(01)
① 読書。 と、
① 読 者。とを合はせると、
① 読書者。⇔ 書を読む者。
然るに、
(02)
① 読書者。⇔ 書を読む者。
といふ「漢文」に対して、
② 読者書。⇔ 書を読む者。
といふ「それ」は、無い。
同様に、
(03)
① 宋人有耕田者。 ⇔ 宋人に田を耕す者有り。
② 田中有株兎走觸株折頸而死。⇔ 田中に株有り。兎走りて株に觸れ、頸を折りて死す。
③ 因釋其耒而守株冀復得兎。 ⇔ 因りて其の耒を釈て、株を守り、復た兎を得んと冀ふ。
④ 兎不可復得而身爲宋國笑。 ⇔ 兎復た得可から不して、身は宋國の笑ひと爲れり。
といふ「語順」に対して、
⑤ 有耕者田宋人。 ⇔ 宋人に田を耕す者有り。
⑥ 田株有中兎走觸頸株折而死。⇔ 田中に株有り。兎走りて株に觸れ、頸を折りて死す。
⑦ 因耒釋其而守兎株冀復得。 ⇔ 因りて其の耒を釈て、株を守り、復た兎を得んと冀ふ。
⑧ 兎可不得復而國身笑爲宋。 ⇔ 兎復た得可から不して、身は宋國の笑ひと爲れり。
といふ「それ」の、「左辺の語順」は、「デタラメ」である。
然るに、
(04)
例へば、
④ 兎不〔可(復得)〕而身爲(宋國笑)。
に於いて、
④ 不〔 〕⇒〔 〕不
④ 可( )⇒( )可
④ 爲( )⇒( )爲
といふ「移動」を行ふと、
④ 兎不〔可(復得)〕而身爲(宋國笑)⇒
④ 兎〔(復得)可〕不而身(宋國笑)爲=
④ 兎〔(復た得)可から〕ずして身は(宋國の笑ひと)爲れり。
といふ「訓読」が成立し、
⑧ 兎可〔不[得(復)〕]而國(身笑〔爲[宋)〕]。
に於いて、
⑧ 可〔 〕⇒〔 〕可
⑧ 不[ ]⇒[ ]不
⑧ 得( )⇒( )得
⑧ 國( )⇒( )國
⑧ 笑〔 〕⇒〔 〕笑
⑧ 爲[ ]⇒[ ]爲
といふ「移動」を行ふと、
⑧ 兎可〔不[得(復)〕]而國(身笑〔爲[宋)〕]⇒
⑧ 兎〔[(復)得〕可]不而(身〔[宋)國〕笑]爲=
⑧ 兎〔[(復た)得〕可から]ずして(身は〔[宋)國の〕笑ひと]爲れり。
といふ「それ」が、成立する。
然るに、
(05)
① 宋人有〔耕(田)者〕。
② 田中有(株)兎走觸株折(頸)而死。
③ 因釋(其耒)而守(株)冀〔復得(兎)〕。
④ 兎不〔可(復得)〕而身爲(宋國笑)。
に於ける、
①〔( )〕
②( )( )
③( )( )〔( )〕
④〔( )〕( )
といふ「括弧」に対して、
⑤ 有[耕(者〔田)宋人〕]。
⑥ 田株(有〔中)〕兎走觸(頸〔株)折〕而死。
⑦ 因耒(釋〔其)〕而守(兎〔株)冀[復〕得]。
⑧ 兎可〔不[得(復)〕]而國(身笑〔爲[宋)〕]。
に於ける、
⑤[(〔 )〕]
⑥(〔 )〕(〔 )〕
⑦(〔 )〕(〔 )[ 〕]
⑧〔[( )〕](〔[ )〕]
といふ「それ」は、「括弧」ではない。
然るに、
(06)
に於ける、
① 二 レ 一
② レ レ
③ 二 一 レ 二 一レ
④ レ 二 一 二 一
といふ「正しい、返り点」に対して、
⑤ 下 三 上 二 一
⑥ 二 三 一 二 三 一
⑦ 二 三 一 二 上 一 下 中
⑧ 二 三 一レ 二 三 四 一
といふ「それ」は、「返り点」としては「デタラメ」である。
