お待たせしました。
(・・・誰も、待ってないか?)
妄想小説も、はや、25話めまできました。
これを書いたのは、昨年。
アイドル誌のグラビアで、片手に大量の向日葵をもって、
こっちを向いて、いつもの、あの笑顔で、
「にぱッ!!」
って、笑ってるやつです。
向日葵みたいに、
すばちゃんだけ見て咲いていたい。
でも、きっと、すばちゃんは、
凛として、自分の力で咲いてる花が好きなんだろうなあって、
そんなことも思いながら、書き上げました。
お付き合いくださる方は、続きから。
どうか、すばちゃんに愛されてください。
Story.25 《 向 日 葵 》
仕事終わり、彼女のアパートに向かう道の途中。
彼は、通りがかった花屋の店先に、目を奪われた。
そこには、鮮やかな黄色の向日葵が、青いバケツに無造作に入れられていた。
花自体は、やや小ぶりではあるものの、
それでも、他の花に比べたら圧倒的な大きさで、そこにあった。
彼は、吸い込まれるように店に入ると、
忙しそうに立ち動く店員に、思い切って声をかけた。
「あの・・・、
・・・・・・あそこの、向日葵なんやけど」
「ああ。はい」
店員のおばちゃんは、ニコニコしながら、彼の方を向いた。
────── うわぁ、めっちゃ、愛想よさそうやわ、この人。
そう思った途端、彼は次の言葉に詰まってしまった。
────── どないしよ、なんて言おう。
彼の様子を、無視するように店員が尋ねた。
「ご自宅に飾られる? それともお使い物ですか?」
────── は? なに、それ。
彼は、『お使い物』の意味に、一瞬、戸惑った。
「どなたかへのプレゼント?」
店員が、苦笑しながら言い直す。
「いや、あの、えっと・・・、そんな堅苦しいもんとちゃうねんけど・・・」
「この時期だけやからね、向日葵は。
一本でも、十分、見ごたえはあるけど、
まとめて飾ると、圧巻ですわ。
ここは花屋やから、そう目立ちもせえへんけど、
花瓶に生けると、それだけで、部屋中が、いっぺんに明るうなるから」
にこやかな店員は、立て続けに言った。
「花言葉なんか、知ってはる?」
「いや、そういうのんは・・・」
「憧れとか、崇拝っていうのが、まぁ、一般的なんやけどね。
太陽に向かって咲く姿からの、連想なんやろねぇ」
「そうですか・・・」
────── めっちゃ、話好きやん。
ああ、もう、どないして切り上げたらええねん。
それから十数分の間、
彼は、このおばちゃん店員から、
向日葵の種類やら由来やらを聞かされることになった。
彼は、どこで話を切り上げさせたらいいのか、判らずにいたのだが、
このおばちゃん店員は、そんなことは、感知していないようだ。
「そういえば、ほかにも、花言葉はあって。
あなただけを見つめてるって、いうんやけどね。
なんか、かわいいでしょ?
こんなに、綺麗で鮮やかで、人目を引く花はないのに、
誰からだって好かれて、引く手あまたやのに、
一心不乱に、好きな人の方しか見てないなんてねえ」
────── 人と花と、ごっちゃになっとるやんけ。
「そしたら、この向日葵、ください」
おばちゃんの話に、いい加減、うんざりしていた彼は、
ようやく、そう言った。
「おおきに。
ラッピングは、どないしとこか」
「ああ、ええわ、そのまんまで」
「このままで、ええの? 包まんと?」
「近くやし、ごみになるようなもんも、いらんし」
「そうかあ?」
言いながら、おばちゃん店員は、
向日葵をごっそり、持ちやすいように括っている。
「え! いやいや、これ、ちょっと多すぎひん?
こんなには、いらんで。1本でええんやけど」
「もう、今日は、これで店も終いやから、お、ま、け。
ちょっと持ちにくいかもしれんけど、近くなら、ええでしょ」
1本分の花代を支払って、彼は店を後にした。
────── いや、ほんまに全部おまけやん。
あんなんで、店、やってけんの?
彼は、手に持たされた向日葵に目をやった。
10本以上はあろうかという花の集まりは、確かに、
1本よりも存在感は抜群だ。
通りから一本外れた路地に入ったところにある、彼女のアパート。
彼は、玄関のインターホンを押した。
ピンポーン!
