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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

学生の貧困から政治を考える(奨学金問題・ブラックバイト問題)

2018年10月27日 | 格差社会
  《奨学金問題》
 ◆ 1000万円以上の借財の学生が多数
   ~「金融」に堕ちた学生支援機構
(週刊新社会)
大内裕和(中京大学教授)


 ◆ 奨学金運動の始まり
 今から8年前、私は愛媛の松山大学に勤務していました。教職課程の科目を教えていましたので、奨学金の講義を行いました。受講生は100名位ですが、全くふだんと違いました。寝ている学生がゼロでした
 私はコメントペーパーを配って、講義についての質問書いてもらっています。学生はよく書くのですが、その奨学金の時には普段の2倍3倍でした。とくに驚いたのは、表で終わらずに裏にも書く学生もいました。
 自分の頃の授業料は年間30万円、奨学金は月2万円台でした。
 今は月に8万・10万・12万という学生が大量にいます。しかも100名の受講生のうち、約70名が利用していることがわかりました。
 3回目の講義の時、学生たちと討論しました。
 「不安で仕方がありません」「頑張って返します」「頑張っても返せないだろう」と。なんとかしたいのだったら「会」を作りなさいと言いました。
 私の講義の時間中に「愛媛大学学費と奨学金を考える会」は結成されました。この会は私の講演会や、奨学金についての学習会や学内でのチラシ撒きなど、様々な活動をし、現在の私の活動の原点になっています。
 ◆ 悪化の一途だった奨学金

 私は、2011年4月に愛媛の松山大学から愛知の中京大学に異動しました。この奨学金の問題の発見が遅れた世代間ギャップ解消のために第一関門は奨学金について日本育英会の時と、今の日本学生支援機構では完全に変わっているということ、このことを伝えることから始めました。
 一昨日、私のところに相談にきた名古屋の学生は、第1種と第2種の両方で18万4000円借りていて総額は1000万を超えていました。
 今年に入ってからこの18万4000円という相談は私のところだけで2桁を超えています。
 全国では、どれだけの学生が1000万円以上の借金を背負っているかということです。
 バーニーサンダースはアメリカでも170兆円の負債をかかえていると書いていますが、こういうことが日本中で起こっています。
 第二種奨学金は上限は大学院は15万円まで、法科大学院は22万円となっています。
 奨学金制度は悪化の一途をたどってきましたが、見事に資本主義の金融資本主義化と結び付いていると私は思います。
 有利子が導入されたのは今から34年前です。1984年に日本育英会法が全面的に変えられて初めて有利子枠が作られました。
 当時は、時代が今よりずっとまともでしたから奨学金に利子がつくのはなにごとかという極めてまともな反対運動がありました。
 しかし、その運動を無視して当時の与党自民党は有利子枠をつくりました
 2007年度以降は、銀行・証券会社の金融機関など民間資金の導入も始まりました。
 金融機関が奨学金という名前で金を貸し出して、大きな利益を上げています。日本は奨学金を貸与、さらに融資をやっています。
“奨学金返済が困難”
 奨学金は返済するものではないので、これは英訳できません。したがって私はスチューデント・ローンの返済困難と言いかえます。
 34力国のOEC加盟国の中で17力国が授業料ゼロ、16力国が給付型奨学金です。
 唯一、授業料有料かつ給付型の奨学金がないのは日本だけ、という設定をして、運動を作り、今年からは給付型奨学金を実現させていくというのが経過です。
 そこに、新たな問題が起こっていることが明らかになってきました。「ブラックバイト」問題です。
 ◆ 生活苦からブラックバイトで働く

