約期間の長期化(年単位の契約ではな
く、10~20年の長期利用契約が必要。)の決定。
- 都市計画の中への組み込み。公共施設、緑のオー
プンスペースとしての位置付け、長期利用者のた
めにも、長期的な都市計画の中に市民農園を組み
込んでいく。
- 運営団体の育成、活動援助。運営は利用者による
組織を育成し、行政側はその組織への活動の援助
を行っていく。
このように農地の確保・維持を行っていけるようにする。
その次の段階は、農家と都市市民の交流・連携の促進で
ある。市民が直接農業生産に参加し、農家と協力し、共
に働きながら地域の農地・農業を守って行く方式をとる。
これが、すなわち市民参加型農業の育成である。
この方式の提案の背景には、農業サイドにおける高齢化、
担い手・後継者不足のために農作業への支援を求める声
が強まっていると共に、都市住民の間で土や自然に触れ
たいという欲求が高まる背景がある。
また、都市住民の中には、一定の農業技術を有する者、
農業への参加により余暇や余生を有意義に過ごしたいと
考えている人が、少なからず存在し、行政や農業団体が
積極的に条件整備を進めて、市民参加型農業実現を促進
する。今後、必要とされることは、
- 農地制度・税制面での制約除去
- 農家と都市住民の相互理解・連帯感の熟知
- 農業形態やプロセスの決定、農地の管理方法設定
④ 魅力創出の必要性(地域・個性のポイント)
都市が人々を惹きつけるのは、単に工業が都市集中した
だけではなく、そこに魅力が存在する。いかなるな魅力
に惹かれるかは、各人それぞれである。その都市に魅力
が多ければ多いほど、多くの人をその都市に惹きこむこ
とができる(仕事や富の集中)。
また、魅力創出には、「個性」「特色」を重視し、例え
ば、これまで数多く施行されてきた過去のプロジェクト
には「箱もの」――テーマパークやレジャー施設、郷土
資料館や博物館、美術館、宿泊施設――などがあげられ
る。
これらの箱ものは、バブル期以降衰退し、行政の前例主
義の採用により、ありきたりのものが増えすぎ、人はそ
れらに対してあまり良い評価をしなくなった。また、郷
土資料館や博物館なども、立派な建造物(器)を作った
としても、展示する品が貧弱であれば、地元の人でさえ
寄りつかないと指摘し、今後必要とされることを列挙す
る。
- 基幹産業を中心にその土地の産業を活性化させる
こと。例えば、青森といえばりんご、愛媛はみか
ん、富山は製薬、といったような、その土地から
連想できるような農産物や工業製品を中心にその
土地の「個性」「特色」を売り込み、外来客や観
光客を呼び込む効果がある。
- 経済波及効果を引き起こす。基幹産業を中心に、
新たなビジネスチャンスを生み出し、他の産業も
活性化させるといった相乗効果を狙うのが目的で
ある。
農産物自給力の弱い日本においては、このような農産物
を基幹産業とした生産拡大をすることで、農産物市場に
刺激を与え、日本全体の農業の活性化につながることが
期待できる。
⑤ 財政の有効活用
上述したような、各キーワードのポイントの沿ったまち
づくりを計画・実行するには、莫大な資金が必要である。
現在、国と地方の財源はきわめて深刻な状況(失われし
20年、デフレ不況)の日本では、レッチワースのよう
に財団の介入による、独自の財政収支方法を使用しての
まちづくりを実行する都市はない。まちづくりは、主に
市町村、地方自治体の裁量に委ねられる。
現在、特に問題なのは、まちづくりを行うための資金で
ある地方自治体の財政は、交付税特別会計の借入金によ
り辛うじて支えられているという状況である。その原因
として考えられるのは、バブル期に行った大型開発や、
バブル崩壊後、国の景気対策の地方への押しつけによる
地方事業の著しい拡大である(25)。それにより、地方
債の償還費が財政収支を圧迫したことによるものである。
こうした財政収支の危機にある各都道府県は、自治体リ
ストラと公共サービスカット、課税自主権の行使するこ
とによる、税収確保を模索している状況下で必要とされ
ることは、
- 各都道府県における独自の課税を導入する
- タイムリミット制の導入(無駄に継続されている
公共事業を終了させる目的)
- 財政の情報公開と市民による事業評価の導入。必
要な事業か不必要な事業かを、通信インフラを通
じて、市民の評価により判断して行う。市民のニ
ーズに応えやすくする効果がある。
などがあげられる。これらを採用することにより、資金
の有効利用を計ることができる。この他にも、利用でき
るものは、できるだけ多く効率的に利用することを常に
考えなければならないとし、以下を列挙する。
- 総合補助金の有効利用
- 第3セクター(28)の見直し。民間と行政との関
係をスムーズにする。民間企業の技術や経営ノウ
ハウをまちづくりに活用する。企業や会社が地域
とコミュニティを作り上げることにより、農業に
従事したいという定年後の社員に就職先提供でき
る。また、それにより、農業後継者を確保するこ
ともできる。
- 企画調整機能を利用したまちづくり、事業計画の
実行。部分を見るのではなく、総合的な見地に立
ち、まちづくりをプロデュース、デザインする必
要がある。
- まちづくり研究会(30)を中心とした地域コミュ
ニティの設立。自主的な参加者を募ることにより
やる気のある人材で構成することができる。力強
いリーダーシップのもとにプロジェクトを推進さ
せる目的。
※ ここは、大胆な地方分権による財政基盤の強化の制
度改革が前提となる。この件は後に考察する(筆者)。
3-3 モデル都市の構築計画―京田辺市を中
心とした発展構想
以上のように、様々な視点から日本柄田園都市を構想し
てきた。しかし、すぐにこれらの要望を満たす都市を構
築することはできない。このプロジェクトは、長い目で
見据えなければならない。そして、最終的な目標は、ひ
とつのモデル田園都市を構築し、そこから派生し、周辺
の地域にも田園都市を構築していくという流れを築き上
げ、田園都市郡を各地に作り上げることである。それら
