郎女迷々日録 幕末東西

薩摩、長州、幕府、新撰組などなど。仏英を主に幕末の欧州にも話は及びます。たまには観劇、映画、読書、旅行の感想も。

幕末の人気伝奇コミック『白縫譚』

2006年02月11日 | 幕末文化
普通の人々の幕末ベストセラー でご紹介しました『白縫譚(しらぬいものがたり)』。幕末当時の木版本がばら売りされているのを、古書サイトで見つけまして、バラですのでさほど高価ではなく、状態のよさそうなのを選んで、五編購入しました。

三十二編 各上下 柳下亭種員 作 歌川国貞 画 、廣岡屋幸助梓 、2冊 、不明

三十三編 各上下 種員 作 国貞 画  廣岡屋幸助梓 、2冊 、不明

三十五編 各上下 種員 作 国貞 画 、廣岡屋幸助梓 、2冊 、文久2年

五十六編 各上下 柳亭種彦(二世) 作 (歌川)芳幾 画  廣岡屋幸助梓 2冊 、慶應4年

五十七編 各上下 種彦 作 芳幾 画 、廣岡屋幸助梓 、2冊 、慶應4年


普通の人々の幕末ベストセラー に載せました写真が三十二編です。
出版年は不明ですが、ほぼ年に二冊づつの刊行のようで、三十五編が文久2年(1862)と明記されていますので、万延元年(1860)ではないか、と推測されます。桜田門外の変の年でして、手にして、感無量です。

今日の写真は、五十七編。慶応四年、つまり明治元年の戊辰の春です。
春っていわれても、五十六編も同じ年の春になっていますし、正月に続けて出されたものやら、少し間があいているのか、よくはわからないのですが、鳥羽伏見の戦いは終わった後ではないのか、と思えるんです。
出版年がわかるのは、前書きがついているから、でして、この五十七編の前書きは、なんとも意味深です。
と言いつつ、かなり読みやすい木版ではあるのですが、ひらがなのくずしが……、実は私、読めません。くずし字字典と格闘しなければなりませんが、くずし字字典がとっさに見つかりませんで。ちがっていたら、ごめんなさい。
「波うつ則(とき)の逆怒(げきど)当(あた)るは痛く、忠孝も二なし。太平の世の忠臣と富貴の家の孝子とは、よく尽くせども平々しかり然(しこ)うして、最(もっとも)難し」
というような書き出しで、物語の展開の説明に入っていきます。
「波うつ則(とき)の逆怒(げきど)」って、鳥羽伏見の戦いに重ねていっているのではないかと、思えるのです。

本文は、コミックそのようです。カラーなのは表紙だけですが、前書きをのぞく全ページに挿絵があり、その挿絵の余白にびっしりと、細かい文字で、物語が記してあるのです。本文の文字のくずしぐあいは、前書きより強く、私にはろくに読めませんです、はい。

年に二編の刊行って、ずいぶん待たされる感じがするのですが、考えてみましたら、現在でも月刊誌などに連載された漫画のコミックスで、年に二冊しか刊行されないものはありますね。
戊辰の春の江戸で、この冊子を手に取った少女は、どんな気持ちで読んだのでしょうね。


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