 ブラックバイトとは、
  低賃金で働かせながら正規雇用労働者並みの義務を課し、
  授業など学生生活に支障をきたし、
  学生の人権を踏みにじる働かせ方です。
 この定義にしたがって大学生5000人に調査を行ったところ、70%がブラックバイトを経験しているというデータがありました。
 このようなことを強いられたり、未払い賃金があるとか、ノルマを達成できなければ買い取らされるなどの事実を話すと、誰もが「なぜ辞めないのか」という反応をしました。
 この反応一つで、今のメディアや一定以上の年齢の方が、今の学生のことを何も分つていないということが分ります。辞められるならブラックバイトではありません。
 なぜ学生生活の環境が、かつてとは全く違う劣悪なものになっているのでしょうか。
 一つ目は、大学生の貧困の深刻化です。
 仕送り額は以前のような月10万円台から大幅にダウンしています。仕送り額から家賃をひいて30で割ると、1日に使えるお金は1990年の2460円から、最近は790円です。一食300円の学生食堂すら使えないのです。
 ですから仕送りが5万円以下の場合、生活するために嫌でもアルバイトを辞められないのです。

 二つ目は、非正規雇用労働者の急増による労働現場の劣化です。
 1992年から10年で非正規労働者の割合が倍増し、全体の40%程度になっています。かつてのようにアルバイトが休んでも職場が成り立っていた環境は大きく変わり、休んだら職場に穴があくのです。
 いまやバイトリーダーやパート店長が当たり前です。これでは休めません。
 ブラックバイト問題は、まさに現在の労働問題の結果です。

 ◆ 法と運動でアピール

 労働弁護団と組んで無料冊子「ブラックバイト対策マニュアル」を作りました。ホームページからも無料でダウンロードできますし、意識のある高校や大学はこの冊子が置いてあります。
 その後ブラック企業問題と連動して組合ができ、ブラックバイト専門の弁護団ができました。
 奨学金が世界標準の給付型であれば、学生はこんなアルバイトをせずにすみます。ですから奨学金制度の改善は重要です。
 2012年に愛知県の大学生らによる「愛知県学費と奨学金を考える会」が作られ、その翌年、「奨学金問題対策全国会議」が結成され、国会でも野党中心に奨学金制度や日本学生支援機構に対する質問が行われるようになりました。
 このような運動で、延滞金賦課率10%から5%に削減され、返還猶予期限5年から10年へ延長されました。
 また様々な制度改善プラス無利子が増加し、有利子が減少しました。

 この傾向は今年まで続いています。まだまだ十分とは言えませんが、重要な変化であったと考えています。
 また、奨学金は本人の卒業後の仕事や収入が決まっていない段階で借りている訳ですから、救済制度がなければなりません。しかし、ほとんどありません。
 そのため私は法的整理を勧めています。また、連帯保証は返済の当てが確実でなければ人的ではなく機関保障を勧めています。
 ◆ 税制に社会的配分を念頭に

 私は2016年の参議院選挙の時に、給付型奨学金を争点にせよと言いました。それは初の18歳選挙権が行使できるので、給付型奨学金は学生にとって待望の制度だったからです。
 出生数が急速に減り、「再生産不可能社会」の到来です。単なる教育問題というよりは社会の在り方の問題です。
 給付型奨学金を実現するために財源をどこから持ってくるか、これがきちんとできれば、緊縮財政を基本とする新自由主義と対抗する政治勢力を作れます。
 しかし、税制に対する知識や社会的な配分について市民の考えはとても弱いのです。

 ◆ 消費増税ではなく富裕層に応分負担を

 経済的に厳しい家庭の子どもの進学を保障するのが奨学金ですから、消費税を上げるのではなく、経済的にゆとりのある階層からとるのが一番正しいのです。
 日本は財政赤字で大変だというキャンペーンがされている一方、純金融資産1億円以上の階層では、2000年83・5万世帯171兆円が、2015年には121・7万世帯272兆円と、年平均6兆円以上の増加をしています。
 私の提案は年間1・1兆円でできます。
 富裕層の富を削れというのではなく、富裕層の富の増え方をちょっと減らすだけで、すべての奨学金は給付型になるのです。
 私は本人に学ぶ意欲があるのに、経済的に貧困という理由だけで進学できないとか、勉強できないというのはおかしいではないですか、という言い方で世論形成をやってきました。
 それがある程度うまくいったから、今回の給付型奨学金の導入があったのではないかと思っています。
『週刊新社会』(2018年10月16日・23日)

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