《労働情報【時評自評】》から
◆ 参院選に現れた反転の手掛かり
この参院選では、改憲賛成の4党に無所属の賛成派を加えると3分の2を超える結果となった。この結果は、野党及び改憲に反対してきた市民にとって敗北である。
しかし、安倍首相や自民党が「自民党の改憲案をベースに」憲法改正の議論を始めることについては、公約違反、だまし討ちなど、ありとあらゆる批判を加えることが正当であり、世論の反発も予想される。
また、改憲勢力の中にカウントされている公明党がどのような対応をするのか、まだ分からないことだらけであり、敗北感に浸る状況ではない。
この選挙では、安倍政権の暴走を止めるための手掛かりがいくつか現れた。最大の手掛かりは、沖縄と福島で野党候補が現職大臣に勝ったことである。
政府に対して、さらに多数派の国民に対して、それらの地域の住民は、自らの尊厳を主張した結果だと、私は理解する。
沖縄や福島は例外的な犠牲の場所ではなく、これからの日本を暗示する先行事例であろう。安倍政権の経済政策や憲法改正が実現すれば、沖縄、福島両県民が押し付けられている不条理や苦しみを日本人の大多数が味わうことになる。
日本全体でも、格差の拡大と貧困の増加という深刻な病理が進行している。それにもかかわらず多くの投票者は、ひたひたとわが身に押し寄せる生活苦から目をそらし、また憲法改正の可能性について考えをめぐらせることもせず、アベノミクスなる呪文に踊らされて与党に投票した。しかし、本当に人々が困窮すれば、自民党への支持はなくなるだろう。
野党は一応踏みとどまった感があるが、勝てたのは野党協力が成った1人区であり、それぞれがバラバラで戦った比例区では議席を増やしきれなかった。
ここで野党の再編は不可避である。まず社会民主党は自らの命脈が尽きたことを自覚し、生活の党と合併して中道政党になるか、あるいはさらに民進党との合併により、民進党左派となる道を選ぶかの、いずれかの選択をなすべきである。
社民党には地方組織が残っており、民進党の弱い西日本、九州では合併の効果がある程度期待できる。革新の首座というノスタルジーに浸り、座して消滅を待つのは自己満足であり、それこそ護憲の路線に逆行する行為である。
今年の末からは、安倍政権がいつ解散総選挙を仕掛けてきてもおかしくない。野党は今回の1人区での協力の経験を土台に、衆議院選挙における協力の構図を描かなければならない。
その際、政権交代に備えた政策協力を作る必要がある。共産党には外交や安全保障の基本的枠組みを継承することや市場経済の土台を維持することなどを明確にしてもらう必要がある。その上で、社会保障と雇用を中心にした経済政策を打ち出して、普通の人が豊かになる社会のビジョンを示してほしい。
まとまれば勝てるという教訓を次につなげていかなければならない。
『労働情報 940号』(2016.8.1)
◆ 参院選に現れた反転の手掛かり
山ロニ郎(法政大学法学部教授)
この参院選では、改憲賛成の4党に無所属の賛成派を加えると3分の2を超える結果となった。この結果は、野党及び改憲に反対してきた市民にとって敗北である。
しかし、安倍首相や自民党が「自民党の改憲案をベースに」憲法改正の議論を始めることについては、公約違反、だまし討ちなど、ありとあらゆる批判を加えることが正当であり、世論の反発も予想される。
また、改憲勢力の中にカウントされている公明党がどのような対応をするのか、まだ分からないことだらけであり、敗北感に浸る状況ではない。
この選挙では、安倍政権の暴走を止めるための手掛かりがいくつか現れた。最大の手掛かりは、沖縄と福島で野党候補が現職大臣に勝ったことである。
政府に対して、さらに多数派の国民に対して、それらの地域の住民は、自らの尊厳を主張した結果だと、私は理解する。
沖縄や福島は例外的な犠牲の場所ではなく、これからの日本を暗示する先行事例であろう。安倍政権の経済政策や憲法改正が実現すれば、沖縄、福島両県民が押し付けられている不条理や苦しみを日本人の大多数が味わうことになる。
日本全体でも、格差の拡大と貧困の増加という深刻な病理が進行している。それにもかかわらず多くの投票者は、ひたひたとわが身に押し寄せる生活苦から目をそらし、また憲法改正の可能性について考えをめぐらせることもせず、アベノミクスなる呪文に踊らされて与党に投票した。しかし、本当に人々が困窮すれば、自民党への支持はなくなるだろう。
野党は一応踏みとどまった感があるが、勝てたのは野党協力が成った1人区であり、それぞれがバラバラで戦った比例区では議席を増やしきれなかった。
ここで野党の再編は不可避である。まず社会民主党は自らの命脈が尽きたことを自覚し、生活の党と合併して中道政党になるか、あるいはさらに民進党との合併により、民進党左派となる道を選ぶかの、いずれかの選択をなすべきである。
社民党には地方組織が残っており、民進党の弱い西日本、九州では合併の効果がある程度期待できる。革新の首座というノスタルジーに浸り、座して消滅を待つのは自己満足であり、それこそ護憲の路線に逆行する行為である。
今年の末からは、安倍政権がいつ解散総選挙を仕掛けてきてもおかしくない。野党は今回の1人区での協力の経験を土台に、衆議院選挙における協力の構図を描かなければならない。
その際、政権交代に備えた政策協力を作る必要がある。共産党には外交や安全保障の基本的枠組みを継承することや市場経済の土台を維持することなどを明確にしてもらう必要がある。その上で、社会保障と雇用を中心にした経済政策を打ち出して、普通の人が豊かになる社会のビジョンを示してほしい。
まとまれば勝てるという教訓を次につなげていかなければならない。
『労働情報 940号』(2016.8.1)
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