軽快なチャイムが鳴る。
インターホン越しに、彼女の声。
「はい」
「あ、オレ」
「待って。すぐ開けるから」
ロックをはずす音がして、ドアが開いた。
「キャッ!」
小さく、彼女が声を上げる。
目の前に、鮮やかな黄色い花の群れ。
それが向日葵だと気付くのに、ほんのちょっと、時間がかかる。
花の横から、彼が顔を見せた。
「ビックリしたやろ?」
言いながら、彼は、部屋に入った。
「うん。どうしたん、それ?」
「買うた」
「そんなに?」
「う~ん、買うたんは、1本だけやねんけど」
「わかった、それ、表通りの花屋だ」
「そうやけど、なんでわかんねん」
彼女は、花瓶を用意しながら、言った。
「あそこ、元気のいい、懐こいおばちゃん、おったでしょ」
「ああ・・・」
彼は、さっきの、おばちゃん店員を思い出した。
「あの人な、ああ見えて、あそこの店長さんなんやけどな」
彼女は、彼の手から花を受け取った。
「店終いの頃に来たお客さんには、注文より多めの花、包んでくれるんよ」
花瓶に向日葵を生けると、テーブルに置いた。
「めっちゃ話好きそうで、どないしようかと思ったわ」
彼女は、そんな彼を見て微笑うと、
「ありがと」
言いながら、彼の首筋に抱きついた。
「部屋が、いっぺんに明るくなったわ」
抱きついてきた彼女の腰に腕を回し、
彼は、彼女の香りを、より近くに感じようとした。
「向日葵、こっち、見てるよ」
彼の仕草を制するように、彼女が言った。
「なんか、こんだけあると、誰かに見られてるような気分になるわね」
「ああ、そら、そうやろ」
彼は、彼女を抱きしめたまま、言った。
「花言葉、知ってる?」
「向日葵の? 確か・・・、憧れとか、そんなんだったんちゃう?」
「お、よう知ってんな、さすがやん。
でも、まだ、あるねんて」
「他にも、あるの?」
「“あなただけ見つめてる”っていうんやって」
「へえ、よう知ってるんやね」
「さっき、花屋のおばちゃんが教えてくれた」
「あ、すごい、ちゃんと会話してきたんだ」
「あれは会話って言わへんわ。
一方的に向こうがしゃべっとっただけやから」
「ん、もう。どんだけ人見知りなん?」
彼女が、彼の顔を見上げて微笑った。
その笑顔が可愛くて、彼は、また彼女を抱き締めた。
「この花は、オレの気持ち。
あんまり、お前のそばにいてやられへんから。
淋しくないように、な」
彼女は、応えるように、彼にしがみついた。
「あ、でも、監視するとか、束縛するつもりはないからな。
お前は、お前のしたいようにしてたらええねんで。
今のまんま、互いに、自由にしてるんが一番ええねん」
彼女は、彼の腕のなか、
黙って、彼の胸に顔をうずめている。
「ほんでも、もしかしたら、淋しくて迷う時もあるんちゃうかなって。
そんな時、この向日葵、思い出してくれたら、
オレの気持ちも伝わるかなあって、思っただけやねん」
「・・・・・・」
彼女の肩が、小刻みに震えている。
「え、オレ、なんか、おかしなこと言うた?」
彼女の顔を上げさせて、彼は、うろたえた。
「ちゃうやん、なんで泣いてんねん。
泣き顔見たくて、花、買うてきたんとちゃうぞ」
彼女の頬を伝わる涙を、彼はその指で拭いた。
「ごめん、でも、嬉しくって。
私のこと、考えてくれてるんやなあって思ったら、
涙、出てきちゃった」
涙でくしゃくしゃな顔で、彼女は笑顔を作った。
「いっつも、放っといてばっかやからな」
「ううん、それは、ええの。
仕事やってわかってるし、男同士の付き合いやって大事やし。
全部判ってて、あなたとこうしてるんやから」
彼女は、彼を見つめた。
「それでも、ね。時々だけど、不安になるの。
私で良かったんかなあって。
もっと、ほかに素敵な女の人、いくらでもいてるのに、
あなたのこと、もっと応援してくれる人、
いっぱい、いてんのになあって」
「あほか。また、そんなこと言うんか」
彼は真顔で、彼女を見据えた。
「ええか、いっぺんしか言わへんからな、よう聞いとけよ」
彼の瞳に彼女が映る。
吸い込まれていくような、深い色。
「確かに、オレはこんな仕事してるから、応援してくれる人は、ようけ、いてる。
それは、ほんまに、有り難いことや。
せやけど、オレの心ん中まで入り込んで、
オレを真ん中で支えてくれてるんは、お前だけやからな。
オレが、たとえ、どっか他を向いてるように見えても、や。
心は、絶対に、お前の方を向いてる。
ちょうど、この向日葵が、太陽の方を向いて育つように。
ええか、忘れんなや」
言葉をだしたら、また、泣き出しそうで、
彼女は、ただ黙って頷いた。
そして、心の中でつぶやいた。
────── 向日葵なんは、私も同じ。
いつも、あなただけ見つめて、
あなたという太陽の光、浴びてないと枯れてしまうのよ。
輝き続けていてね。
たとえ、他の向日葵が違う太陽見つけて、そっぽ向いても、
私は、私だけは、あなただけ見つめてる。
「なあ、なんや、こう・・・」
彼女を抱き締めたまま、彼は、その耳元にささやいた。
「このまま、しても、ええ?」
彼女は、彼を見上げて、小さく笑った。
「だめ! 見られてるみたいで、恥ずかしいもん」
言いながら、するりと、彼の腕をすり抜けた。
「ええやん、いうても、ただの花なんやし」
追いかけるように、彼は、彼女を抱きとめる。
彼に向けられたのは、
向日葵そのもののような笑顔だった。
彼のためだけに咲いた向日葵。
彼はこの笑顔を、ずっと見ていたい、守りたい。
そう、思った。
そのためになら、どんなことだってする。
足りん力を振り絞ってでも、
この笑顔だけは、枯らさん。
そう、誓いを新たにしたのだった。
FIN.
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