1.ハワードの田園都市構想
前回の「都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワー
ド 」(宮崎洋司のブログ)での両者の差異は、①ジェ
イコブズはジャーナリストであり運動家であったので、
彼女の著書や運動に触発された一般の個人やまちづくり
団体等によって広くその都市思想が継承されているのに
対し、②ハワードは事業家であり社会改革者であったの
で、都市計画や開発事業にかかわる専門家や田園都市構
想に基づいて開発されたニュータウン居住者等の、より
かかわり方が強い人々によって継承されていると結ぶ。
2.田園都市論の現代的意義
中井検祐東工大教授は「田園都市論の現代的意義」で、
田園都市論をことさら取り上げる必要性はほとんどない。
日本の人口は2006年にはピークを迎え、その後は減
少の一途を辿ることが予測されている。かつての高度成
長期のような人口の大都市圏への大量流入を予想するこ
とは極めて困難であり、大都市郊外の新都市建設は現実
性に乏しい。むしろ都市化の成長社会から都市型の成熟
社会に移行しつつある日本では、都市政策の焦点は、新
規の郊外開発ではなく既成市街地の再編にシフトしてい
るとし、「なぜ今再び田園郡市なのか」と自問し。それ
は、田園都市論を構成する基本的な考え方の中に、①都
市のフリンジの整序であろうと②既成市街地の中心部の
再生であろうと、対象とするイシューによらず、現代都
市のコンテクストにおいても通用しそうな意義を見出し
得る可能性を感じているからに他ならない。
※ 「家とまちなみ――2002.3」(2009.07.08)
2-1 ソーシャル・シティ
田園都市論は、いくつかのキーとなる基本的コンセプト
の集合として捉えられるが、①その第一のコンセプトは、
大都市からの人口と産業の計画的分散である。前出のハ
ワードは、過密化した中心都市の周囲に、グリーンベル
トによってガードされた人口3万人程度の新都市を建設
し、そこが満杯になればさらに新たな独立田園都市を次
々と建設することを提案。そして、それらの間に放射・
環状の交通ネットワークを整備することにとで、都市圏
全体としての成長のあり方を示し、このような中心都市
と田園都市群からなる都市圏の構成コンセプトを、「ソ
ーシャル・シティ」と呼ぶ。
このような大都市圏の成長コンセプトは、人口が増加し
ないわが国では、一見すると時代遅れと受け取られが
ちであるが、田園都市論の母国イギリスではピーター・
ホールらが、モータリゼーションの進展などにより継続
する大都市からの人口分散現象と「持続可能な開発」を
両立させる理念として、「ソーシャル・シティ」を咀嚼
し、公共交通機関によってネットワークされたクラスタ
ー状都市群「ソーシヤプル・シテイ」を提唱している。
日本の都市では、「戦後日本を通して観察された分散指
向ベクトルは、その一部を都心回帰指向ベクトルに取っ
て代わられつつも、もう一方では新たな分散指向ベクト
ルを生み出すことで、都市の拡散と集中に複雑な力学を
生成させていると見る。このような意味では、ホールの
提示する「ソーシヤプル・シティ」は、日本のコンテク
ストにおいても一定の互換性を有しているとする。ただ
し、現代イギリスのコンテクストとの違いにも言及して
おく必要はあるだろう。
①第一に、総人口という観点からすれば大きな増加は見
込めないものの、ロンドンに限って言えば、1989年
から2000年までで60万人の増加、80年代初頭に、
680万人まで減少した人口は、15年には800万人
を超えると予想されている。またかつてほどではないと
はいえ、依然として一定程度の外国人労働者を受け入れ
ているので、高齢化という観点からはわが国の方が圧倒
的に進行。②第二に、わが国の特に大都市圏では、すで
に公共交通機関とりわけ鉄道のネットワークの発達が著
しい。③第三に、イギリスではモータリゼーションの進
展と既存大都市中心部での環境条件により、業務の分散
が既にかなり進行しているが、わが国では様々な業務分
散の政策にもかかわらず、そうでもないとする。
このような点を考慮すれば、わが国の大都市圏では、ソ
ーシャブル・シティ」の提案する公共交通と新規開発の
パッケージよりは、より既存の駅周辺での住宅および業
務を複合させた高密度開発が望ましいと考えられる。言
い換えれば日本版の「ソーシャル・シティ」とは、既存
の交通拠点とそうでないところとの密度のメリハリをつ
けることによって、既存の公共交通ネットワークを生か
した高密度クラスターを構築することということになる。
このことは、極端に言えば種地や需要があればどこでも
高密度を許容するような現在の大都市圏の再生策は適切
とはいえず、比較的広域にわたって適切に密度を配分す
るようなマスタープランの存在の重要性を意味するとす
る。
How the Poundbury project became a model for innovation
2-2.都市と農村の結婚
田園都市論を構成する、②第二の基本的コンセプトは、
「都市と農村の結婚」である。ハワードは有名な「3つ
の磁石」の図によって、田園都市は都市と農村の両方の
メリットを享受できる都市として人々に示した。現代日
本のコンテクストにおいて、「都市と農村の結婚」の意
味するところは、最低3つあると指摘する。
1つはいうまでもなく、①都市環境と自然環境の調和で
あり、市民の環境問題に対する関心の高まりもあり、お
よそあらゆる都市開発において自然環境への配慮、調和
が求められていることはいうまでもない。もちろん、ハ
ワードの時代と現代とでは「環境」の意味するところは
大きく異なる。ビクトリア期の重厚長大型産業の隆盛期
であったハワードの時代には、新鮮な大気、良質の水に
代表される生命体としての人間の健康を保障する環境
が自然環境だったのに対して、現代は水とのふれあいや
風景といったアメニティとしての自然環境、あるいは省
エネ・省資源、二酸化炭素やフロンガスの排出抑制に代
表される地球環境的な視点からの自然環境がより重きを
増している。当然のことながら、都市開発におけ
る自然環境との調和も、太陽光発電、雨水の再利用や屋上
緑化といった形で、古典的な田園都市とは全く異なって
いるものの、その精神としては共通するところがあると
いってもよかろう。
②第二は、都市的生活と農村的生活の共存である。この
ことは、ハワードのいう「都市と農村の結婚」そのもの
でもあるわけだが、ハワードはこれを同一の時間に同一
の空間、すなわち田園都市で達成しようとした。しかし
ながら、生活価値観の多様化が進み、しかもモビリティ
と情報化が発達した現代においては、必ずしも同一時間、
同一空間でなくとも都市的生活と農村的生活の両方を享
