すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

STORY.26 熱帯夜

2009-07-20 09:55:26 | 小説


本日は、出来立て取れたて、アツアツの、小説最新話をお届けします。

先日、とあるチャットルームでの妄想にきっかけをもらって、
あっという間にプロットの出来上がったお話です。

ただ、途中、作者の私が、
ドリボ申し込み全滅という奈落に落ちたために、
再起不能になりかけましたが、

心優しき方の恩情に縋る形で、現世に戻ってこれました。

チャットに参加されていた方は、大筋はご存知ですが、
言葉に直していくうちに、
やっぱり、彼の方が暴走していきました。

MなくせにSな彼女と、
Sを装うMな彼。

なので、ラストは少し、変わっています。
どう、変わったかは、読んでからの、お楽しみ。

石川魂のレポに皆様、お忙しいかとは思いますが、

すばる君に愛されたい方は、ご一読を。


お付き合いくださる方は、続きから、どうぞ。





STORY.26 熱帯夜




梅雨明けが報じられたその日。

前日までの大雨で、地上に溜まっていた水滴が、
一気に天空へ昇ってゆくかのように、

街は、蒸し暑さに包まれていて、
それは、夜になって陽が落ちてからも、変わりはなかった。

昼の間に吹いていた風も、ピタリと止んで、

窓を開け放っていても、一向に涼しくはなかった。



「暑~~ィ」

声にしたくなくても、つい叫んでしまう。

「ねえ、エアコン、かけてもいい?」

「あかん。エアコンは、あかん。のどにくる」

「だって、扇風機の風、全っ然、涼しくないもん」

「今週末、また、ライブあんねんから。のど、痛めたら元も子もないやんけ」

彼の仕事は、歌うたい、だ。
だから、なにより、のどの調子を気にする。
ツアー中は、なおさらだ。

「じゃあ、なんか、冷たいもんでも・・・」

小さなキッチンに立って、冷凍庫を開ける。

「あ。なんにもないや」

彼がお酒を飲むための氷で、冷凍庫は、いっぱいで。

「ねえ、アイス、買ってきて?」

「はあ? なんで、オレ?」

「だって、私もう、外に出る格好じゃないもん」

「着替えたらええやん」

「やだもん。汗になるもん」

「あほか。もう汗、かいてるやん」

「ひとりでコンビニ、怖いもん」

「まだ、そんな時間ちゃうで」

「ねえってば」

「氷、食べといたらええやん」

「そんなこというんやったら、もう、今日は、なしね」

「なしって、おい。
ちゃうやんか、話、関係ないやん。
なんで、そうなるん」

「私のお願い、きいてくれないんやったら、
あなたのいうことも、きいてあげへん」

「たかが、アイスやぞ? 話、大きなってるやん」

「だって、また、汗かくもん。暑いから、汗かくこと、したないわ」

「いやいや、そん時は、エアコンかて入れるやろ?
 まさか、窓開けたままでは、せぇへんし」

「でもイヤ。暑いまま、したくないもん」

「アイス食べたら、暑なくなんの?
 氷では、あかんの?」

「冷たくて、甘いものが、欲しいのっ!」

「ああ、もうっ!! わがままやねんから。
 わかった、買ってきたる。
 アイスやったら、なんでも、ええんやな?」

「うん」



しばし、のち。



「ほら、買うて来たで」

近くのコンビニまで行ってきた彼が、白い袋を差し出した。

「いつものチョコミントで、良かったんやな?」

「え!?」

「おい、『え!?』て、なんなん」

彼から受け取った袋を覗き込む。

「バニラの気分・・・」

「あんなぁ・・・。大概にせぇ」

「後で食べる」

「なんて?」

「今、チョコミントの気分じゃないもん」

白い袋からアイスを取り出して、冷凍庫に入れる。

そのついでに、
ふと、思い立って、
