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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

10代の保守化の元凶は、文科省流の偏向教育

2022年01月04日 | こども危機
 ◆ 立民立て直しは「政府見解に偏しない主権者教育に転換」から (マスコミ市民)
永野厚男(教育ジャーナリスト)


NHKが公表した、「比例代表の自民投票は10・20代が高率」の衆院選出口調査

 2021年10月31日投票の衆院選で、自民党が単独で過半数、連立与党の公明党(加憲を主張)に、明文改憲の維新、〝前向き〟な国民民主党を加えると、衆参ともに改憲発議に必要な3分の2超という、保守勢力に超有利な議席数になった。
 「今回の結果をどう思うか」、NHK等の調査で有権者、とりわけいわゆる若者の保守化の傾向が顕著になっている。
 本稿ではその実態を具体的に紹介した上で、保守化(換言すれば、ナショナリズム・ミリタリズムを積極的に是としたり、容認したりする傾向)の原因を分析し、参院選に向け憲法を守り活かすリベラル派勢力、つまり改憲阻止に必要な3分の1以上の議席を着実に確保するための方策(対・国家権力の政策作りを含む)を、「教育」に絞って提言する。
 ◆ 冷厳な衆院選世論調査・出口調査結果

1 NHKは11月5日~7日、全国の18歳以上2092人を対象にRDD方式(コンピューターで無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話する)で世論調査を行い、1208人(58%)から回答を得た。
 11月8日のNHK『ニュース7』等が報じた、この調査結果は、今回の選挙結果に、
   ①与党の議席がもっと多い方がよかった10%、
   ②野党の議席がもっと多い方がよかった40%、
   ③今回の結果でちょうどよい41%、だった。

 ③は一見〝現状維持の中間層〟のように見えるが、今は与野党伯仲ではないのだ。冒頭の「自民党単独過半数、改憲勢力が3分の2超」という超保守化を、①③の計51%もの人が〝是〟と考えてしまっていることになる。
 また、18~39歳は③だけで54%なので、①を加えると、いわゆる若者の保守化は一層大きい数になる。②は「60 歳代の55%」等、比較的年齢の高い層が支えている。
 筆者が衆院東京21区(国くにたち 立市・立川市・日野市等)の複数の投票所の外で聞いた範囲でも、戦争体験者や終戦後の貧困下で育った70歳代後半や80歳以上の高齢層に「戦争への危機感。孫を戦場に送りたくない」等の理由で、②の立憲野党(立民・共産・れいわ・社民)に投票した人が一定数、いた。だが、10代は「自民に投票」がかなり多い。
2 11月7日・21日の『日曜討論』等でNHKが報じた「年代別に衆院比例代表の投票先を問うた出口調査」は、全年代で自民党が最も高いが、とりわけ10代は43%、20代41%、と高率だ(立民に投票の10~40代は10%台に留まる)。
3 前記衆院東京21区は、子どもの権利条例制定等に取り組むリベラルな生活者ネットワークの都議出身で、野党統一候補の立民・大河原(おおかわら)雅子氏が比例復活当選し、「自衛隊員だった父に誇りを持つ」と言う自民・小田原潔(きよし)氏(日本会議所属)が小選挙区当選。維新・竹田光明氏は落選した。
 この3人の政策の違いは、次の3つのNHK衆院選候補者アンケートから、リベラル・保守の違いが鮮明だ。
 (1)22年度予算概算要求で政府は軍事費5兆4797億円の巨費を計上したが、「日本の防衛力をさらに強化すべきか」との問いに、
   大河原氏は「強化する必要はない」、
   小田原氏は「強化すべき」、
   竹田氏は「どちらかといえば強化すべき」。
 (2)「核兵器禁止条約に政府はどう対応すべきだと思うか」に、
   大河原氏は「批准すべき」、
   小田原氏は「批准する必要はない」、
   竹田氏は「オブザーバー参加すべき」。
 (3) 「憲法改正についてどう考えますか」に、
   大河原氏は「反対」、
   小田原氏と竹田氏は「賛成」。