従って、
(03)~(06)により、
(07)
⑤ 有耕者田宋人。
⑥ 田株有中兎走觸頸株折而死。
⑦ 因耒釋其而守兎株冀復得。
⑧ 兎可不得復而國身笑爲宋。
といふ「デタラメなそれ」に対しては、「デタラメな返り点(括弧)」しか、付けることが、出来ない。
従って、
(08)
例へば、
① 宋人有耕田者 。⇔ 宋人に田を耕す者有り。
② 田中有株兎走觸株折頸而死。⇔ 田中に株有り。兎走りて株に觸れ、頸を折りて死す。
③ 因釋其耒而守株冀復得兎 。⇔ 因りて其の耒を釈て、株を守り、復た兎を得んと冀ふ。
④ 兎不可復得而身爲宋國笑 。⇔ 兎復た得可から不して、身は宋國の笑ひと爲れり。
に於ける、「左辺の語順」と「右辺の語順」は、「規則正しく、異なってゐる」。
然るに、
(09)
漢語における語順は、国語と大きく違っているところがある。すなわち、その補足構造における語順は、国語とは全く反対である。しかし、訓読は、国語の語順に置きかえて読むことが、その大きな原則となっている。それでその補足構造によっている文も、返り点によって、国語としての語順が示されている。
(鈴木直治、中国語と漢文、1975年、296頁)
従って、
(08)(09)により、
(10)
① 宋人有〔耕(田)者〕。 ⇔ 宋人に〔(田を)耕す者〕有り。
② 田中有(株)兎走觸株折(頸)而死。 ⇔ 田中に(株)有り兎走りて株に觸れ(頸を)折り而死す。
③ 因釋(其耒)而守(株)冀〔復得(兎)〕。⇔ 因りて(其の耒を)釋て而(株を)守り〔復た(兎を)得んことを〕冀ふ。
④ 兎不〔可(復得)〕而身爲(宋國笑)。 ⇔ 兎〔(復た得)可から〕ずして身は(宋國の笑ひと)爲れり。
に於ける、「左辺の語順」と「右辺の語順」は、「捕捉構造」として、「規則正しく、異なってゐる」。
従って、
(11)
① 宋人有〔耕(田)者〕。
② 田中有(株)兎走觸株折(頸)而死。
③ 因釋(其耒)而守(株)冀〔復得(兎)〕。
④ 兎不〔可(復得)〕而身爲(宋國笑)。
に於ける、
① 〔 ( ) 〕
② ( ) ( )
③ ( ) ( ) 〔 ( )〕
④ 〔 ( )〕 ( )
といふ「括弧」は、
① 宋人有耕田者。
② 田中有株兎走觸株折頸而死。
③ 因釋其耒而守株冀復得兎。
④ 兎不可復得而身爲宋國笑。
といふ「漢文」の、「捕捉構造」を表してゐる。
(12)
【有】[意味]① も‐つ。もっている ② あ‐る(‐り)。
(旺文社、高校基礎漢和辞典、1984年、424頁)
従って、
(12)により、
(13)
⑤ 我有兄=我 have 兄。
であるため、
⑤ 我有兄=我に兄有り。
に於いて、
⑤ 「有」は、「他動詞」と、「同じ語順」をとる。
従って、
(14)
① 宋人有耕田者=宋人に田を耕す者有り。
に於いても、
① 「有」は、「他動詞」と、「同じ語順」をとる。
(15)
⑥ 不可復得兎=復た、兎を得べからず。
であれば、
⑥ 「兎を」は、「他動詞の補語」であるが、
④ 兎不可復得=兎は、復た得べからず。
であれば、
④ 「兎は」は、「主題(topic)」である。