殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

姑の悲しみ

2009年04月22日 00時53分41秒 | みりこんぐらし
昨年の夏、長男が会社を辞めた。

理由は二つある。

次男が入社した一昨年から、転職するつもりだったと言う。

明日をも知れない会社に

兄弟でうれしげにしがみつくのはダサいので

自分より体の弱い弟が残ればいいと言う。


そんな時、夫の姉ルイーゼの陰謀により

長男は、誤解した義父母に激しくののしられた。


陰謀と呼ぶには、あまりにもケチくさい。

優秀な事務員ルイーゼは、休日出勤した長男のタイムカードを見誤り

休みなのにタイムカードを押している…

と両親に言いつけたのだ。


娘の言葉を鵜呑みにした両親は

真偽を確かめずに孫を責めた。

「いつもそうやって、給料のネコババをしていたのではないのか」


長男は何も言わずにその場で退職し

かねてから話を通してあった

別の会社にサッサと転職した。


そんなことはどうでもいい。

身内同士が同じ会社にいれば日常茶飯事だ。

こういうことを防ぐために

長男か次男、どちらか一人を残して一人を切るという

以前からの私の計画は、手を下さずとも実行された。

手間がはぶけた。


腹が立つのはそれからだ。

その日のうちにルイーゼは

長男の名前をデカデカと書いた文書を取引先にFAXした。

“下記の者は退職しましたので、今後当社とは一切関係ありません”


「あんまりだよ…これ…頭がおかしいんじゃないの?」

親しい取引先から涙目で見せられたその紙に、私は逆上した。

これは夫が女と駆け落ちした時にも、夫の名前でやられた。

その時はギャーギャー言っただけで済んだが

我が子となると、はらわたが煮えくりかえる。


私は家に飛んで帰り、出刃包丁を研いだ。

今晩ルイーゼの家に乗り込んで、暴れるつもりだった。


キャベツで試し切りをすると、これがまたよく切れること。

そのままサクサクとキャベツを切っていたら、目的を忘れた。

そこへ帰宅した夫

「子供のことを考えろ!」

そのセリフ、そっくりあんたにお返しします。


ほどなく娘の勘違いに踊らされたと気付いた両親は

日増しに自分たちがしでかしたことに苦しみ始めた。


最初は、私にあれこれ言って来た。

「今謝れば許してやるから戻って来てもいい」

私の仲裁でコトを納めようとした両親だが

謝るのはそっちだと断った。


この人たちはいつもそうだ。

居られない状態に追い込んでおいて

離れると戻れ、戻れ、なぜ出た…と言う。

この根性は、私が彼らの家を出た十数年前から

いっこうに進歩していない。

長男はすでに新しい道を歩み始めたのだ。


そのうち彼らはだんだん弱気になってくる。

「経営難でイライラしていた気持ちもわかってほしい」

私は、経営状態が悪いのは取締役の責任であって

いち従業員である長男には関係ない…と言った。

義母はギャンギャン言って電話を切った。


そして現在。

義母は病気が発覚し、入院手術を控えている。

これを機に、同情から和解に持ち込もうと

毎日涙声で電話をしてくる。


かわいがってきた孫に見捨てられて

どんなに悲しくつらいかを切々と訴える。

これが最期になるかもしれないから、せひ顔を見せてほしい…。


癌も、脳梗塞も、その他もろもろの病気からも見事に復活した。

脳梗塞の時は、しびれるから病院に連れて行ってと頼んだルイーゼに

「自転車で行け」

と言われた。

そんな娘の言うことを一瞬で信じたのだから、自業自得というものだ。


    「仲直りがしたいなら、ひとこと謝ればすむじゃん」

「それは…お父さんの立場があるから…」

    「何の立場?年?どこに立ってんの?」

「やっぱり、こういうことは…ねぇ。

 若い者が折れてくれないと…」

    「は~ん…無実の罪で怒られて、その上まだ折れろと?」

「もう老い先短いんだし…このままだと病気が悪化するかも…」

    「これ以上悪化しないよ。もう切るんじゃん。

     死なないでよ。淋しいから」

話は入院の方向にそれて行く。


実は長男、祖父母の仕打ちをなんとも思っていないのだ。

しかし、残った弟が一人前になるまでのあと数年

ルイーゼの異常な行動を封じるために絶縁を装うのが得策だと言い

私もそれに乗った。


義母が入院すると

私の怒りを察知して、コソコソ避けるルイーゼと

どうしても顔を合わせることが増える。

楽しみだ。

コメント (18)
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