の田園都市郡のネットワーク・コミュニティを確立させ
ることで地方格差を是正し、一極集中から均衡した発展
へと変化させる。
3-3-1 京田辺市の魅力の創出(モデル都
市シミュレーション)
まず、京田辺を田園都市のモデルにする理由は、上述し
た各項目理論の条件をある程度満たしているからである。
また、当市も田園都市を築き上げようと積極的に働きか
けていることもあげられる。
① 各種インフラ面における市の対応
京田辺市は、京都府の南西部、京都・奈良・大阪を結ぶ
三角形の中央に位置し、東に木津川が流れている。鉄道
駅はJR片町線(学研都市線)5駅、近鉄京都線4駅、平
成9年度よりJR東西線が開業し 大阪の中心部を経て神戸・
宝塚方面にも直結され、利便性が向上した。近年では、
学研都市線松井 山手~木津間の沿線は、住宅開発が進
み人口も年々増加傾向にある。沿線市町である京田辺市・
精華町・木津町の沿線人口は、97年には105,000人と
10年間で約30%の増加率を示している。今後も住宅
開発が計画されており、将来の旅客需要が十分に期待で
きる。
また、大住~西木津間の乗車人数は、98年までの10年
間で1日あたり11,000人となり7倍以上の伸びを示して
いる。旅客流動の面から見てみると、京田辺市の鉄道利
用者は、90年と95年の住民流動状況を比較すると、
人口が8%の増加率であるのに対し鉄道利用者は約21
%増加する。
ここで注目すべきは、公共交通インフラの活性化に力を
入れていることで、人口流動化促進効果が実証されたこ
とである。京田辺市だけでなく、周辺地域の人口流動化
も促進するとし、京田辺市を事例に田園都市構想の展開
が示される。
この項つづく
【エピソード】
珠玉の湖東焼
【脚注及びリンク】
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- 田園都市 Wikipedia
- 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也
- 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
- 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
45、2003.7.8
- 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
- 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
宮﨑洋司市
- 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.06 28
- 平成 28年度 主要事業 彦根市
- 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
滋賀県
- 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
- 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主導
のまち創る-近世城下町彦根市本町地区の2例の
場合-(これからの都市づくりと都市計画制度全
国市長会) 中島一 2005.05.09
- 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
- 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
- ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
- 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
- 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
- 「道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
波新書
- 日本の道路史 武部健一 中公新書
- 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
- 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
- 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
- 彦根市都市計画道路網見直し指針
- 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
- 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31
- 彦根市立図書館|簡易検索
- 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
- 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
展望 2014.11.26
- アウガ Wikipedia
- 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
- 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
- コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
青森から見る居住の自由 2016.11.08, Ya hoo!ニュース
- <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河北新
聞 2016.01.28
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