そばにあったタオルを濡らして、絞る。

「・・・ったく、なんやねん」

いつもの場所に、ストンと座った彼の、
表情が、険しい。

「食べたい、言うから、買いに行ってやったのに」

近くにあった雑誌を手に、ぱらぱらとページをめくる。

横に座ると、
ふいっと、彼が背を向けた。

「怒ったの?」

背中から、彼に聞いてみる。

「怒ってへん、別に」

振り返りもせず、
目を、雑誌に落としたまま。

雑誌が読みたいわけじゃないのは、すぐに分かる。

だって、それ、
女の子用のファッション誌だもん。

怒らせたかな、やっぱし。

私は、彼の背中を見る。

華奢な肩幅。
広くは無い、背中。

外は、もっと蒸し暑かったんだろう。
汗ばんだシャツが、そこに、張り付いている。

手にした濡れタオルを、彼に渡そうとした時、

「暑っつ!!余計な汗、かいたわ」

彼が、いきなりTシャツを脱いだ。

脱いだTシャツで、顔の汗を、ごしごしっとする。

私は、手元のリモコンで、
せめても、扇風機の風を強くしてみた。

頼りない風が、彼の髪を揺らす。

「背中、拭いてあげる」

私は、濡らしたタオルを彼の背にあてた。

「ひゃっ・・・」

一瞬の冷たさが、彼の身体のほてりを、静める。

「ちょっ・・・くすぐったいやん」

汗をふき取った背中に、指で書いた文字。

『ありがと』の、4つまで書いたところで、
身体をくねらせて、彼が振り返る。

「なにしてんねん」

「背中、拭いてる」

「ちゃうやん、今、なんかえらいくすぐったかったで」

「あとひとつ、ね」

「んん?」

振り返った彼の背に、手を伸ばして、
『う』。

書くと同時に、彼の頬に、KISS。

耳元に、囁く。

「欲しかったのは、貴方が私のためにしてくれる気持ち、だから」

私は、そのまま、
彼の首筋に抱きついた。

「試した・・・んか」

「違うわ。ただ、欲しかった、のよ」

彼の瞳が、私を見つめてる。

「欲張り、やな」

「そう? 」

「そんで、ええわ。欲しいもん、諦めてるより、ずっと、ええ」

「そのために振り回されても?」

「オレには、面倒な駆け引きは、出来ん。
 動けるときは、動いたるし、アカンと思うたら、そう言うし」

「今は?」

見上げた私に、彼の香りが降りてくる。

汗に混じった、かすかな、煙草の匂い。

耳元に、彼の唇が触れる。
息がかかる。

「オレが出てる間に、寝室のエアコン、かけたやろ?」

くすくす。

小さく笑う私を、彼の手が抱き寄せる。

「窓の外、室外機の音がしてる」

敏感な、耳ね。

「オレを誰やと、思うてるん」

「歌のうまい、小っちゃいおっさん?」

「おまえ、しばくぞ?」

言葉の端で、彼が笑った。

「誰が小っちゃいねん」

そこ? 

「大きなるトコ、見せたろか」

なにげ、自信満々なんですけど。

「食べてみる?」

にやり、と、彼が笑った。

「甘いミルク、たっぷり、かけたるわ」

くすくす。

「だったら、冷やさないとね。冷凍庫で」

「よっしゃ。ほんなら、冷凍庫ん中、行こか」

私から離れて起き上がった彼。

「アイスに負けんくらい、ドロドロに溶かしたる」

くすくす。
もうちょっと、イジワル、してみる?

「溶かすだけで食べない気なら、止めといて」

「なん?」

「甘いもん、苦手でしょ?」

「待てや。話が・・・」

「私、アイスより、甘いわよ? 食べ切れる?」

満面の笑みが、彼に広がる。



「極上の甘いもんは、特別や」



濃厚な甘い蜜に誘われた蜂が、羽音をたてて、夜の闇を、狂い飛ぶ。

溶け出した香りが、静寂に流れこみ、

むせかえるほどに、立ちのぼる。



熱帯夜の気温が、また少し、上がった。




FIN.





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