『男たちの大和』を見まして、つい思い出しましたのが、先年、DVDを買って見ました『トラトラトラ!』と『ハワイ・マレー沖海戦』です。
『トラトラトラ!』は、日米合作でハワイの真珠湾攻撃を描き、1970年に公開された映画です。
近年の『パール・ハーバー』は、アメリカでも史実歪曲の駄作として知られていますが、『トラトラトラ!』の方は評判がよさげでしたし、ゼロ戦やら九九艦爆やら九七艦攻やらが、実際に飛んでいる姿を見たくなったのです。
さすがに、アメリカの海軍が協力したという映画、でした。
いえ、なんでアメリカが負けっ放しの映画にアメリカ海軍が協力したかといえば、なんでもハリウッドの製作側が、相当なお金を払ったとかで。
『男たちの大和』はどうなんでしょ? なんだか海上自衛隊は、宣伝のために、無料奉仕してそうな気がするんですけど。
ともかく、『トラトラトラ!』は、よかったです。
民間に被害が及びませんし、戦闘とそこに至る駆け引きを楽しむ、本来の意味での戦争映画、ですね。
だから、なにがいいって、冒頭の日本海軍の様式美と、対照的に描かれるアメリカ軍のラフな戦闘魂。
そしてやはり、本物の空母を使った離艦シーンや、特撮に頼らない迫力の爆撃シーン、ですね。
冒頭、山本五十六が連合艦隊司令長官となり、旗艦長門に乗り込むシーンは、重厚な美しさで、『男たちの大和』もこれを意識して引き継ぎ、長官乗り込みの場面を新兵の乗り込みに、そしてまた同じ開戦前の格式高い正装の場面を、終戦間際のカーキー一色の悲壮な場面にと、対称させているんだと思えるんですね。
まあ、くらべれば、やはり、勝ち戦であるにもかかわらず、『トラトラトラ!』の男たちの方がずっしりと重々しい存在感を見せ、悲壮なはずの『男たちの大和』の男たちの方がふわっと軽いな、って印象はあるんですけど、映画を作った時代がちがうんですから、それは仕方がないですね。
で、開戦の日の暁闇に、空母赤城から真珠湾をめざし、艦爆が、艦攻が、ゼロ戦が、次々に発艦していくシーンの美しさは、茫然と息を呑むほどでした。
日本側アクション部分の監督は、深作欽二だと書いていたので、私はこの場面もそうだと思ったんですけど、空母がアメリカのものなので、(えー、あたりまえですね、戦後、日本は空母を持ってませんから)、アメリカ側の撮影シーンなのかもしれません。
たた、後で知ったんですけど、『トラトラトラ!』の真珠湾攻撃の赤城の場面は、赤城内部のドラマ的場面まで含めて、日本帝国海軍が戦時中に戦意高揚映画として作った、『ハワイ・マレー沖海戦』を、ほとんどそっくりに踏襲しているんですね。
現在ではこの映画、円谷英二が手がけた日本初の高度な特撮映画、としての評価しかされていませんで、実際、ドラマとしておもしろいとは、お世辞にもいえません。
ところが、いうまでもないんですが、現在の目で日本初の特撮を見れば、実にちゃっちいんです。
やはり、なんといってもこの映画の値打ちは、本物の水兵さん、本物の日本の空母、本物の帝国海軍航空機の、圧倒的な迫力です。
たしか、飛行機好きで知られていた斉藤茂太氏(斉藤茂吉の長男で北杜夫の兄)だったと思うんですが、「陸軍航空隊にくらべて、海軍航空隊の編隊飛行は、翼が触れそうなほどびしっと連なって、実に見事なものだった」と書いておられて、印象に残っていたのですが、まさに、おっしゃる通りでした。
本物の帝国海軍航空隊による『ハワイ・マレー沖海戦』の編隊飛行は、『トラトラトラ!』の編隊飛行に、はるかに勝る美しさです。
しかし、戦前のオタクは大変だったようでして、飛行機オタだった斉藤茂太少年は、陸海軍の飛行機写真を集めていたのですが、その中に陸軍の発表前の飛行機のものが含まれていたとかで、憲兵隊に呼ばれるんですね。
もっとも、茂太少年は、飛行機のことをなにもしらない憲兵さんたちに、これからの航空戦力の重要性を啓蒙して、たいしたこともなく帰されたようですけど。
で、さすがは帝国海軍宣伝映画です。
最後に、なんの関係もなく、軍艦マーチが高らかに鳴り響き、演習なんでしょうけれど、実物の数隻の軍艦が荒波にもまれて、実際に発砲するシーンがあるんです。
私は、まったく軍艦には詳しくないので、いったいなにが参加しているのかわからないんですけど、ともかく本物です。
どっしりと重量感のある軍艦が、波を蹴立てて走り、砲が黒煙をあげて火を吹く。
モノクロ映像の荒い画面ですが、その実物の迫力にはもう、圧倒されてしまいまして、いや、なんか……、軍艦オタの殿方の気持ちが、よくわかりました。
戦闘を描く本来の戦争映画が、そういえば最近、あまりないような気がします。
人間ドラマに重点を置いた戦争もの、最近では「反戦映画」という言い方もされるようですが、「反戦」というようなスローガンが目的になってしまっては、スローガンが逆なだけで、戦意高揚映画と変わりません。
それはそれで、お定まりに悲惨を煽ってみました、というのではなく、きちんと人間が描けているものは、いいんですけどね。要するに、映画の出来でしょう。
この手のものでは、私は、これも古いですけど、『ディア・ハンター』が好きです。
『男たちの大和』は、どちらかといえば後者、人間ドラマに重点を置いている映画なんですが、映像としては、『トラトラトラ!』を引き継ぐものでも、あると思うんです。