 衆院選で大河原氏と小田原氏は競(せ)り合っただけに、NNN(日本テレビ系)出口調査で、両氏は各年代30%台~50%台の投票率を得、竹田氏は1桁か10%台だ。
 ところが筆者が驚いたのは、10代だけは小田原氏「50%」、竹田氏「33%」(改憲勢力の計が83%)に対し、大河原氏は僅か「17%」だった。
 ◆ 文科省の主権者教育推進会議では、「異なる価値観、複数の考え方を授業で扱うのが民主主義」で合意したはず
 衆院選での若者の保守化の原因は、「マスコミの偏向報道」「自民・維新等による立民と共産党等の共闘バッシングと、腰の引けた反論しかしなかった(当時の)立民幹部」「連合新会長・芳野(よしの)友子氏の共産党アレルギー」以上に、社会科(高校は公民科)などでの教育の右傾化がある、と筆者は考える。
 旧西ドイツのボイテルスバッハ・コンセンサス(76年。政治教育の基本原則)は「学問と政治の世界において議論があることは、授業においても議論があるものとして扱わなければならない」と明記。
 この重要さは、文部科学省が2019年9月17日開催した主権者教育推進会議で、小玉(こだま)重夫東大教授ら委員が指摘。そして小玉教授は同会議で「バーナード・クリックの考え方」を紹介しつつ、「世の中に複数の価値観が争いごととして存在している社会は(民主的な)政治がある社会だけれども、争いごとのない社会は政治のない社会だ」「全体主義国家は、1つの政党が1つのドクトリンで国民をまとめ上げているので、異なる価値観とか、複数の考え方というものの存在を認めない」、一方、「非全体主義国家、全体主義ではない社会は、複数の考え方や複数の見方が存在していて、しかも、それがせめぎ合っていて争点を形成している、それが政治だ」(以上、文科省HPの会議録から。傍線は筆者)と明言している。
 現在、中学社会科教科書は自衛隊合憲論を量的に多く明記した上で、違憲論を併記している(育鵬(いくほう)社等を除く)。あくまで「併記」にもかかわらず、安倍晋三氏や下村博はくぶん文氏、自民党憲法改〝正〟推進本部長当時の細田博之氏(現衆院議長)らは、違憲論記述を執拗に非難・攻撃し続けている(『週刊金曜日』18年5月11日号拙稿)のは、小玉教授が指摘している「異なる価値観、複数の考え方の存在を認めない」に該当する、全体主義なのではないか。
 ◆ 10代の保守化の元凶は、文科省流の偏向教育

 文科省が「各学校の教育課程編成に大綱的基準として法的拘束力あり」と主張する学習指導要領も、前記ボイテルスバッハ・コンセンサスや小玉教授の前記発言に反する箇所が、少なからずある。
 同省は、08年改訂の中学社会指導要領の自衛隊を教える内容で、「国の防衛」に加え「国際貢献」も入れ、PKOや米国の軍事行動(戦争)支援での自衛隊〝派遣〟(いずれも武器を携行しての派兵)を、教科書に肯定的に記述させた。 また、小学校社会指導要領の「天皇への敬愛の念」植え付けでは、同省作成の『解説』が、国事行為以外(被災地訪問等)にも、児童に教え込む内容を広げてしまった。そして小学校音楽では2回前の改訂で〝君が代〟の所だけ「指導する」の前に「いずれの学年でも」を加筆したのにすら飽き足らず、今度は「歌えるよう」の文言まで加えてしまった。
 そして、15年に先行改訂した道徳指導要領では〝愛国心〟教化をそれまでの「小3以上」から「小1」に前倒しし、17年改訂の社会指導要領では、まだ都道府県を学習する段階の小4に、〝国の機関〟である自衛隊を前倒しし入れてしまった。また同年改訂の中学体育指導要領の武道に、選択とはいえ銃じゅう剣けんどう道(競技人口の大多数が自衛隊員)も加筆。更に幼稚園教育要領にまで、〝君が代〟に「親しませる」を入れてしまった。
 こういう文科省がミリタリズム・ナショナリズムを加速させた指導要領の一部改悪(同省はこれらの件では反対のパブコメを全て無視。当時の教育課程課長や教育課程企画室長が安倍氏側近の衛藤晟一(えとうせいいち)・自民党参院議員との面会後、入れたものもある)で育った世代が、有権者になっているのだ。
 立川市・日野市には米軍横田基地のオスプレイや自衛隊ヘリの飛行区域があり、「墜落の危険性や騒音問題への対処」を市役所に要請する市民が少なからずいる。このため筆者が前記・投票所外で聞くと「授業中や就寝時に騒音がうるさくて困る」と答える等、軍事力に批判的な10代・20代は一定数はいた。
 また近年、一部の高校の公民科ではアクティブラーニングで、選挙前に各党の平和・軍事政策(筆者は人間の安全保障は大賛成だが、軍事力による国家安全保障に反対なので、〝安全保障〟という語は使わない)を比較考察後、議論したり発表したりし、模擬投票する、等の授業を展開する教員もいる。
 だが、東京の公立小中高校等では、校長が全授業の指導案や配布プリントを点検できる体制下、指導要領通り、換言すれば自民・維新の政策通り、自衛隊増強・日米軍事同盟強化を「抑止力として是だ」と教え込む、安倍・文科省流の偏向教育をする教員は相当数おり、「国家体制や国家の政策に疑問を抱かない児童・生徒作り」が目的の〝愛国心〟〝君が代〟のindoctrination(教化)と相俟って、10代の大河原氏への投票率「17%」という数字が出てきた、と筆者は考える。
 同じ若者でも、就職・雇用・賃金(貧困・格差を含む)問題に直面する20歳代の大河原氏への投票率は、前記NNN出口調査で「46%」だ。小田原氏の「41%」を上回っており、立民の雇用・賃金政策は一定、評価されていると言える。
 立民は「野党共闘で政権を取れたら、リベラル派の議員を文科相に任命し、安倍氏が教育基本法改悪で入れた〝愛国心〟強制は削除。OECDの学びの羅針盤(Learning Compass)のwell-beingを実現するため、国家より個人の幸福の方が大切。指導要領のうち自民党政権下、政治色の濃い改悪をした箇所は、文部官僚に指示し改訂させ、教育委員会に周知します」と、参院選の公約に明記するべきだ。「軍事政策等で自民党に投票」を誘導する一部指導要領は、民主主義の敵だから。
月刊『マスコミ市民』(2022年1月号)

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