受することは可能となってきている。日本も、マルチ・
ハビテーションや退職後のⅠターン現象など、都市的生
活と農村的生活の新たな共存の形が出現し始めており、
個人の生析における「都市と農村の結婚」が広がりを見
せ始めている。
③第三は、コミュニティである。乱暴を承知で述べれば、
現代日本では、伝統的地縁型のコミュニティは農村に依
然として強固であり、都市ではそのようなコミュニティ
が薄れるのと対応して、会社や個人の趣味のつながりを
通して築き上げられた新しいパーソナル・コミュニティ
が台頭してきている。すぐ上で述べたように、都市的生
活と農村的生活の共存に多様な形態が発生してきている
ことを考えれば、農村に代表される伝統的地縁型のコミ
ュニティと、郡市に代表されるパーソナル・コミュニテ
ィが融和した新しいコミュニティのあり方を模索するこ
とが、まさに「都市と農村の結婚」の現代的解釈の1つ
となるとする。
琵琶湖で異常繁茂が問題になっている特定外来水生植物
オオバナミズキンバイの駆除に県が手を焼いている。
漁船の運航や生態系に影響が出るため本格的な対策に乗
り出しているが、駆除してもまた新たに生えるいたちご
っこが続く。非常に繁殖力が強く、県は早期駆除に向け
住民に協力を呼び掛けている。
琵琶湖に通じる米原市朝妻筑摩の蓮池。12月初旬、オ
オバナミズキンバイ500平方メートルと、同じく特定
外来種のナガエツルノゲイトウ2700平方メートルが
水面を覆っていた。現場では委託業者が改良した林業用
重機を岸辺に設置。次に熊手をつけたワイヤを群落に引
っかけ、岸辺に一気にかき集めてから重機で水揚げする。
最後に作業員が池に入り、切れた茎や根を網ですくう。
種子が残って拡散する恐れがあるため、堆肥にすること
ができず再利用が難しい。乾燥後にすべて焼却処分す
るという(京都新聞 2017.01.18)。
オオバナミズキンバイの特徴は、成長スピードの速さと、
切断した茎から再生できる繁殖力だ。刈り取っても、少
しでも茎が残ればそこから繁茂する。琵琶湖では09年
に守山市で発見され、13年の台風18号で増水した際
に拡散したと見られる。最初はキャベツのような形の葉
を付けて水面に広がっていく。次に上に伸びるようにな
ると長細い葉の形になり、陸にもせり出してくる。
琵琶湖での生育エリアは14年度末で4万6300平方
メートルだったが、15年度末は20万平方メートルに
まで拡大。県は本年度計3億3300万円の予算を掛け
て対策を図っている。蓮池では一昨年繁殖が確認され、
何度も人力や機械で駆除をしているが、根絶に至らない。
対策システム化の知恵を!
環境を守ることで価値を高めるためなら3億円もやむを
得ないと考えるが、抜本的な対策はないものだろうか?
※ 侵略的外来水性植物防除マニュアル(案) 滋賀県
【脚注及びリンク】
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- 田園都市 Wikipedia
- 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
- 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード: 宮
﨑洋司市 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.06 28 - 平成 28年度 主要事業 彦根市
- 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
滋賀県 - 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
- 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主
導のまち創る-近世城下町 彦根市本町地区の2
例の場合-(これからの都市づくりと都市計画
制度 全国市長会) 中島一 2005.05.09 - 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
- 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
- ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
- 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
- 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
- 「道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
波新書 - 日本の道路史 武部健一 中公新書
- 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
- 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
- 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
- 彦根市都市計画道路網見直し指針
- 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
- 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31
- 彦根市立図書館|簡易検索
- 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
- 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
展望 2014.11.26 - アウガ Wikipedia
- 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
- 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
- コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
青森から見る居住の自由 2016.11.08, Ya hoo!ニュース - <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河北新
聞 2016.01.28
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