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『トラトラトラ!』は、日米合作でハワイの真珠湾攻撃を描き、1970年に公開された映画です。
近年の『パール・ハーバー』は、アメリカでも史実歪曲の駄作として知られていますが、『トラトラトラ!』の方は評判がよさげでしたし、ゼロ戦やら九九艦爆やら九七艦攻やらが、実際に飛んでいる姿を見たくなったのです。
さすがに、アメリカの海軍が協力したという映画、でした。
いえ、なんでアメリカが負けっ放しの映画にアメリカ海軍が協力したかといえば、なんでもハリウッドの製作側が、相当なお金を払ったとかで。
『男たちの大和』はどうなんでしょ? なんだか海上自衛隊は、宣伝のために、無料奉仕してそうな気がするんですけど。
ともかく、『トラトラトラ!』は、よかったです。
民間に被害が及びませんし、戦闘とそこに至る駆け引きを楽しむ、本来の意味での戦争映画、ですね。
だから、なにがいいって、冒頭の日本海軍の様式美と、対照的に描かれるアメリカ軍のラフな戦闘魂。
そしてやはり、本物の空母を使った離艦シーンや、特撮に頼らない迫力の爆撃シーン、ですね。
冒頭、山本五十六が連合艦隊司令長官となり、旗艦長門に乗り込むシーンは、重厚な美しさで、『男たちの大和』もこれを意識して引き継ぎ、長官乗り込みの場面を新兵の乗り込みに、そしてまた同じ開戦前の格式高い正装の場面を、終戦間際のカーキー一色の悲壮な場面にと、対称させているんだと思えるんですね。
まあ、くらべれば、やはり、勝ち戦であるにもかかわらず、『トラトラトラ!』の男たちの方がずっしりと重々しい存在感を見せ、悲壮なはずの『男たちの大和』の男たちの方がふわっと軽いな、って印象はあるんですけど、映画を作った時代がちがうんですから、それは仕方がないですね。
で、開戦の日の暁闇に、空母赤城から真珠湾をめざし、艦爆が、艦攻が、ゼロ戦が、次々に発艦していくシーンの美しさは、茫然と息を呑むほどでした。
日本側アクション部分の監督は、深作欽二だと書いていたので、私はこの場面もそうだと思ったんですけど、空母がアメリカのものなので、(えー、あたりまえですね、戦後、日本は空母を持ってませんから)、アメリカ側の撮影シーンなのかもしれません。
たた、後で知ったんですけど、『トラトラトラ!』の真珠湾攻撃の赤城の場面は、赤城内部のドラマ的場面まで含めて、日本帝国海軍が戦時中に戦意高揚映画として作った、『ハワイ・マレー沖海戦』を、ほとんどそっくりに踏襲しているんですね。
現在ではこの映画、円谷英二が手がけた日本初の高度な特撮映画、としての評価しかされていませんで、実際、ドラマとしておもしろいとは、お世辞にもいえません。
ところが、いうまでもないんですが、現在の目で日本初の特撮を見れば、実にちゃっちいんです。
やはり、なんといってもこの映画の値打ちは、本物の水兵さん、本物の日本の空母、本物の帝国海軍航空機の、圧倒的な迫力です。
たしか、飛行機好きで知られていた斉藤茂太氏(斉藤茂吉の長男で北杜夫の兄)だったと思うんですが、「陸軍航空隊にくらべて、海軍航空隊の編隊飛行は、翼が触れそうなほどびしっと連なって、実に見事なものだった」と書いておられて、印象に残っていたのですが、まさに、おっしゃる通りでした。
本物の帝国海軍航空隊による『ハワイ・マレー沖海戦』の編隊飛行は、『トラトラトラ!』の編隊飛行に、はるかに勝る美しさです。
しかし、戦前のオタクは大変だったようでして、飛行機オタだった斉藤茂太少年は、陸海軍の飛行機写真を集めていたのですが、その中に陸軍の発表前の飛行機のものが含まれていたとかで、憲兵隊に呼ばれるんですね。
もっとも、茂太少年は、飛行機のことをなにもしらない憲兵さんたちに、これからの航空戦力の重要性を啓蒙して、たいしたこともなく帰されたようですけど。
で、さすがは帝国海軍宣伝映画です。
最後に、なんの関係もなく、軍艦マーチが高らかに鳴り響き、演習なんでしょうけれど、実物の数隻の軍艦が荒波にもまれて、実際に発砲するシーンがあるんです。
私は、まったく軍艦には詳しくないので、いったいなにが参加しているのかわからないんですけど、ともかく本物です。
どっしりと重量感のある軍艦が、波を蹴立てて走り、砲が黒煙をあげて火を吹く。
モノクロ映像の荒い画面ですが、その実物の迫力にはもう、圧倒されてしまいまして、いや、なんか……、軍艦オタの殿方の気持ちが、よくわかりました。
戦闘を描く本来の戦争映画が、そういえば最近、あまりないような気がします。
人間ドラマに重点を置いた戦争もの、最近では「反戦映画」という言い方もされるようですが、「反戦」というようなスローガンが目的になってしまっては、スローガンが逆なだけで、戦意高揚映画と変わりません。
それはそれで、お定まりに悲惨を煽ってみました、というのではなく、きちんと人間が描けているものは、いいんですけどね。要するに、映画の出来でしょう。
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